記事

優秀な若者ほど日本に留学しない「嫌日外国人」が増えている背景

1/2

新型コロナウイルスの影響で働き口を失い、困窮する留学生が相次いでいる。その背景には高額な学費を課しながら、卒業証明書すら発行しない悪質な日本語学校の存在がある。ジャーナリストの出井康博氏は「酷い留学実態は新興国に広まっており、留学先として日本を敬遠する『嫌日』外国人が増えている」と指摘する――。

就職情報大手マイナビが開催した「外国人留学生のための就職セミナー」を訪れた外国人学生ら。主催者は昨年の同イベントより来場者が多いと話す(東京都新宿区の新宿NSビル)

就職情報大手マイナビが開催した「外国人留学生のための就職セミナー」を訪れた外国人学生ら。主催者は昨年の同イベントより来場者が多いと話す(東京都新宿区の新宿NSビル)=2019年3月13日 - 写真=時事通信フォト

日本語学校で横行する人権侵害

新型コロナウイルスの感染拡大は、日本で暮らす外国人にも大きな影響を与えた。とりわけ被害を受けたのが、約34万人に上る留学生たちかもしれない。アルバイトを失い、経済的な困窮を強いられている者も少なくない。

ただし、留学生たちが日本で直面する苦難は、何も新型コロナだけが原因ではない。彼らに対する搾取の構造が存在し、酷い人権侵害までも横行しているのだ。

その一例として、筆者が今年初めから取材を続けた日本語学校「A校」で起きた問題について書いてみよう。

A校は留学生に対し、大学や専門学校への進学や就職に必要な「卒業見込み証明書」や「出席・成績証明書」の発行を拒んでいた。「卒業試験」を実施し、「不合格」となった留学生には、希望する進学や就職を認めないというのだ。

日本語学校は卒業しても学位は得られず、従って「卒業試験」を実施する必要などない。にもかかわらず、A校は試験を課した。しかも証明書を出さないために、試験後に合格点まで引き上げていた。理由は「学費稼ぎ」である。

日本人なら問題視されるケースなのに

A校の経営者は、専門学校も運営している。その専門学校に日本語学校の留学生を内部進学させ、学費を稼ぐため、他校への進学などを妨害したのだ。結果、多くの留学生が「内部進学」もしくは「母国へ帰国」という選択肢しかなくなった。

想像してもらいたい。日本人の学生が予備校に入学したとしよう。そして受験が近づいた頃、予備校が突然、受験を認めず、系列の専門学校への内部進学しか許さないと言い出す。そんなことは日本人相手には起きようがない。仮にあっても、学生や保護者たちが一斉に声を上げるだろうし、新聞やテレビもニュースで取り上げ糾弾する。行政も学校に対し、厳しい処分を下すに違いない。だが、留学生に同じことが起きても、世の中には知られず、行政も全くの知らん顔なのだ。

学費稼ぎのために内部進学を強要

A校系列の専門学校に在籍する60数名の学生は皆、留学生である。内部進学者を含め、日本語能力を問われず入学した者ばかりだ。こうして学費稼ぎのため、語学力を問わず留学生を受け入れる学校は、全国でどんどん増えている。

文部科学省が2019年4月に発表した調査によれば、学生の9割以上を留学生が占める専門学校は全国で101校、全員が留学生という学校も45校に上っている。日本人学生が集まらず、留学生で生き残りを図っているのだ。

そうした学校も通常、日本語学校の証明書なしには入学は認めない。大学や専門学校は、留学生たちの学費滞納と失踪を最も恐れる。その点で、日本語学校の「卒業見込み証明書」は学費を支払っていた証しとなる。また、「出席証明書」に記された授業への出席率によって、失踪の可能性を測ることができる。

A校では、多くの留学生が、仕方なく系列の専門学校への内部進学に応じた。その大半はベトナム人とネパール人である。彼らの多くは、150万円前後にも及ぶ留学費用を借金して来日している。A校に在籍した1年半から2年間では、借金すら返済し終えていない者も少なくない。そのため簡単には帰国するわけにはいかない。そうした事情を知ったうえで、A校は留学生たちに内部進学を強要した。

証明書を発行してもらえず大学に行けない

そんな中、内部進学を拒否し、母国への帰国を決めた留学生がいる。ベトナム人のタン君(仮名・25歳)だ。

タン君はベトナム南部、ロンアン省の出身だ。地元で医療系の専門学校を卒業し、南部の大都市・ホーチミンの病院で介護の仕事に就いた。給与は月4万円ほどで、物価が急騰しているホーチミンでは生活に余裕はなかった。

「日本に行けば、お金持ちになれる。だから留学することにしたのです」

タン君は2018年7月、A校の留学生として来日した。だが、「お金持ち」の夢はA校によって潰されることになる。

A校を卒業後、タン君は大学への進学を望んでいた。大学や専門学校の授業を理解するには、最低でも日本語能力試験「N2」レベルの語学力が求められる。タン君は2つ下のN4すら合格していない。借金返済のため、アルバイトに追われる生活が影響してのことだ。彼に限らず、新興国から借金漬けで来日する留学生に共通する状況である。事実、タン君の同級生のベトナム人留学生には、N2合格者は1人もおらず、N4に至っても少数だった。

「だけど、入学試験を受けなくても進学できる大学はありました。でも、A校が証明書を発行してくれなかったので、進学はできなかった」

コロナで入国制限中も帰国を急かすA校

タン君は今年3月、A校を卒業した。そしてベトナムへの帰国準備を進めていた頃、新型コロナウイルスの感染が拡大し、帰国が困難になった。

それでもA校は、タン君に帰国を急かした。卒業生が日本に留まり、不法残留となれば、入管当局から学校側が責められる。新入生を受け入れる際、入管のビザ審査が厳しくなり、経営に悪影響が出てしまう。そのことを恐れ、帰国を急かすばかりか、母国へ戻るまでは「卒業証明書」も発行しない。A校に限らず、日本語学校の間で常態化している手法だ。タン君が言う。

「インターネットで検索すると、ベトナム便のチケットは4月でも売られていました。でも、実際に運行されるかどうかは分からない。しかも値段が片道で20万円以上もするんです」

日本とベトナム間の航空券は、オフシーズンであれば往復5万円程度で買える。しかもこの頃、ベトナムは自国民を含め、外国からの入国を実質止めていた。にもかかわらず、A校は航空券を購入させようとした。

タン君の留学ビザは4月下旬に在留期限を迎えることになっていた。そこで彼は最寄りの入管である東京出入国在留管理局宇都宮出張所を訪れ、在留期間を延長してくれるよう求めた。しかし入管もまた、航空券が販売されていることを理由に延長を拒んだ。

あわせて読みたい

「留学」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    都の感染急増 表面だけ報じるな

    青山まさゆき

  2. 2

    綾瀬はるか交際報道 相手は憔悴

    女性自身

  3. 3

    関西のテレビが東京と違うワケ

    放送作家の徹夜は2日まで

  4. 4

    医師が「コロナ慢性感染」の仮説

    中村ゆきつぐ

  5. 5

    木下優樹菜が引退 事務所の証言

    文春オンライン

  6. 6

    山本太郎氏は独自路線を自重せよ

    猪野 亨

  7. 7

    低所得者層の支持率高い小池知事

    木走正水(きばしりまさみず)

  8. 8

    738票届かず 小野氏は供託金没収

    鈴木宗男

  9. 9

    投票率上げる活動に感じた虚無感

    たかまつなな

  10. 10

    小池氏2選で怒り 自民は何してた

    やまもといちろう

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。