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河井夫妻が「カネで買収」の事実を認めようとしない本当の理由

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「なぜここまでの事件を起こしたのか」という素朴な疑問

6月18日、東京地検特捜部は前法相の河井克行衆院議員(57)と妻の案里参院議員(46)を公職選挙法違反容疑で逮捕した。2人には、案里議員が初当選した昨年7月の参院選で、地元議員ら94人に計2570万円を配って票の取りまとめを依頼した疑いがもたれている。法務大臣経験者の逮捕は戦後初めて。前代未聞の事件だ。

妻の案里参院議員の公職選挙法違反容疑で広島地検から地元事務所の家宅捜索を受けたことについて、記者の取材に応じる自民党の河井克行前法相(右手前)
妻の案里参院議員の公職選挙法違反容疑で広島地検から地元事務所の家宅捜索を受けたことについて、記者の取材に応じる自民党の河井克行前法相(右手前)=2020年1月15日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

今年1月以降、広島地検は河井夫妻の事務所など関係先を家宅捜索し、広島県議や広島市議らの名前と金額が書かれたリストを押収していた。その後、捜査は東京地検特捜部が主導している。

克行氏は広島県議を経て1996年に衆院議員に初当選。これまでの当選回数は7回で、首相補佐官や自民党総裁外交特別補佐などの要職を歴任。昨年9月11日には初入閣して法相に就任した。しかし同年10月31日、「週刊文春」に案里氏の参院選におけるウグイス嬢(車上運動員)への違法報酬疑惑を報じられ、2カ月足らずで法相を辞任した。案里氏は2001年に克行氏と結婚し、2003年の広島県議選で初めて当選した。その後、問題の参院選で初当選を果たし、国政に転じていた。

現金を配って票を集める行為が法律に違反することは子供でも分かる。立派な経歴を持つ夫妻は、なぜここまで悪質な選挙違反事件を起こしたのだろうか。

表向きは自民党の総取りだが、内実は「溝手潰し」だった

まず昨年7月の参院選の構図から見てみよう。

案里氏が出馬した参院広島選挙区は、2人区(改選数2議席)だ。この2議席を与野党で分け合い、自民党は東大法学部を出た地元名士で、参院自民党議員会長も務めた溝手顕正氏(77)が地盤を固めていた。

この溝手氏は安倍晋三首相と馬が合わなかったことが知られている。第1次安倍内閣時の2007年の参院選で自民党が惨敗すると、溝手氏は「首相の責任だ」と強烈に批判した。この批判が安倍首相に恨みを抱かせたようだ。

第2次安倍内閣の発足後の2013年の参院選で、安倍首相は「参院広島選挙区に自民党から2人の公認候補を立てて2議席を総取りする」として、事実上の「溝手潰し」を始めた。ただ、この参院選では、自民党は公認候補を増やさなかったので、溝手氏は再選できた。

その後、2019年7月の参院選で、安倍首相は自民党広島県連の強い反対を押し切り、広島選挙区の「公認候補の2人立て」を断行した。この「溝手潰し」の結果、6回目の当選を目指していた溝手氏は落選した。

「溝手潰し」のために妻を対抗馬にするという忠義の結果

「溝手潰し」の刺客として急浮上したのが、案里議員だった。昨年3月、自民党は案里氏をもう一人の公認候補として正式に決めた。それではなぜ、彼女に白羽の矢が立ったのだろうか。

夫の克行議員が安倍首相に信頼されていたからだろう。克行氏は第1次内閣のときから安倍首相を助けてきた。たとえば安倍首相が返り咲く2012年9月の自民党総裁選では、推薦人の1人として自民党内の支持者を取りまとめている。

さらに克行氏は溝手氏と同じ広島を地盤としており、現地の事情に詳しい。「溝手潰し」のために妻を対抗馬にするという忠義を尽くした結果、安倍首相は克行氏を法相という要職に取り立てている。

昨年7月の参院選では、自民党本部からは案里氏側に1億5000万円の選挙資金が出た。その金額は溝手氏陣営の10倍だった。さらに安倍首相は自らの複数の秘書を選挙戦に送り込んでいる。何が何でも案里氏を勝たせたかったのだろう。

自民党には毎年約170億円の政党交付金が配分されている。つまり選挙資金となった1億5000万円には、国民の血税が流れている。

安倍首相には、税金を使った買収を煽り、気に入らない候補を落選させている疑いがある。事実だとすれば、国民を愚弄している。検察はしっかりと捜査を進め、事実を追及してほしい。

いずれの問題も、政治権力が安倍首相と周辺に集中した結果

河井克行氏と案里氏は、なぜここまで地に落ちてしまったのか。

克行氏は、安倍首相の側近として「安倍1強」という政治権力を何度も目にしていた。安倍首相に多くの国会議員がひれ伏し、閣僚として内閣に組み入れてもらう。官邸主導で霞が関の官僚も手玉に取れる。「安倍1強」の前では怖いものなどない。そう考えるようになったのではないか。それは妻の案里氏にも強く伝播した。

昨年11月20日、安倍首相の在職日数が通算2887日に達し、憲政史上最長となった。

「もり・かけ問題」と揶揄された森友学園と加計学園の不祥事、安倍首相に近い人々だけが優遇される「桜を見る会」、政治と金の問題の発覚による主要閣僚の相次ぐ辞任、検察庁法改正の問題、検察ナンバー2の不祥事、そして今回の河井夫妻の逮捕。いずれの問題や事件も、政治権力が安倍首相と周辺に集中した結果だ。いわば「安倍1強」の落とし子なのである。

「安倍1強」では緩みや驕り、歪みが生じる。安倍首相はそれを自覚しているのだろうか。記者会見で安倍首相は「深い反省」という言葉をよく使うが、それが本当ならなぜこれほど問題が繰り返されるのだろうか。

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