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なぜ、国ごとに差が出たのか。そして第二波がどうなるか。

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多い国と違い、ヨーロッパやアメリカ大陸の国がほとんど見られなくなり、アジアやアフリカの国がたくさん出てきます。ただし、アフリカ諸国はまだそもそも流行が始まっていない可能性があります。この「スナップショット」は「時間」という概念を完全に無視して累積患者数を人口で割っただけなので、解釈には注意が必要です。あと、少ない国で注目したいところでいえば、

タイ45

中国58

日本140

インドネシア164

ニュージーランド240

韓国242

マレーシア264

フィリピン268

といった感じです(ちなみに、このデータベースには香港は入っていません)。

 こうやって人口あたりの患者数だけをみると、決して日本だけが突出した「成功者」とはいえないことが察せられます。もちろん、欧米のような露骨な「失敗者」でもないでしょう。

 人口あたりの感染者数が特に多い国にアイスランドがあります。ベルギーよりも少し多い。感染対策が大失敗したと目され、首相が病院を訪問したときに病院スタッフが抗議目的で首相の車に背を向けたくらい、「大失敗した」と評されるのがベルギーです(Belgian hospital staff turn their backs on PM [Internet]. BBC News. [cited 2020 Jun 22]. Available from: https://www.bbc.com/news/av/world-europe-52699962/coronavirus-belgian-hospital-staff-turn-backs-on-pm-sophie-wilms)。

 実はアイスランドは「COVID-19対策の成功者」と考えられています。本稿執筆時点で10人しか死亡者を出していないからです (With testing, Iceland claims major success against COVID-19 - The Mainichi [Internet]. [cited 2020 Jun 22]. Available from: https://mainichi.jp/english/articles/20200504/p2g/00m/0in/056000c

 なぜ、アイスランドで死亡者が少ないのか。特別な治療法がアイスランドに存在するのか。おそらく、そうではありません。これは一種の「分数のマジック」です。

 つまり、アイスランドは徹底したPCR検査の駆使により、軽症者や無症状者をどんどん診断し、隔離していったのです。軽症者無症状者の多くは自然に治癒しますから、死亡リスクは高くありません。片っ端から調べれば感染者数は増えるのですが、「そこは問題ではない」。

 一方、人口あたりの感染者数はアイスランドより少ないベルギーですが、死亡者は多かった。確定感染者数あたりの死亡者はアイスランドはほぼ0に近いのですが、これに対して、ベルギーではなんと16%にまで至ってしまいました。両者の差は歴然としています(https://ourworldindata.org/mortality-risk-covid?country=BEL~ISL#the-case-fatality-rate)。

 こう考えてみると、感染者数や人口あたりの感染者数では、各国の対策の「適切さ」はうまく理解できないことが分かります。成功者アイスランドと失敗者ベルギーの区別もできないのですから。

 そもそも、日本のように検査数をかなり抑えた国だと、多くの感染者を見逃していたであろうことが容易に推察されます。

 最近になってあちこちで抗体検査が行われるようになりました。抗体検査についての説明は別の場所に譲りますが、「過去の感染総数」を知りたいときに使うのが抗体検査です。これをみると、概ね抗体検査で推定される日本の総感染者数は、PCR検査で確定した累積感染者数よりも一貫して多いです。「どのくらい多いのか」についてはいろんな議論が必要ですが、「日本でのPCR検査の確定例は、感染者数を過小評価している」という点においては識者の見解はまず100%一致しているものと思います。

 いずれにしても、感染者数は国の評価にはイマイチなようです。よって、より大事なのは

「死者数」

になります。が、死者数も人口の影響を受けますから、分数にする必要があります。すなわち、

「人口あたりの死者数」

です。多くの場合、

「感染者あたりの死者数」

が感染症評価の指標になることが多いのですが、先に述べたように感染者数はあまり当てになりませんから(とくに日本の場合は)、間違いの少ない「人口あたり」にするのです。

 では、人口100万人あたりの死亡者数を多い順にみると(https://ourworldindata.org/covid-deaths 閲覧同日)

サンマリノ1,237(小数点以下切り捨て、以下同様)

ベルギー836

アンドラ673

英国627

イタリア572

スウェーデン500

フランス453

アメリカ361

オランダ355

アイルランド347

ペルー238

エクアドル238

ブラジル235

チリ224

カナダ222

スイス194

ルクセンブルク175

メキシコ161

ポルトガル161

モナコ127

モルドバ115

と続きます。サンマリノはイタリア半島の東側にある人口3万人程度の小さな国です。イタリア同様COVID-19に苦しめられています。現段階では42名の死者数ですが、人口3万しかいないので、42は大きいですね。ぼくの生まれ故郷の島根県宍道町がざっくり人口1万人弱なので、そのインパクトはイメージできます。

 低いほうで主だったところをあげると

ブータン0

カンボジア0

ラオス0

モンゴル0

チモール0

ベトナム0

ミャンマー0.11

台湾0.29

スリランカ0.51

ネパール0.76

中国3.22

マレーシア3.74

オーストラリア4.00

シンガポール4.44

ニュージーランド4.56

韓国5.46

日本7.53

フィリピン10.49

 流行が始まっていない、あるいは小規模なアフリカなどの国は除いていますが、どうですか。もろに傾向の違いは分かりますね。要するに、

欧州・南北アメリカ大陸

で、やたら死亡リスクが高く、

アジア

で低いのです。

 この傾向の違いは、人口100万あたりの死亡数が二桁も違うため、露骨です。

 死亡率のように数値のデータ、「男、女」みたいに2つ(あるいはそれ以上)にわけない数字のデータを「連続変数」などということがあります。

 連続変数の評価は、「優劣そのもの」よりも「両者の違いがどれくらい露骨か」が比較の決め手です。ベルギーと日本の人口あたり死亡数には100倍以上の違いがあります。これくらい露骨に違うと、面倒くさい統計計算なんかしなくても、「ベルギーのほうが多い」ことはほぼ断定できます。

