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「一度支援すれば止められない」文在寅を悩ませる北朝鮮のタカリぶり

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カネで買った南北首脳会談

2000年6月の史上初の南北首脳会談は、対北朝鮮事業を推進した韓国の大財閥・現代グループを通じて行われた。金大中大統領が会談の開催に合意したのは、総選挙の3日前。首脳会談を選挙に利用したわけだ。なお、盧武鉉政権時代の2007年に第2回南北首脳会談が開催されたのも、大統領選挙の目前だった。

しかし、史上初の南北首脳会談から2年もたたないうちに、首脳会談を「カネで買った」との疑惑が持ち上がる。

韓国の保守系雑誌『月刊朝鮮』は、2002年5月号で米国議会調査局が作成した「米韓関係報告書」をもとに「南北首脳会談のため、政権は韓国の情報機関・国家情報院を使って香港、マカオなどの金正日の秘密口座へ“分散入金”を行った」と報じた。金額は4億5000万ドル(約480億円)だった。

これは、現代グループが北朝鮮での事業のために北朝鮮側に支払った巨額の現金とは別のもので、この事実はその後、韓国の特別検察の調査でも明らかになる。

韓国政府は2010年12月2日、金大中・盧武鉉両政権当時、北朝鮮に送金された資金の総額が29億812万ドル(約3099億円)に上るとの集計結果を発表した。これは同時期に、中国が北朝鮮に支援した19億ドル(約2030億円)の約1.5倍に相当する。

敵対行動があっても融和策を推進した

南北首脳会談とは別に、1998年と2000年で3度にわたって、現代グループの鄭周永名誉会長(当時82歳)ら一行が南北境界線の板門店から陸路で北朝鮮を訪れた。この訪問には、牛1001頭や自社製の乗用車などを「上納金」として携えていた。

当時の韓国世論は「金剛山観光」や「牛1000頭を手土産に里帰り訪問」(鄭名誉会長は現在の北朝鮮出身)といった情緒的な南北交流イメージやマスコミによる盛り上げもあって、それほど反対意見は出ていなかった。つまり、和解ムードが大勢を占めていたのだ。

韓国政府は、2度にわたる北朝鮮潜水艇侵入事件(1996年・1998年)などの北朝鮮の敵対的な態度にもかかわらず、一方的な支援・協力が長期的には金正日政権を開放・改革に導くとする楽観論に立っており、「政経分離」による対北融和策を維持、推進した。

しかし、北朝鮮は韓国に対する敵対的な姿勢を崩さず、政府間対話をかたくなに拒否し続けた。これについて、保守系紙「朝鮮日報」などの対北強硬派や保守層を中心に「太陽政策」は北朝鮮の体質を知らない楽観論だという批判が起きた。

2000年代後半からは制裁が強化された

盧武鉉大統領の後任である李明博(イ・ミョンバク)大統領(2008~2013年)は、外信のインタビューで、「過去10年間、(北朝鮮に対して)巨額の支援を行ったが、それらは北朝鮮社会の開放に使われることなく、核武装に利用された疑いがある」と発言した。

保守指向を示した李明博政権・朴槿恵(パク・クネ)政権(2008~2017年)では、「太陽政策」は放棄され、北朝鮮に対する制裁が強化された。

2010年に起きた、北朝鮮軍による韓国海軍の哨戒艦「天安」爆沈事件と、黄海上の韓国領の島である延坪島(ヨンピョンド)に対する砲撃事件に対応して制裁措置を取ったのだ。翌年、金正日(キム・ジョンイル)総書記の急死により権力を継承した金正恩が、核とミサイル開発を本格化したことで、国連主導の国際制裁も強化された。

韓国政府は2017年9月21日、南北交流協力推進協議会を開き、国連児童基金(ユニセフ)や世界食糧計画(WFP)を通じた北朝鮮に対する800万ドル(約8億5500万円)相当の人道支援実施を決めた。これが文在寅政権下では初となる援助だ。

800万ドルの支援に1年9カ月を要した

そして2018年の平昌冬季オリンピックを契機に、南北関係は10年ぶりに和解ムードに転じた。3回の南北首脳会談と2回の米朝首脳会談に続き、2019年6月には板門店で文在寅大統領、金正恩国務委員長、ドナルド・トランプ米国大統領という3者が会合する歴史的な出来事もあった。

ところが米国は、北朝鮮の非核化に相当な進展があるまでは制裁を緩める考えはないという点を明確にした。

それでも韓国政府は2019年12月6日、世界保健機関(WHO)を通じて北朝鮮に500万ドル(約5億3400万円)を人道目的という名目で支援することにした。同年6月に国際機関を通じて800万ドルの支援を行ってから半年もたたないうちに、再び北朝鮮の支援に乗り出した。

6月に行われた800万ドルの支援とは、前述した2017年9月に決定したものだ。文在寅政権発足直後に決定した支援は、北朝鮮が6回目の核実験を行った影響で、国内外の世論に配慮し執行が先送りされてきた。それから1年9カ月を経て、ようやく執行されたというわけだ。

このように、文在寅政権の北朝鮮への支援は小規模かつ小出しという感が否めない。この点に北朝鮮は腹を立てたのだろう。

最終的な目的は経済支援の獲得

韓国では今回の一連の北朝鮮の行動を、南北問題の解決に向けた積極的な努力を促すメッセージとする見解もある。

確かに、北朝鮮は米国や韓国との交渉に先立って強硬な態度に出ることが多い。今回の南北共同連絡事務所の爆破と、今後予想される軍事行動も最終的には経済支援の獲得を目標としたものと断言していいだろう。

文在寅政権の中途半端な融和政策を破壊し、南北関係をリセットし、ゼロから交渉を開始することで、交渉の過程で韓国側の譲歩を勝ち取り、経済支援を得る戦術なのだ。

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宮田 敦司(みやた・あつし)
元航空自衛官、ジャーナリスト
1969年、愛知県生まれ。1987年航空自衛隊入隊。陸上自衛隊調査学校修了。北朝鮮を担当。2008年、日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了。博士(総合社会文化)。『北朝鮮恐るべき特殊機関 金正恩が最も信頼するテロ組織』(潮書房光人新社)などがある。
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(元航空自衛官、ジャーナリスト 宮田 敦司)

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