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拉致被害者5人の生還…あのとき横田夫妻は何を思っていたのか? - 横田滋、横田早紀江、聞き手/石高健次

北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの父、横田滋さんが、先日87歳で亡くなりました。生死もわからない娘の生存を信じ、行方を探し続けた滋さんと、妻・早紀江さん。2012年4月刊行の『めぐみへの遺言』は、その長きにわたる夫婦の闘いの日々をジャーナリストの石高健次さんが追った、涙なしでは読めない一冊です。追悼の意を込めて、本書の一部をご紹介いたします。

*   *   *

―――小泉訪朝の翌月、5人の拉致被害者が生還しました。その時、羽田空港のタラップ下で迎えられました。

早紀江 めぐみは死んだと言われていたけど、一緒に飛行機から出てきてくれたらいいのに! とずっと思っていました。隣にいた有本さんのお母さんに「娘さん、飛行機から出てきたらいいのにね」と言うとしみじみと「ほんまやね……」と言われました。有本さんの娘さんも死んだと言われていましたから、気の毒で。

 5人がタラップを降りてくる時に、飛行機のドアの方を見上げて泣いておられた。私も、有本さんの肩を抱いて泣いた。

 あの飛行機から降りる順番は、誰かが決めたのか? とよく聞かれましたけど、あれは、5人を迎えに行かれた中山内閣官房参与(当時)が、自然にあの順番になったと言われた。

 一番最初は地村保志夫妻で、奥さんの富貴恵さんがニコニコしながら降りてきた。あとで聞いたら、飛行機の窓からお兄さんら家族の顔が見えたので嬉しくなって真っ先に降りてきたと言ってました。次が蓮池夫妻で、最後が曽我ひとみさんだった。



早紀江 あの時一人で降りてきた曽我さんの、寂しそうな顔が忘れられない。彼女だけがたった一人だった。

 蓮池薫さんは、地上に降りてまず妹さんのところへ行った。それを見ていたお母さんのハツイさんが「どうしてうちの薫だけあんなに歳を取ってしまったんだろう!」と言ったんです。でも、考えてみたら、頭の中にはいなくなった20歳そこそこの大学生の薫さんしかないからしょうがない。奥さんの奥土祐木子さんは、いつも見ていたわけじゃないからそうは感じなかったのでしょう。他の人は会ったこともない。

 あくる日に、5人と宿泊先のホテルで話をしました。曽我さんは、「きのう平壌空港に行った時、夫のジェンキンスと娘2人が見送りで一緒だったんだけど、空港にはヘギョンさんが来ていて、本当に久しぶりに会いました」と言った。すぐにめぐみの子供だと分かったので、ヘギョンさんに「お母さんはどうしたの?」と聞いたら、「小さい時に亡くなりました」と答えたのでがっくりきたと。

 向こうは、日本側が拉致被害者と認識のなかった曽我さんを出すことで、被害者はこれで全部だとして終わりにできると思ったのでしょう。そこまで調査し捜し出したということで日本側も納得するだろうと。というのも、脱北者の証言で以前から誰とは分からないが、日本政府が知らない拉致被害者がいるはずだという噂があったから。



早紀江 曽我さんは、新潟から自分のお母さんと一緒に拉致されたわけだけれど、北朝鮮では、「お母さんは日本に居る」と言われていて、会うのを心待ちにしていた。しかし、日本へ向かう飛行機の中で、中山参与から「日本にはおられません」と聞かされてびっくりしたと言っていました。

 生きて帰ってくる人とめぐみのように帰れない人と、明と暗に分かれたんだけど、曽我さんの場合は、お母さんがどこでどうしているのかすら分からないから複雑だった。

 中山参与も言っておられたけど、5人は日本へは出張で行くと家族に言い残してきたらしい、だから、着替え程度しか持ってこなかったのです。

 曽我さんは、昔、引っ越しの時に、もう会えなくなるかもしれないからと、めぐみからバドミントンのラケットを入れる赤いスポーツバッグをもらったと言っていました。

―――あの、めぐみさんの尋ね人のポスター写真に写っているバッグですね?

 そうですが、あれは実際には持ったままいなくなったので、早紀江が友だちのものを借りてきて、それとよく似たのを買ってきて写真合成したものなのです。曽我さんは、その鞄を買い物に使っていたと。

早紀江 あんな派手な赤いバッグなど、買い物に持って行けるのかなと疑問に思った。

 北朝鮮は、ラケットやケースの写真を出してきた。「横田」という漢字が消してあるのだけど、裏から見たらはっきり読みとれる写真もあって、あれはショックでした。いなくなった時に、誰かがこれは要らないだろうとラケットケースは捨てたのではと思って、新潟で大型ごみの置き場所を調べてあちこち捜し回った。それが突然出てきたのだから。

 あるテレビ局が、ラケットケースの写真をヨネックスに持っていっていつの製造か調べたら、その頃のものに間違いないと確認できたと教えてくれました。

早紀江 本当に、鮮やかにあそこに居るんだということが判ったんです、あの時に。

※肩書きは当時のものです

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