- 2020年06月21日 06:52
コロナで大打撃を受ける民泊業界の現状 今後の生き残りを左右するポイントとは
1/2コロナ禍で影響を受けている業種は多々あるが、そのなかでも観光客激減による大打撃を受けているのは民泊業界だ。
売上ゼロ、廃業、物件が売りに出ている――などの話をよく聞くが、現状、そしてこれから業界はどうなっていくのか。関係者に聞いた。
冒頭で整理しておきたいのは何をもって民泊とするかという点だ。元々の民泊は住宅の一部または全部を貸すものだったが、この何年かで旅館業法の簡易宿所も含まれるなど定義が拡大している。
国土交通省観光庁の統計では住宅宿泊仲介業者等が取り扱う物件を総称して民泊物件としており、そこには簡易宿所はもちろん、旅館業法上の一部のホテル、旅館、簡易宿所も含まれている。ここでは観光庁の定義に倣って状況をみていきたい。
また、今回取り上げるのは首都圏や関西圏、沖縄など観光客が見込める、投資的な側面もありうる地域の民泊とした。
空き家活用、地域再生などの意味合いもあっての地方での民泊の場合、今後、地域でどう観光と向き合うかなど異なる問題があり、同列に扱うのは難しいからだ(それ以外にもイベント民泊、農泊もあるが、これらは本業として宿泊を行っているわけではないのでここでは含めない)。
大手ホテルが値下げをする中で中小に勝ち目はない
さて状況だがお察しの通り、厳しいとしかいいようがない。たとえば2020年3月に開業した山手線の新駅・高輪ゲートウェイ駅から歩いて6分、元鰻屋を改装して2018年春に誕生した東京都港区の「Koru Takanawa Gateway Hostel, Cafe & Bar」は3月中旬頃から完全に営業をストップしている。

「1階に飲食、2階、3階が宿泊ですが、近所から心配の声もあり、将来を考えるとここでマイナスイメージを持たれたくないと1階も含めて営業停止。5月後半くらいから再開しているところもあるようですが、うちは6月、7月、ひょっとしたら年内は営業できないかもと考えています」と話すのはオーナーの南祐貴氏だ。

日本人を対象に考えれば営業ができないわけではないが、「アパホテル」など大手が大幅値下げをしている現状では中小宿泊施設に勝ち目はない。だったら、すっぱり諦めるというのだ。
リモートワークのためのオフィスやオンライン会議や面接の場として施設を転用して凌ぐという手も聞くが、それでも難しいとして物件を手放す例も出てきている。個人的には開業時に取材させていただき福岡でも人気だった泊まれる立飲み「Hostel STAND BY ME」の閉店にショックを受けた。
元々大阪では昨夏から撤退モードだった
だが、現状をチャンスと捉えている人もおり、事業者によって反応は実にさまざまだ。詳細をみていこう。

まずは特殊事情のある関西。概況としていえばコロナ以前から撤退は始まっており、ここへ来てコロナにとどめを刺されたというのが正しいと不動産会社「コミュニティ・ラボ」の田中和彦氏は話す。
「年間営業日数の上限を180日以内に制限する『180日規制』が出た時点で一部は撤退も多く、その時点でかなり減少していました」。
「その後、新たな参入は続いていたものの、昨年夏からの日韓関係の悪化で韓国人旅行者が大幅に減少、大阪の事業者は大打撃を受けています。関空経由で訪れる韓国人ファミリーをターゲットにしてきた古ビル、古戸建改造の民泊はほとんど稼働していません」。
京都市では独自の条例が施行され、今年の4月からはすべての対象施設に管理者を24時間常駐させることが義務付けられている。

「部屋数を減らさざるを得ず、かつ人件費がかさむようになるなら撤退と考えていた中小事業者も多く、旧正月と桜のシーズンで最後に儲けて終わろうと思っていたところに今回のコロナショック。目論見が外れ、そのまま廃業に追い込まれる例もあります」。
また、京都市内では民泊とは少し違うものの、個人レベルでの営業が多いという特徴がある築40年前後の古い小規模ホテルが廃業する例が相次いでいるという。
首都圏では「賃貸かどうか」で明暗分かれる
それ以外の首都圏を始めとする都市部では主に
・建物の所有状況
・所有者の経営状況
の2点から現状、今後の展望に違いが出ている。
まず、建物の所有状況でみていこう。
「建物を借りて宿泊施設を経営している人たちは撤退せざるを得ないだろう」と一級建築士事務所ビーフンデザインの進藤強氏は推察する。
同社では設計以外にも飲食店、賃貸住宅その他の経営も手掛けており、宿泊施設も簡易宿所、ホテルなど複数棟を幅広い地域に所有している。
現在板橋区で同社が経営している宿泊施設「HOTEL SMI:RE STAY TOKYO」は土地・建物を所有しているため、ローンは月額54万円の支払いで済む。ところが仮にこれを借りて運用しようとすると賃料の10%増しで借りることになり、その場合の賃料は月額92万4000円(7万円×12室×1.1)と2倍弱の差が出てくるという。

「自社で保有しているか、借りているかでこれだけの差が出るわけで、借りて運営している場合はなかなか持ちこたえられません」。
「また、本業が別にあって宿泊施設を運営している場合、多くは運営を外部に委託しており、利益から30%ほどを払う必要があります。会社でやっている場合にはそれを自社でやることで支払い額を減らせますが、個人でやっていると委託せざるを得ず、八方ふさがりです」。
コロナショックを「好機」と捉える人も?
所有者の経営状況では他に財布があるかどうかで明暗が分かれる。
進藤氏の場合、そもそも民泊経営はホテルを設計するためのノウハウを蓄積するという目的もあり、分散投資のうちのひとつだという。2〜3月の売上は100万円を切っており、その時点ではまだ運営を委託していたこともあって宿単体としては赤字になるものの、全体の経営としては赤字にはなっていない。
前述の南氏も同様で、宿泊、飲食以外にコンサルなどその他事業で日々の支出を賄いながらこの先のビジネスを模索しているという。「オンラインでできるコンサルなどもあり、稼ぐ手はいろいろ考えられます」。
この状況は関西でも同じで、宿泊に限らず、他の業種でも元々土地から持っていた事業者、古くからやっていて潤沢に資金のある事業者は今の時点では余裕しゃくしゃく。
言い方は悪いが、新しく参入してきたライバルたちが打撃を受け、撤退してくれたら儲けものとすら思っているかもしれない。いい場所の物件が出たら、良いチャンスだから借りる、買うという声も聞くと田中氏。コロナ禍は持てるもの、持たざるものの差を大きくしているのである。
それに拍車を掛けているのが各種助成金だ。南氏は銀行からの融資のハードルが下がっている状況をプラスと考えている。

「会社経営では付き合いのある銀行を増やしておくことは将来のために重要。これまで1行だけだった弊社もこれを機に数行と付き合いができそうで、今、融資の枠をこじ開けておけばこれから先、数億の資金調達が可能になります。今は売上ゼロでも3年後、5年後にチャンスが来るはずです」。
危機をチャンスと考えて融資、助成を使える人にとってはコロナ禍は決してマイナスではない。ここでも差は広がるのである。



