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ドイツに根強く残る「人種差別」日本も「差別禁止法」制定を - 熊谷徹

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「ジョージ・フロイド殺害事件」に端を発した人種差別に対する抗議は、6月6日、ドイツ・ミュンヘンでも行われた (C)AFP=時事

 米国での「ジョージ・フロイド殺害事件」をきっかけに、人種差別に対する抗議運動はドイツにも広がった。

 6月6日にはミュンヘンで約2万5000人の市民がケーニヒスプラッツという広場に集結し、8分46秒にわたり膝を地面に付けて、警察官の暴力に対する怒りを表現した。8分46秒というのは、ミネアポリスの路上でフロイド氏が呼吸困難に陥り意識を失ってもなお、白人警察官に膝で首を押さえつけられていた時間である。

 この日ベルリンでも約1万5000人、ハンブルクでは約1万4000人がデモに参加し、ドイツ全国で合計10万人の市民が人種差別主義に抗議した。

4人に1人は外国人か外国系ドイツ人

 多数の市民がデモに参加した理由は、ドイツにも人種差別が厳然として残っているからだ。しかも2015年の難民危機以来、この国では極右による暴力事件の数が増え、人種差別的な思想を持つ右翼政党への支持率が急激に伸びた。肌の色や出身地、宗教による差別は、ドイツでも撲滅されていない。

 アンゲラ・メルケル首相は6月4日に放映された『第2ドイツ放送(ZDF)』のインタビューの中で、

「ジョージ・フロイド殺害事件は、恐ろしいことだ。人種差別の表れだ。だがドイツにも人種差別はあり、我々がやらなくてはならないことは多い。ドイツ人も自分の国の中の差別をなくすよう努力するべきだ」

 と語っている。

 もちろん大半のドイツ人は人種差別を糾弾しており、異なる文化や慣習を尊重している。外国人の友人や顧客が多く、違う文化圏の人とも分け隔てなく付き合うドイツ人は多い。しかしこの国の一部の市民の間に、差別的な態度が残っていることは事実だ。

 ドイツで最も激しく人種差別にさらされているのは、トルコ人やシリア人などのイスラム教徒だ。

 ドイツ連邦統計局によると、2018年末の時点で、この国には2080万人の「移民的背景を持つ市民」が住んでいた。移民的背景を持つ市民とは、外国人および帰化した外国人、あるいはドイツに住む外国人の親から生まれたが、18歳になった時にドイツ国籍を選択した「外国系ドイツ人」のことだ。つまりドイツの人口の25.5%。ほぼ4人に1人は外国人か外国系ドイツ人なのである。

 外国人の内、最も多いのがトルコ人で約148万人。ドイツは1950年代以降、労働力不足を補うためにトルコから多数の労働移民(ガストアルバイター)を招聘し、彼らの大半はトルコから家族を呼び寄せ、この国に永住した。イスラム教国であるトルコ人、シリア人、アフガニスタン人、イラク人の数を合わせると約273万人に達する。

ゴミ処理に使われる言葉で

 イスラム教徒には、極右の暴力の矛先が最も頻繁に向けられている。

 1992年にはシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州のメルンでネオナチがトルコ人の住む家に放火し、母親と2人の娘が焼死した。翌年にはノルトライン・ヴェストファーレン州のゾーリンゲンでの放火事件で、トルコ人5人が殺された。

 2011年には、旧東ドイツのネオナチによる連続テロ事件が明るみに出た。「国家社会主義地下組織(NSU)」というグループが、2000年から7年間にミュンヘンやハンブルクなどで外国人ら10人を殺害。犠牲者の内8人がトルコ人かトルコ系ドイツ人だった。犯人たちはトルコ人の商店が多い通りで爆弾テロを起こしたこともある。

 今年2月にはヘッセン州のハーナウで、極右思想を持ったドイツ人がシーシャ・バー(中東に多い水タバコを吸わせる店)に乱入し、移民的背景を持つ市民9人を射殺したが、大半がクルド人やボスニアヘルツェゴビナからのイスラム教徒だった。

 ドイツ連邦内務省によると、極右が移民的背景を持つ市民を狙って起こした犯罪は、2001年から2018年までに108%増加した。特にメルケル政権がシリア難民ら約100万人を受け入れた2015年には、この種の犯罪が前年の2.2倍に増えている。

 2017年に初めて連邦議会入りした右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」には、人種差別的な発言をためらわない党員が多い。同党がフェイスブックやツイッターで流すメッセージは、イスラム教徒を敵視したり揶揄したりする内容に満ちている。

 2018年にザクセン・アンハルト州支部長だったアンドレ・ポッゲンブルク氏はAfDの集会で、

「トルコ人は駱駝(らくだ)を追って生活する遊牧民なのだから、ボスポラス海峡の向こう側の一夫多妻制と粘土の小屋がある地域へ帰ればよい」

 と発言した。

 また2017年に、トルコ人労働移民の娘である連邦議会のアイダン・エゾグズ議員は新聞に寄稿した文章の中で、

「ドイツの文化は、様々な文化圏からの移民が形成したものだ。このため、ドイツの指導的文化という考え方は、妥当ではない。ドイツ語を除けば、ドイツ的な文化というものは、見つけられない」

 と書いた。これに対しAfDのアレクサンダー・ガウラント院内総務(当時)はテューリンゲン州で行った演説でこう言った。

「このトルコ系ドイツ人をテューリンゲン州に招いて、何がドイツ文化であるかを教えてやりなさい。その後、彼女はここに2度と来なくなる。そうすれば、我々は幸いなことに、彼女をアナトリア(トルコ東部)に片付ける(entsorgen)ことができるだろう」

