記事

スポーツを苦しくさせる「根性論」のルーツをさぐる - 「スポーツぎらい」第3回

2/2

◇アスリートから研究者へ ——岡部さんと根性論

—— 岡部さんは、箱根駅伝も走られたアスリートだったんですよね。

そうですね。2年生、3年生と4年生で出場しました。

—— すごいですね。選手時代には根性論を批判的に見ていたのでしょうか。

いえ、自分自身はどっぷり根性論の世界にいました。競技特性もあると思います。長い距離を走るというのは、まず楽しくはないんですよ(笑)。

—— やっぱりそうなんだ……長年の疑問がとけました。

もちろん、エンジョイ思考でタイムも気にせずに走るのであれば楽しめると思います。しかし少なくとも競技としてプロのランナーが走る上では……楽しくはないと思います。長距離走は、耐える局面が非常に多いスポーツです。

BLOGOS編集部

自分が選手だった当時は、今のように科学的なアプローチで効果的なトレーニングをすることがそれほど浸透していませんでした。おそらく指導者は考えていたと思うのですが……。ですので、選手自身がひたすら走る量を積めば強くなるような短絡的な発想で練習をしてしまう。そして身体を壊してしまう。そういうことを自分自身も現役時代に繰り返していました。そうした思考を支えているのが、根性論なのではないかと考えたんです。

—— 岡部さんは、スポーツがお好きですか?

好きか? 嫌いか? と聞かれると、自分自身は大学に入って嫌いになりました。中学で長距離をはじめて、高校までは好きで走っている感覚があったのですが。

—— 大学のスポーツでは違ってきたと。

自分自身も周囲も納得できる結果が出せなかったからです。大学の陸上部では、「優勝しなければいけない」という感覚に捉われて、自分がこうしたいと思うことがどうしても後景化していきました。なんで自分は走っているんだろうと、いつも思っていましたね。

今でも覚えていることがあって、大学3年生の時に、アンカーの10区を任されたのですが、走っている時に、沿道から水をかけられたんです。

—— 水を?

いちおう名門と言われている伝統校だったので「こんな順位で走ってなにしているんだ」ってことですよね。私がタスキをもらった時点で、総合で15,6番くらいの順位で、シード権も取れない状況でスタートしました。お叱りの声の方が聞こえていた気がします。陸上競技は大学を卒業するまで続けて、引退しました。最後はいい関係で終われなかったかもしれません。

学生スポーツの花形、箱根駅伝 共同通信社

—— その後、研究者の道へ進まれたと。

引退してから何もしたくなくて、なにも進路が決まっていない状態でした。所属ゼミの先生を訪ねたら、「いい機会だから休んでもいいんじゃない」と言ってもらえて、スポーツについて、自分がやってきたことを振り返る意味でも、スポーツやスポーツ教育について勉強してみることを勧められたんです。本当は、学部生の時にそういうことを考えるべきだと思うのですが、部活ばかりの生活だったので。

卒業後は、学部生でも大学院生でもない1年があって、先生の研究室に机をおいていただいて、本棚の本を読んだりして過ごしていました。そんな中で、円谷幸吉の存在を知ります。走れなくなって、命を絶ってしまったマラソンランナーがいると。僕の実家と彼の実家が近いところもあり、「ちょっと似ているところがあるんじゃないの」と先生には言われました。

実はぼくにも、走れなくなった時期がありました。特にケガをしたわけではないのですが、朝練にも行きたくないし、とにかく身体が動かなくて、寮に閉じこもっていました。そうした経験があったので、円谷のメンタリティを知りたいと思いました。

円谷幸吉は、東京オリンピックのマラソン競技で銅メダルを取り、次のメキシコオリンピックで活躍が期待されていたものの、その目前で自死してしまいます。

彼はなぜ命を絶ったのか。彼の死について、彼自身の真面目な性格に原因があったかのように言われますが、僕は疑問です。パーソナリティの面よりも、社会的な要因のほうが大きく、当時のトップアスリートに向けられる期待や社会的圧力は、今の自分たちでは想像できないほど大きなものだったと思います。

東京オリンピックを走る円谷幸吉。日本のスポーツ史にかならず登場する人物だ。 共同通信社

彼の場合は、所属していたのが自衛隊であることもあり、国を代表する意識を否応なく持たされる環境下にいました。やはりスポーツの持つ論理が、彼を追い詰めたのだと思っています。

そして円谷さんの死を契機に、スポーツ批判が積極的に出てきます。「国のため」ではなく、「自分のため」に走ろうと、競技スポーツのあり方も再考されるようになっていきます。修士論文ではそれをテーマに論文を書きました。

