記事

介護は「感情労働」。相手の生活の質を高める仕事は評価されるべきです - 「賢人論。」第115回(後編)水無田気流

1/2

新型コロナウイルス感染症は介護業界にも打撃を与えている。接触による感染リスクを理由に休職・退職する職員が増加、介護現場の担い手不足に拍車をかけているのである。近年、日本の福祉政策は施設介護から訪問介護へと舵を切った。しかし、介護職全般の人手不足は慢性化しており、ともすれば孤立しがちな介護者に影を落としている。社会学者・水無田気流氏の「賢人論。」、今回のテーマは「在宅介護」「少子化」──“本当に解決すべき問題”について語ってもらった。

取材・文/木村光一

在宅介護推進の前に、待遇改善と医療介護連携が先決

水無田 高齢医療や介護の脱施設化がトレンドとしてあるのですが、これは高齢化が急速に進行する中、「病床数を減らして医療費を削減したい」という政府の思惑を前提としたことでしょう。

国としては、旧来の性別分業モデルを前提に、世帯主とされる夫が働いて、妻が介護(ケアワーク)を分担すれば経済活動にもさほど影響はないだろうと考えているのでしょうが、現実はそうではありません。最近では主たる家族介護従事者の3分の1が男性だというデータもあり、仕事と介護の両立の難しさから、やむなく離職をするケースも増えています。

みんなの介護 働き盛りの男性の介護離職の問題ですね。

水無田 介護を必要とする親を抱えている世代は40代から60代。この世代は介護生活を終えても再就職は厳しく、そう遠くない将来に待つ自分自身の老後の経済不安にも直面します。これは個々の努力だけでどうにかできる問題ではないんです。

「住み慣れた我が家で、穏やかに息を引き取りたい」という願いはもちろん尊重されるべきです。しかし、それを叶えてあげるには在宅介護の環境整備はもちろん、訪問介護士などのケアワーカーの待遇改善や地域医療との連携などを推し進める必要がある。

現状、日本では医療従事者の地位の高さに比べ、ケアワーカーのそれはあまりにも低く、給与も全産業ベースの平均に比べて月額あたり11万円くらい安い。これでは在宅介護を支援するケアワーカーの担い手不足を解消するのは難しいのではないでしょうか。

ケアワーカーの専門性はもっと評価されてしかるべきで、医療従事者との連携も必要なのですが、現状ではそれほど重視されていないという指摘もあります。そのため、現場のケアワーカーが日々の介護の中で感じた“異変”が医師に正しく伝わらず、結果として治療方針などにもうまく反映できていない…などというのは、大変にもどかしい事態だと思います。

個々の介護環境も整っていなければケアワーカーの地位も確立されていない。医療との連携も機能しているとは言い難い。そういう状況の中でやみくもに在宅介護を推進するというやりかたは、あまりにも現実を無視していると思います。

専門性を認め、しかるべき職業訓練を行う。それが介護職の地位向上の第一歩

みんなの介護 介護職の地位がいっこうに低いままなのはなぜだと考えますか。

水無田 根本的には、「介護」が誰でもできる仕事だと思われているためでしょう。加えて新規参入の業者が多く、そこで働くスタッフも非正規雇用割合が非常に高いので、専門性を高めるための研修の機会なども不十分との指摘もあります。

ただし、雇用市場全体においても被雇用者の4割近くは非正規雇用。これは自己責任というより国が行った構造改革がもたらした結果といえます。

みんなの介護 水無田さんは「介護」という仕事の専門性はどこにあると捉えていますか。

水無田 社会学では介護のように相手に対して感情的な寄り添いや“共感”が求められる仕事を「感情労働」と呼んでいます。感情労働には、自分の感情をコントロールして、その都度で適切な感情を表出することが求められます。さらに介護は、ニーズに応じて身体的なケアも行うことで要介護者の生活の質を高めていくことが眼目です。

感情労働という観点から見れば、介護職は相手の感情に寄り添いつつ決して引きずられず適切なケアを施すという、高度な感情コントロール術とコミュニケーションスキルが求められる、とても専門性の高い仕事といえます。

ですが、そのようなスキルの専門性が認められておらず、しかるべき職業研修なども蔑ろにされている。まずはそこから改善すべきではないでしょうか。

あわせて読みたい

「介護」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    国際法秩序破る中国に世界的反発

    WEDGE Infinity

  2. 2

    橋下氏「熊本知事の後悔分かる」

    PRESIDENT Online

  3. 3

    河井氏問題巡る検察と朝日の癒着

    青山まさゆき

  4. 4

    供託金300万円没収も「勉強代」

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  5. 5

    東出の自虐発言に長澤まさみが涙

    女性自身

  6. 6

    自民党内「国賓中止はやり過ぎ」

    赤池 まさあき

  7. 7

    研究者に転身 いとうまい子の今

    NEWSポストセブン

  8. 8

    男子中学生と性交 40歳妻の素性

    文春オンライン

  9. 9

    小池知事が都民ファ切る可能性も

    舛添要一

  10. 10

    すごい展開 優樹菜に芸能界驚き

    SmartFLASH

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。