 例えば、韓国と日本の人口あたりの死者数は相対的には小さいものです。簡単な統計計算をすると、両者の違いは(俗に言う)「統計的有意差」はあります。けれども、臨床的な差は小さいのでぼくらは「両者はそんなに違わない」と判断します。もう少し正確に言うならば、「韓国と日本のCOVID-19の人口あたりの死亡者数の臨床的な差はベルギーと日本のそれに比べれば遥かに小さい」という言い方になるかもしれませんが。

 いずれにしても、うまくいっていない国とうまくいっている国の違いは、人口あたりの死者数をみるとかなり露骨です(ただし、これから流行が起きるかもしれない国を単純に勘定には入れられないので、そこは注意が必要です)。そして、いろんなデータを見てきましたけど、少なくとも

「日本だけが特化して新型コロナウイルス対策でうまくいった」

と断言するデータはどこにもありません。日本を「成功者」と判定するなら、そして、そのように判定してもよいとぼくは判断するのですが、それは日本「だけ」の属性ではなく、

日本を含むいろんな国、特にアジア・オセアニア

の特徴として、判断せねばならないのです。

 さあ、そういう考え方をすると、いくつかの仮説が除外できると思います。例えば、

「日本人は家に入るとき靴を脱ぐから感染者が少ないのだ」

という説を耳にしたことがあります。確かに、靴の裏にはウイルスが付着している可能性がありますので、靴を脱げば靴からの感染リスクは減らされると、直感的には思えます。

しかし、上記のように

「日本以外の国々」

も成功者にカウントするならば、日本固有の文化である靴を脱ぐ、が全体に与えるインパクトはほとんどないか、極めて小さなものであろうことも推察されます。

 ぼくがお手伝いをしているCOVID-19指定医療機関ではレッドゾーンに入るときに靴の履き替えはしませんし、シューカバーもしません。別のところでも説明しますが、防護具(PPE)は着れば着るほど安全、というのは素人目線の間違いでして、PPE着用下での感染リスクは「脱ぐときのウイルス付着」が大きいのです。シューカバーをすれば、それを脱がなければなりません。暑いうっとうしいPPEを来て医療行為をすると、汗だくになり、ヘトヘトになります。感染のストレスもとても強いです。そんな心身への過大なストレスで疲労困憊しているときに、かがんでシューカバーをとりはらう行動そのものがウイルスに触ってしまうリスクになるのです。

 ほとんどの場合、接触感染は手から起きます。もちろん、例外はありますが、例外はあくまで例外です。ウイルスは自ら飛行能力を持ちませんから、靴の裏についたウイルスは空を飛んでみなさんの口や鼻には入っていきません。靴の裏を触るとか、床を舐めるとかするとウイルス感染のリスクですが、そういうことをしなければまずまず問題にはなりません。

 事実、基礎医学の研究では靴にウイルスが付着する可能性は指摘されていますが、実際の疫学研究などで靴からCOVID-19感染はほとんど報告されていません。

 「頻度」の概念は非常に非常に大事です。基礎医学研究のデータをそのまま臨床現場の判断に使ってはいけない、と我々は厳しく教えられますが、それは基礎医学研究のデータがしばしば「極端な例外的な環境下」で行った実験だからです。理由は簡単で、極端にしたほうが結果が出しやすいからです。だから、カジュアルに喋っているときの飛沫の影響よりも、大声で騒いだり歌っているときの飛沫の影響を調べる傾向にあります。

 よって、基礎医学の実験データを解釈するときは、

「こういうことがまれに起こりうる」

のか、

「こういうことがしばしば起きる」

のか、

「こういうことは常に起きている」

のかをきちんと区別して解釈する必要があります。

 また、

「ウイルスがどこどこに存在する、飛散する」



「それが実際に感染を起こしうる」



「それが、現実にあちこちで感染を起こしている」

は区別しなければなりません。微生物=感染症、ではありません。「感染しうる」=「感染している」でもありません。

 というわけで、屋内では靴を脱ぐ日本の習慣こそがCOVID-19対策の「決め手」ではないことが、容易に想像できます(わずかに寄与している可能性は否定しません)。同じ根拠で入浴習慣など「日本人の習慣」はあまり関係ないか、少なくとも決定的要因ではないと思います。

 同様に、「日本人は声が小さい」とか「握手をしない」といった習慣も「決め手」ではなさそうです。ぼくのささやかな経験では、かつて住んだり訪問してきた国、、、、中国本土や香港の人たちは概ね声が大きいですし、韓国の方も日本人より大きい印象を持っています(ここは印象論なので間違ってたら教えて下さい)。

 ハグやキスの習慣はどうでしょうか。これは、もしかしたら多少の影響はあるかもしれません。ただし、オーストラリアやニュージーランドは感染対策の「成功国」と考えられますから、英国のコモンウェルスの一員であるこうした国が、英国本国やカナダと「ハグやキス」で決定的な違いを生んだとはちょっと考えにくいです。まあ、両国ともに先住民族がいますから、ここでも断言はできませんが。ニュージーランド在住の感染症医、青柳有紀先生にマオリ族のハグやキスの習慣については今度教えてもらおうと思っています。

 マスクはどうでしょう。よく言われるように、欧米では健康な人がマスクを着用する習慣がありません。病気になったら休みますし、日本のように風邪の症状に苦しみながらゴホゴホ、マスク着用で通勤したりはしないでしょう(今は日本でもそんなことはしないでしょうが)。

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