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人口減少時代の住宅選び――新築から中古へ、持ち家から賃貸へ - 吉永明弘 / 環境倫理学

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「どんな住まいがエコなのか」(要約)

2014年に『都市の環境倫理』を刊行してから、環境倫理学のなかで都市問題を主に研究してきた。その間、一貫して「都市は集住と公共交通の利用によってエコに暮らせる地域である」と主張している。それに付随して、エコな住宅の形態について考察した論考「どんな住まいがエコなのか――「都市の環境倫理」再論」をシノドスに発表した(https://synodos.jp/society/18874)。

そこでは戸建て住宅よりも集合住宅のほうがエコな住宅であることを、いくつかの論者の議論を引用しながら述べた。そのなかで、産廃Gメンとして名を馳せた千葉県職員の石渡正佳氏の「エコハウス」に関する主張を紹介した。

石渡氏は、巨大な建築のほうが環境性能が良いと言う。体積が大きくなればなるほど、表面積の割合が小さくなっていく。住宅の表面積が小さければ、資材も少なくて済むし、エアコンの電力も節約できる。それに対して、低層の戸建て住宅をたくさんつくった場合、住宅の表面積の割合が増え、それゆえに資材とエアコンの使用量がかさむことになる。現在の日本ではエコハウスと称して低層戸建て住宅をたくさんつくっている。これはエコとはいえない。本当のエコハウスは集合住宅なのだ、というのが石渡氏の主張である。

ここから私は都市に集合住宅をつくって住むことの環境上のメリットを主張したのだが、だからといってタワーマンションのような高層集合住宅こそが唯一解だと言いたいわけではない。中層のテラスハウス(長屋)の建設やシェアハウスの推進という選択肢がありうるからだ。このあたりは都市のビジョンの問題になってくるだろう。

他方で石渡氏は、いわゆる「田舎暮らし」でもエコになりうることを示唆している。昔ながらの大家族居住の大屋根建築(いわゆる古民家)であれば、居住空間当たりの表面積が小さく、さらには茅葺き屋根なので断熱効果が抜群に良いという。これは近年盛んになっている古民家の保存と利用を後押しする見解といえよう。

「人口減少社会」なのに「住宅過剰社会」

結局のところ、前回「どんな住まいがエコなのか」で述べたのは、郊外に低層戸建て住宅を新たにたくさんつくることはエコの点から見て最悪だ、ということに尽きる(「郊外」に住むことのデメリットは、自動車依存になるということだ。公共交通の整備された都市のほうが資源節約的である)。この論点はあまり話題になっていない。むしろ近年では、「人口減少社会」に突入して空き家が増加しているのに新規の住宅建設がやまないという点について、多くの研究者が問題視している。

例えば野澤千絵『老いる家 崩れる街――住宅過剰社会の末路』(講談社現代新書、2016年)では、「世帯数を大幅に超えた住宅がすでにあり、空き家が右肩上がりに増えているにもかかわらず、将来世代への深刻な影響を見過ごし、居住地を焼畑的に広げながら、住宅を大量につくり続ける社会」を「住宅過剰社会」と呼んでいる(3頁)。ちなみにここで印象的な「焼畑的」という表現について、著者は「伝統農法としての焼畑ではなく、収奪的に森林を焼き、無計画に開墾を繰り返す営利目的の農法」という断り書きを入れている(10頁)。実際、郊外の住宅地開発のようすを見ると、この意味での焼畑的という表現が妙にしっくりくる。

「住宅過剰社会」という問題意識は、メディアでも共有されているようだ。2019年12月27日の日本経済新聞朝刊の一面トップは、「人口減時代に居住地拡大:増加面積、10年で大阪府の規模」という記事だった。記事によると、「日本経済新聞が直近の国政調査を分析したところ、郊外の宅地開発が止まらず、2015年までの10年間で大阪府に匹敵する面積の居住地域が生まれたことがわかった。かたや都心部では空き家増加などで人口密度が薄まっている。無秩序な都市拡散を防がなくては、行政コストは膨れ上がる」(https://www.nikkei.com/article/DGKKZO53865730X21C19A2MM8000/)。

同記事には、「新たな居住区面積の上位15自治体」として、上から、つくば市、長岡市、いわき市、浜松市、宇都宮市、鉾田市、石巻市、新潟市、岡山市、宮崎市、北杜市、宮古島市、二本松市、神戸市、上越市の名前が記されている(なお、つくば市、長岡市、浜松市など7つの市はコンパクトシティー計画を持つという)。

