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人類は脳を小さく進化させた

最近、改めて人類の進化に関する本をよく読むようになった。

改めて、というのは、10年20年前に同じマイブームがあったから。アウストラロピテクスからホモ・サピエンスにつながる進化の歴史が面白くていろいろ読みあさったのだ。

満足してしばらく離れていたが、ここ10数年の間に人類史の研究はすばらしく進んだ。新化石の発見が相次ぎ、新種もは続々と。単に形態だけでなく、生活や知恵までわかる遺跡も見つかっている。
そしてインドネシアのフローレンス島で、ホモ・フロレシエンシスが見つかった。これは、いわば小人種だ。身長1メートルあまり。一貫して身体を大きく進化させてきた人類が、いきなり小さくなった!という新種発見に私は驚いた。人類進化の根幹が変わる。そこでまたも関連書を読み込んだわけである。

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いずれの本もそれぞれ興味深かったのだが、とくに「絶滅の人類史」で驚くべきことを知った。

それは脳味噌の容量の変化だ。

たとえばチンパンジーは、約390ccだ。

初の直立二足歩行をして人類へと分岐したとされるサヘラントロプス・チャデンシスは約350㏄。むしろ小さくなっている。が、これぐらいなら誤差範囲か。

アウストラルピテクス・ガルヒは、約450㏄。少し後のアウストラロピテクス・ボイセイは約500㏄
同じ頃のホモ・ハビリスは509~680㏄
ホモ・ルドルフェンシスは790㏄
ホモ・エレクトゥスは時代によって変異が大きいが約1000㏄とされる。

そして、ホモ・エレクトゥスから生まれたホモ・ハイデルベルゲンシスは約1100~1400㏄となった。
そこからヨーロッパに渡って進化したホモ・ネアンデルタールは、平均で約1550㏄に達している。なかには1740㏄を越える個体もある。これは人類史上、最大の脳を持つ。
ところが、アフリカに残ったホモ・ハイデルベルゲンシスから誕生した我等がホモ・サピエンスの古い時代は、約1450㏄だ。つまり、ネアンデルタール人より小さい。そしてそして、現在の人類の平均は1350㏄なのである! 

なんと、ホモ・サピエンスは、脳を小さくしたのである。また身体もネアンデルタール人より華奢だ。

ちなみにホモ・フロレシエンシスは、ホモ・エレクトゥス(ジャワ原人)から進化したようだが、脳は400㏄とチンパンジー並。ジャワ原人の半分以下だ。知能がどうだったかはまだわからないが、少なくても5万年前までは生き延びていた。ほとんどホモ・サピエンスが誕生して広がった時代と重なっているのだ。人類は大きくなるばかりではなかったのである。

仮説として、脳はエネルギーを使いすぎるからではないか、と推測がある。脳は、ほかの器官より圧倒的にカロリーを食う。そのカロリーを得るためにはのべつなしに餌を探して摂取しないといけない。植物質を食べる動物(シカなど)は起きている間中餌を食べている。

ところが肉を食べることになると、短時間に栄養摂取が可能になったことで動きを俊敏にしたという。それが脳を大きくしてもよい下地ができた。
人類も、枝葉から木の実・豆・芋などでんぷん質やタンパク質を取るようになり、そして動物質の餌を得て脳を大きくすることができた。ところがネアンデルタール人ほど脳を大きくすると、やはり栄養摂取が大変になる。しかも身体も筋肉質だった。筋肉もカロリーを消費する。これでは食物探しに時間が取られて、文化・文明を発達させる余裕がない。事実、ネアンデルタール人は、初期の頃につくった石器を絶滅近くの時代までに、ほとんど改良することがなかったという。

そこでホモ・サピエンスは、脳を小さく身体も華奢にしたんじゃないか……。そんな仮説を立ててみる。食物を探す時間が短くてすめば、生活を工夫する余裕もある。打製石器から摩製石器、さらに刃物のような鋭利な切れ味を持つ細片石器を発明し、さらに使い方も棒に尖った石器をつけることで槍を生み出した。獲物を取るのが格段に効率的になる。

一方で、脳が小さくても効率的に思考できるようにした。その手段は、まず言語だ。言語を獲得することで抽象的概念を描けるようになり、脳が小さくても思考力が高まったわけである。言語はコミュニケーション能力を高め、共同作業をより高度にする。かくしてネアンデルタール人などを圧倒するようになった……。

まあ、これは仮説だ。何の証拠もない。しかし、脳が大きければ知能も高くなるとは限らないようだ。量より質、なのである。脳を大きくする進化は、もうピークをすぎて、今後は小さくしていくのがトレンドかもしれない。それでも思考力を高める方向に進化するだろう。

ひたすら脳を大きくして、エネルギーを大消費する動物は、結果的に小回りが効かず、未来は危ういかもしれない。何事も、みかけの大きさ、量よりも、いかに効率のよい肉体・思考力を持つかが決め手ではなかろうか。

今後は、もっと頭を小さくしていくかもしれない。思考は言語を越えたイメージで行うようになり、足りない部分はAIなどで補って生きていく未来人を想像してしまう。たとえば記憶データの蓄積や、データの検索・比較なんぞはAIに任せて、小さな脳の人間は、示された結果から最終判断だけを担う……そんな未来図を描くと、果たして人間にとって幸福なのか、不幸なのか。

もはや仮説や考察というより、想像の世界ではあるが、あまり明るい未来が浮かばない。


ホモ・フロレシエンシス(国立科学博物館)

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