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「東京にいながら8割引でMBA留学」沸騰するオンライン授業の最新事情

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コロナ禍をきっかけに普及したオンライン授業が、アメリカの大学でも広まっている。作家、エッセイストの新元良一氏は「厳しい経営事情もあり、オンライン授業は海外の学生を取り込むチャンスになる。例えば、日本にいながら海外MBA課程を受講できる大学も出てきた」という——。

ヘッドセットを付けた笑顔の黒人男性が自宅でeラーニング‎の授業を受けている

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

アメリカの大学はオンライン対応に「明暗」

新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、アメリカの日常も大きく変わった。ここニューヨークを含めて、その拡散防止のため自宅待機が地方の行政府から要請され、店舗やレストランから公共機関まで、多くの場所が閉鎖に追い込まれたが、大学もそのひとつである。

突然休校となった各大学は、学期の真っただ中でオンライン授業の開講を余儀なくされたが、学校によってその対応が異なることから、「明暗」が分かれたと言える。積極的にオンライン授業を推進し、これを機に、今後の大学のあり方や新しいビジネスモデルの可能性を見いだす大学がある一方、ある程度のオンライン授業は導入しつつも、景気後退を見据えて経営のテコ入れに舵を切る大学も少なくない。

推進派は「入学者を増やし、コストを削減できる」

そんな中にあって、ニューヨーク大学ビジネススクールのハンズ・タパリア准教授はオンライン授業の推進派だ。「大学の未来はオンラインにある。しかも安上がり」と題された5月25日付のニューヨーク・タイムズ紙の記事で、今以上にオンライン授業に重きをおけば、コロナウイルスの打撃からくる大学の経営危機も乗り切れると話す。

「これまでは、ほとんどの大学でオンライン教育は趣味的なものと見なされてきた。だがこのパンデミックが起こり、(事業の)代案となった。もし大学側が戦略的にこれを好機と見なせば、オンライン教育によって学生の入学は加速度的に拡大し、大規模な経営コストの削減が図れるだろう」

そう予想するタパリア准教授だが、すでにいくつかの大学では精力的にオンライン授業の導入を行い、学生たちからも好評を得ている。

音楽の授業もリモートで「合同コンサート」?

例えば、ニューヨーク大学アートスクールの演劇コースでは、バーチャル・リアリティを使った遠隔の授業運営を行っている。基礎的な指導を受けた受講生はその後、ヘッドフォンを装着し、他の学生とともにシナリオに基づいて演技し、それをネットで公開するシステムだ。

Zoom(ズーム)を使って演劇指導を担当するオーランド・パボトイ教授は、オンライン授業はまだ試験段階と位置づけつつも、「オンラインで実際に演劇指導できるのは、新たな発見だ」と、地元のニュース番組「NY1」で話す。

シリコン・バレーに近い西海岸のスタンフォード大学では、早い時期からオンライン授業に注目してきた。同大学で音楽を教えるクリス・チャフェ教授は、離れた場所にいても、複数の人間がともに演奏できる専用ソフトの開発研究を2000年ごろに始め、自身の授業に取り入れている。

「受講する学生には、このソフトを使って学んでもらう。合唱団と協力し、彼らにソフトの使い方を教えながらともにリハーサルをし、最終的には合同コンサートを目指す」

同大学のホームページでチェフェ教授はそう語り、音楽という専門教育を行うのと並行し、オンラインでのネットワーク操作や音響効果についても、ワークショップ形式で指導するという。

イリノイ大学はMBA課程をオンライン授業に

新しい形のオンライン授業に向け、それぞれの講座が独自に教育方法を考案し、導入する傾向は今後拍車がかかると予想されるが、これに先駆け、すでに確固たる土壌を築いている大学もある。

電子工学分野でトップクラスのジョージア工科大学は、コンピューター・サイエンスでの修士課程を2014年に開講している。対面方式の授業の6分の1にあたる7000ドル(約75万円)の授業料で修士が取得できる同プログラムは、受講者数が1万人近くに及び、コンピューター・サイエンスの専門課程としては、国内で最大規模にまで成長した。

米中部のイリノイ大学でも同様に、オンラインでのMBA課程を2016年に始めた。ビジネススクールの専門サイト、「ポエッツ&クアンツ」によれば、同大学の課程修了までの2万2000ドルという授業料は、他大学におけるMBAのオンライン授業の3分の1、名門大学のMBA課程と比較すると「微々たる」価格と伝える。

プログラムを立ち上げた当時、300人だった学生数は3年後に2600人にまで達したことを受け、すべての通学によるMBA課程を取りやめ、大学側は2019年、オンライン授業に切り換える方針を発表した。

通学形式と比べ8割引の授業料で受講できる

IMBAというこのプログラムについて、同大学ビジネススクールのジェフリー・R・ブラウン教授は大学のホームページで次のように話している。

「われわれは、日々忙しい人でもMBAが取得できる、いわば教育の民主化を目指している。このプログラムでは、現在の仕事や子育てを継続しつつ受講できる」

ちなみに名門と言われるインディアナ大学のビジネススクールでは、州内の住民であれば約3万ドル、州外からの受講者は5万4000ドルかかるが、これは1年間の授業料だ。通常ビジネススクールは2年間で修了となるので、全課程をこなすと倍の10万8000ドルがかかる。単純比較はできないが、8割引の授業料でイリノイ大学に留学できることを考えれば、オンライン授業がいかに安いかが分かる。

授業自体もそうだが、ビジネススクールに通う大きな目的として、将来を見据えての仕事のネットワークづくりが挙げられる。受講生同士のつながりに加えて、地域レベルで企業訪問をし、数日間通うことで当該の会社についてはもちろん、受講者が志望する業界全体に関しても学べるプロジェクトが組まれている。

「対面形式の授業が食われる」と懸念もあるが…

こうしたオンライン授業が推進されると、学内での授業運営のバランスが崩れるという声もある。受講料が格段に安いため、従来の対面形式の授業が食われてしまうという懸念だ。

「オンライン授業は、取り立てて対面型の授業の収益を奪ってはいない。すでに社会人となった学生が、スキルアップのために応募してくるように、逆に、これまでとは違う層が高いレベルの教育を受けやすい状況になった」と、批判的な意見に対し、先のニューヨーク大学のタパリア准教授は反論する。

その一方で、オンライン授業のさらなる浸透には、大学内での取り組みの充実化が必要と同准教授は指摘する。たしかに遠隔地にいる複数の受講生へ向けて同時に授業をするには、教室の設備を整えるとともに、教員側も操作方法の学習に加え、新たなカリキュラムの内容を考案し、実行することが求められる。

しかし実績を重ねていけば、大学はもとより、大学教員全体の資質の向上にもつながる。その好例として、今期だけでも13万4000人もの受講者を集めた、マサチューセッツ工科大学で設ける、無料で生物学の基礎知識を教えるオンライン講座をタパリア准教授は挙げ、教育方法など、同校以外の生物学の教授の多くがこれに追いつこうとしているという。

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