「片付ける」というのは、ふつうゴミの処理などに使われる不穏当な言葉だ。

壊れつつあるタブー

 AfDの人種差別の対象はイスラム教徒に留まらない。ガウラント氏は、ガーナ人の血を引き、アフリカ人のような外見を持つドイツ人の有名なプロサッカー選手についても、

「彼が隣の家に引っ越して来たら、喜ばない人が多いだろう」

 と言ったことがある。

 ドイツの町では毎年12月に、バイエルン州など南部で「クリスト・キントルマルクト(幼な子キリストの市場)」と呼ばれ、クリスマスの飾りや菓子などを売るクリスマス市場が開かれる。

 ニュールンベルクのクリスマス市場は、ドイツで最も有名なものの1つだ。ニュールンベルク市当局は毎年、同市に住む少年・少女から、祇園祭のお稚児さんのような、祭りのシンボル役である「クリストキント」を選ぶ。去年11月には、17歳のベニグナ・ムンズィさんがクリストキントに選ばれた。ムンズィさんの母親はドイツ人、父親はインド人だが、ドイツ国籍を持っている。

 これについてAfDバイエルン州支部は、フェイスブックにムンズィさんの写真を載せ、

「ニュールンベルク市は、新しいクリストキントを選んだ。いつの日か我々も米国のインディアンと同じ運命をたどるだろう」

 と書き込んだ。AfDは、「クリスマス市場という伝統的な催し物に、ドイツ人とインド人の混血の市民が選ばれるようでは、我々白人のドイツ人は、外国系ドイツ人の増加によって、将来インディアンのような少数民族にされるだろう」と批判したのだ。

 AfDは、ドイツで生まれ、ドイツ語を話し、ドイツ国籍を持っていても、父親がインド人だということだけで差別する。この国の人種差別主義者は、帰化してドイツ人になった外国人を「パスポート・ドイツ人」と呼んで差別し、ドイツ人の両親から生まれた「ビオ・ドイツ人」だけを真のドイツ人と見なす。ナチスの純血主義に直結する、危険な人種思想である。

 このような思想を持つ党員の集まりであるAfDが、連邦議会で「キリスト教民主・社会同盟」と「社会民主党」に次ぐ数の議席を持ち、全ての州議会で議席を持っているということは、驚きである。

 ドイツが統一された1990年以前の旧西ドイツでは、人種差別は今日よりもタブー視されていた。21世紀に入ってから、「外国人を差別してはならない」というタブーが壊れつつあるという印象を持つ。

日本人も標的に

 近年ではユダヤ人に対する差別も目立つ。ユダヤ人は人種ではなく、宗教共同体である(アフリカのソマリア、日本、中国出身のユダヤ人もいる)。それでもドイツでは、反ユダヤ主義は人種差別の一種とされている。

 去年10月には極右思想を持つドイツ人が、旧東ドイツ・ハレのユダヤ教礼拝施設(シナゴーグ)で多数の信徒を殺傷しようとしたが、施錠を破ることができなかったため、通りがかりのドイツ人ら2人を射殺した。

 また2015年以降、キパと呼ばれる丸い被り物を着けたユダヤ人が路上で唾をかけられたり、罵倒されたりする事件が目立つようになった。

 2018年4月には、ベルリンでキパを被って歩いていた21歳のイスラエル人が、若者にベルトで叩かれた。去年11月には、19歳のユダヤ人学生が、旧西ドイツのフライブルクのスポーツ・ジムの更衣室で、見知らぬ男から「薄汚いユダヤ人め」と罵られた。男は、学生が被っていたキパを奪い取って唾を吐きかけ、ゴミ箱に投げ捨てた。周りにいたドイツ人たちは、誰も男を制止しなかったという。

「ドイツ・ユダヤ人中央評議会」のヨーゼフ・シュスター会長は、ユダヤ人に対する犯罪が増えていることに懸念を強めており、

「個々のユダヤ人に対しては、ドイツの公共の場でキパを被ることを勧めない」

 と発言している。つまりこの国でユダヤ人であることを示すことは、危険だというのだ。

 これは「政府も警察も反ユダヤ主義に基づく暴力を防げないから、ユダヤ人は自分で身を守れ」と言っているようなものだ。ユダヤ人たちはこの国の警察を信用できなくなっている。私がドイツに住み始めた1990年代には、想像もできなかったことである。

 それ以外の人種に対する差別もある。私の知人は、ドイツに長年住むハイチ人の母親と英国人の父親の間に生まれた。この国の高等教育を受けて医師の資格を持ち、母国語はドイツ語だ。だが、彼は肌の色が黒いために、様々な差別を経験してきた。たとえばティーンエージャーだった頃、しばしばドイツ人警察官に路上で職務質問され、持ち物の検査をされた。警官は、彼が麻薬でも隠し持っていると思ったのだろう。

 また、ミュンヘンの地下鉄駅の近くで、スキンヘッドの男たちに殴られたこともある。彼らの言葉には旧東ドイツのザクセン訛りがあった。彼は、

「最近ドイツ国籍を取ったけれど、結局は黒人と見られるので、あまりドイツ人というアイデンティティを持てない」

 と語る。

 私は1990年12月にザクセン州のドレスデン市役所地下のレストランにいたところ、白人の男たちが客の黒人女性に、

「ここはお前の来る所ではない」

 と言って追い出そうとするのを見たことがある。

 アジア人が差別の標的となることもある。

 私の知り合いの日本人は、1990年代初めに旧東ドイツ・ブランデンブルク州でレストランに入ろうとしたところ、ドイツ人の客たちから「ここは白人専用だ」と言われた。客たちは、彼の訛りのあるドイツ語の真似をして、からかった。

 2016年3月には旧東ドイツのマグデブルクの路上で、日本の大学教授と学生の視察団が、車に乗ったドイツ人から卵やアイスクリームを投げつけられた。

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