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「ホスト狩り」の惨劇で治安最悪…クラスター集中の歌舞伎町は自粛警察も行かない

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なんか昨日からキャッチをボコってる

仕方なくハイジアの前に佇む数人に話を聞く。それにしてもいったい何者なのか、ここにはいつでも誰かが座っている。ここは交番が隣接しているので安心感がある。

ネルシャツにチノパンのラフな格好の男性、気だるそうにスマホを眺めている。何かあったのか尋ねる。

「なんか昨日からキャッチをボコってる」

目撃談ではなくSNSの情報とのこと。どうやら昨日の雨の中、ホストの客引き、キャッチやスカウトの類が手当り次第、ヤクザにお仕置きされていたようだ。

SNSはもはや何でも流れてくる。彼はコンビニの従業員で仕事の合間にここで休んでいるという。ちょっと服が濡れているが、構いやしないのだろう。

歌舞伎町はアウトローだけの街じゃない

「ホスト狩りなんて珍しくないけど、あんな大きいのは見たことないよ」

お礼を言って立ち去ろうとすると、先ほどの2人組と同じく注意してくれた。

「もう大丈夫だろうけど、気をつけて」

旧コマ前
旧コマ前(筆者撮影)

考えすぎだったか。確かに昨晩であらかた片付いてはいるのだろう。連中の狙いは早々に捕まって、土下座とちょっとのお仕置きで済んだとあとから聞いた。それでもまだ旧コマ周辺から風林会館あたりはヤバいらしい。あとは2軒あるバッティングセンター周辺か。この周辺はラブホテル街だが、その一角はホストの街に変貌した。休憩ということはこの男性も朝までコンビニバイトか。

「仕送り頼れないからさ、時給もいいし働いてんの。いま夜勤できるとこなんて限られてるしね」

なんと学生さんだという。危険地帯でコンビニバイト。確かに昔から歌舞伎町は学生バイトの街でもあった。服飾系は金がかかるのでキャバクラで働いている子もいたし、高田馬場の早稲田大学ではないほうの大学の女の子もいた。水商売だけでなくあらゆるチェーン店がしのぎを削る商業地域が歌舞伎町であり、なにもアウトローだけの街ではない。

日本政府ではない別の権力によって秩序が保たれている街

「(みんなが)言うほど危険じゃないよ。普段はなにもない。みんな金のために集まってるんだから」

6日の騒ぎで警察は多め
2020年6月6日の騒ぎで警察は多め(筆者撮影)

私も歌舞伎町に出入りして、もう30年になる。編集アルバイトの時代から歌舞伎町のサウナの世話になって28年、入稿の合間や徹夜明けには必ず歌舞伎町のサウナで雑魚寝だったが何をされた記憶もない。日本政府ではない別の権力によって秩序が保たれている、それが歌舞伎町だ。いつぞやの歌舞伎町浄化作戦など余計な混乱をもたらしただけだった。学生さんがつぶやく

「金欲しい。イケメンだったらホストやるのに」

ホストは容姿だけじゃないこと、私の知る某ホストクラブのナンバー2は小太りのおっさんだったことを告げると面白がってくれた。ただ学生がホストをやると中退してしまう人が多いので、やめといたほうがいいとも諭しておいた。彼は「冗談だよ」と笑った。危険地帯のコンビニバイト、そんな社会勉強くらいがいいだろう。男子学生が稼ごうと思うと意外と実入りのいいバイト先は少ない。

ホスト「コロナより店のが怖い」

彼と別れるとひとまず歌舞伎町の2つ星ホテルに入った。そのホテル、コロナの影響で客は1割も埋まっていないという。真新しくきれいで案内板も多国語対応、インバウンド目当てもあったのだろう。こんな一等地のホテルがタイミングもあるとはいえ一泊3000円とは。これだけ安いともう行きつけのサウナに用はない。

終電近くの新宿駅東口、以前よりは人も少ない
終電近くの新宿駅東口、以前よりは人も少ない - 筆者撮影

やはり私の取り越し苦労か(昨日夜には片づいていた)、ちょうど「終わった」のか、ホテルから戻ってみれば歌舞伎町は静かなものだった。風林会館の前にいたホストの男の子に聞いてみる。ぶっきらぼうに「終わったんじゃね」とのこと。警戒していないところをみると本当に終わったようだ。もう片づいた。目的が終われば撤収も早い。みんな慣れっこだ。怖くなかったかと聞いたが「別に」と一言。こうしてなんでもなかった人がいるのも歌舞伎町の面白さ。若い頃の私のように。

コロナどうよ? と話をそちらに向けてみるが、興味なさそうに携帯とにらめっこ。

「よくわかんね。ホスト誰も死んでないし」

確かにホストが死んだという話は聞かない。クラスターが発生だの、陽性が何十人だのという話はあるが、若いからか無自覚な者がほとんどで、死亡者どころか重傷者もいない。キャッチ狩り、スカウト狩りの被害者のほうが多そうだ。

「コロナより店のほうが怖えーよ」

自粛警察は夜の歌舞伎町には皆無

まだあどけなさの残る顔で少し笑ってくれた。若い彼にしてみたら、よくわからないコロナより勤め先のほうが怖いだろうし、ヤクザはもっと怖い。日々のノルマに上下関係、ヘタを打てば何をされるかわからない。それでも金が必要だ。さっきのコンビニバイトの学生さんと彼の年齢は同じくらいだろうが、この街にいる理由は同じ、とにかく金が必要なのだ。18歳で家を出て、2万円のアパート暮らしでスポーツ新聞社のアルバイト、あやしい金融新聞の記者、風俗新聞の広告営業を転々とした私にもよくわかる。夢とか以前にまず金が必要なのだ。とりあえずできることを見つけて食っていく。夢はあるが、夢を追う以前の現実と対峙する。歌舞伎町にいる若者は、メディアの伝える表層よりシビアに金を追っている。地に足をつけているどころか這いつくばって金を拾ってる。

キャッチ追放と自粛を訴えるも相手にされず
キャッチ追放と自粛を訴えるも相手にされず(筆者撮影)

終電が近くなり歌舞伎町はさらに人が減った。セントラルロードでいかにも弱そうなおじさんたちが「キャッチ行為はやめなさい」「コロナうんぬん」と録音した拡声器を持って佇んでいたが、それも深夜には撤収してしまった。東口には帰りを急ぐ人々。終電を過ぎれば花道通りを境にガラリと変貌する。見えない秩序が働いている。かつての私と同様、気にしない社会人や学生さんも好きなようにハメを外している。コロナなんか誰も気にしていない。暴力は正義で、金は何より勝る。人間の本性むき出しのこの街に、自粛など無力。それを証拠に、パチンコ業界ですら晒し者にしてみせた東京都も、店名ひとつ出せやしない。それこそネットで吠えてみても街になんか届かない。ボコられる覚悟で乗り込めばいいはずの自粛警察すら皆無。それが私の30年来恐れ、愛してやまない歌舞伎町である。

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日野 百草(ひの・ひゃくそう)
ノンフィクション作家/ルポライター
本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。ゲーム誌やアニメ誌のライター、編集人を経てフリーランス。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。近刊『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。
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(ノンフィクション作家/ルポライター 日野 百草)

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