◇押しつけの根性論から「明るい根性論」へ

—— 根性論は批判的に論じられますが、今日的な意味はあるのでしょうか。

一般的に言われている根性論は、批判的に捉えられていいと思います。他者から押し付けられるような精神論であればそれはナンセンスです。ですが、自分を積極的に変えていける、自己変容のメンタリティとして根性論を掲げるのであれば有用性があると思います。

今は状況に合わせて柔軟に対応できることを指す、「レジリエンス」という言葉が心理学の分野で流行していますが、それを根性論として捉えるのであれば、有用性はあるだろうと考えています。「明るい根性論」って言うのかな(笑)。

スポーツは、同じ自分ではいられない。例えば、テニスにしても、一球一球ラリーを続けるために常に自分を変えていかないといけません。常に自分を変えていくしんどさを、克服する。それが根性論的な、乗り越えていける力、精神力は今の時代でも必要とされるでしょう。

東京オリンピックで大島鎌吉さんが導入しようとした根性論にも、そうしたニュアンスがあったと思うんです。あの時代、敗戦を経験して、高度経済成長期に日本が世界に進出していく。これまでの自分たちを変えていき、困難な局面や課題を乗り越えていくような、新しい日本人の姿を意識していたのではないか。

写真AC

—— そう考えていくと、むしろ部活を辞めることこそが根性ですよね。ひとつのことをずっとやらせ続けるのはむしろ、根性論から離れているのではないでしょうか。

ええ、途中で辞めることって、すごい難しいと思うんですよ。だから今考えると、目標を持って一つのところで継続し続けた人たちだけが「根性がある」わけではなく、部活を辞めた人たちにも根性があると思う。そういう価値観に捉われずに、自分を積極的に変えて、新たなことにチャレンジしていきたいと思っているわけです。僕はいま陸上部に関わっていますけれども、もし辞めて新たなことにチャレンジしたいという学生がいたら、手放しで頑張ってほしいと送り出したいです。

現役時代に、1年生で入ってきてすぐに辞めてしまった同じ学年の部員がいるんですけど、いまはアナウンサーをしていて、障害者スポーツにも積極的に関わっている。彼はちゃんとビジョンがあって、そのためには競技を続けるのが難しくて、別のところでチャレンジをしたいと言っていた。根性ある感じがしますよね。

そう思うと自分はその場に居続けてしまった。負い目ではないけれども、そういう思いが強いですね。辞めたいなと思ってはいたけれども、結局は最後までいたなと。

—— 岡部さんは、正直なところスポーツが好きですか?

スポーツが好きか嫌いかでいうと、自分はもう好きではない。でも嫌いという立場で、スポーツに結局は関わっている。おそらくスポーツが嫌いだという人も、スポーツに嫌いという形で関わっていると思うんです。

その中でも、自分は問題点を指摘しないといけない立場だと思っています。でもそれは非常にしんどい。自分がどっぷりつかってきたスポーツを否定的に見ないといけない。「スポーツについて研究をし始めた当時は、スポーツをすることは自分のアイデンティティですから、自分で自分のアイデンティティを否定しなければいけなくて、すごくしんどい作業でした。

今からすると、本当に恥ずかしい話なのですが、現役のころは、走れたらもう死んでもいいなと思ってたんです。練習中に一人でジョギングしているときに、箱根駅伝が終わったら死んでもいいなと。本気で思っていました。

もともと走ることは好きだったんですよ。その魅力は忘れていません。ランナーズハイって本当に気持ちがいいんです。走ること自体は、本当は好きでいられたのに、競技で勝つことがスポーツだという価値観を持っていたので、それが出来なくなって、スポーツそのものから離れてしまった。円谷さんも、本当は、走りたかっただけなんだろうなと思うんです。

BLOGOS編集部

あわせて読みたい

「部活動」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    中国ダム決壊危機 世界的影響も

    郷原信郎

  2. 2

    GoToなぜ今か 政府は説明すべき

    青山まさゆき

  3. 3

    れいわ10万円配布案の効果に疑問

    猪野 亨

  4. 4

    松坂大輔が離脱へ 晩節汚すのか

    WEDGE Infinity

  5. 5

    発展に疲弊 シンガポールの若者

    後藤百合子

  6. 6

    感染拡大の裏に軽率さ 医師警鐘

    中村ゆきつぐ

  7. 7

    コロナ楽観予測報道はミスリード

    勝川 俊雄

  8. 8

    西村大臣 PCR陽性率は約5%に低下

    西村康稔

  9. 9

    河野大臣「朝日社説は誤解招く」

    河野太郎

  10. 10

    GoTo開始に国民は混乱「なぜ今」

    内藤忍

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。