この記事から、多くの都市でスプロール化が止まっていないということが分かる。しかも人口減少により中心部では空き家が増加している。この問題を考えるにあたって、記事では神戸大学の砂原庸介教授のコメントが紹介されている。ここで砂原氏は「中古住宅の流通が重要」として新築中心の政策からの転換を訴えている。

日本では新築・持家という選択が「制度」化されている

この砂原氏の主張をきちんと理解するには、氏の著書『新築がお好きですか?――日本における住宅と政治』(ミネルヴァ書房、2018年)を読む必要がある。砂原氏によると、日本では新築住宅を持家として取得するという選択が「制度」化されており、賃貸住宅に住み続けるという選択は「制度」からの逸脱として実質的に制裁を受けることになるという。

ここでの「制度」とは個人の自由な選択の範囲と、逸脱した選択を行った場合の制裁などを定めたもので、法律から習慣までを広く含むものとされている(14-15頁)。つまり日本では新築・持家を選択することが有利であり、中古住宅・賃貸を選択することが不利になるような法的・社会的・経済的なしくみができあがっているということだ。

この本では、そのような制度がいかに成立していったのかが緻密に論じられる。そのなかで、日本では政府が中古住宅・賃貸を支援するどころか、むしろ新築・持家の取得を助長するような役割を果たしてきたことが示される。本の終盤では、空き家の増加と、災害による住宅の被害に対応するためには、政府の積極的な介入が必要だが、持家社会においてはそれが困難であることが指摘される。読んでいくうちに、日本の新築・持家取得の選好や、郊外の住宅地開発の流れは容易には変えられないと思えてくる。

しかし著者は最後に、「政府が人口減少という変化を捉えて、これまでとは異なる人々の行動を促すような政策を適切に行うことができれば、『制度』は変わるかもしれない」と言う(223頁)。その政策とは、新築住宅の建設を抑制し、中古住宅市場を育成するために、「少なくとも短期的には今よりも新築住宅を購入する費用を高めて、他方で中古住宅や賃貸住宅にかかる費用をより低くする」ような政策である(225頁)。ここまで見てくると、先に紹介した新聞記事のなかで、砂原氏が「中古住宅の流通が重要」とコメントしたことがよく理解できる。

都市がゴミになるのを防ぐために

実はこのような中古住宅市場の育成という提案は、先に紹介した石渡氏によってすでになされていた。石渡氏は2005年に『スクラップエコノミー』(日経BP社)という本を刊行している。書名からは分かりづらいが、この本のメインテーマは都市と住宅である。産業廃棄物問題に長く取り組んできた石渡氏の目からは、現代日本の都市と住宅が巨大な廃棄物に見える。「他の廃棄物が、『都市から生み出される廃棄物』だとすれば、建築系廃棄物は『都市それ自体の廃棄物』であると言える」(49頁)。

「日本人1人当たりのゴミ発生量は、1日約1キログラム、1年間に約400キログラムになる。80年間で32トンである。……実は、戸建て住宅の重さは、ちょうど一生分のゴミの量と同じ30~50トンである。住宅を一度でも解体したことがある人は、一生分のゴミを一度に出したことになるのだ」(50頁)。石渡氏によれば、現在のように25年で家を建て替えることは、文字通り住宅をゴミにしている。それに対して、「私たちが、イギリス並みに住宅をいまより3倍長く使うようになれば、建設系廃棄物の発生量は3分の1になり、不法投棄をやろうにも捨てるものがなくなってしまうに違いない」(50頁)。

近年では日本でも「100年住宅」ということが言われているが、「人は100年生きないのだし、少子化で子供が親の家を住み継いでくれるかどうかわからないのだから、100年住宅を実現するには、住宅を中古市場で流通させることがどうしても必要である」(98頁)。

そして住宅を長持ちさせることは、住宅の資産価値を守り、結果的に都市を持続可能なものにする。「都市のサステイナビリティは、古代人が考えていたような帝国の永遠性からではなく、住宅と都市の価値の持続性から積み重ねていかなければならない。個人の住宅の資産価値が保全されることによって、その総体としての都市の価値が保全され、経済の持続性や資源の持続性につながり、それが都市の記憶として、ひいては歴史として永遠に引き継がれていくのである」(92頁)。これは都市がスクラップになっていく現状に対抗して石渡氏が示した「持続可能な都市」のビジョンといえる。

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