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「LGBTの差別禁止条例」がむしろさらなる差別を招くという矛盾

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三重県はLGBTなど性的少数者への差別を禁止する条例を制定する方針を決めた。その中には、性的指向や性的自認を本人の了承なく暴露する「アウティング」の禁止も含まれている。文筆家の御田寺圭氏は「この条例はかえって性的少数者に生きづらさを背負わせてしまう危険がある」と指摘する——。

レインボーフラッグを掲げながら、プライドパレードを仲良く歩く女性カップル
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mixmike

三重県「アウティング禁止条例」の危険性

三重県で全国初となる「アウティング禁止条例」が施行されるかもしれない。LGBTなどの性的少数者に対する差別を禁止し、なかでも性的指向や性的自認を本人の了承を得ることなく暴露する——いわゆる「アウティング」を禁止する方針を盛り込むことを、鈴木英敬・三重県知事が議会にて表明したのである。

三重県は3日、LGBTなど性的少数者への差別を禁止する条例を制定し、性的指向や性自認を本人の了解なく第三者に暴露する「アウティング」の禁止を都道府県で初めて盛り込む方針を決めた。鈴木英敬知事が同日の県議会本会議で表明した。
(高知新聞『三重が「アウティング」禁止条例 都道府県で初めて』(2020年6月3日)より引用)

この条例が可決するようにと賛成した人びとは、まったくの善意にもとづいて行動したことだろう。性的少数者の生きづらさに心を寄せ、彼・彼女たちの権利を擁護し、生活上の困難の解消に少しでも寄与できればとの想いだったはずだ。

だが、皮肉なことにこの条例によって性的少数者の権利や尊厳がいまよりも擁護されたり向上したりする見込みはといわざるをえない。それどころか、性的少数者が生きるうえで、意図せずさらなる「生きづらさ」を背負わせてしまう危険性すらも内包している。

——なぜなら「条例にもとづくアウティングの『禁止』」は、周囲の人びとにとって「LGBTとのかかわりを積極的に回避するインセンティブ」を大きく高めてしまうからである。

「配慮」に息苦しさを感じる人たちが現れる

なんらかのマイノリティーの人びととかかわりを持つうえで、「~するよう(orしないよう)に配慮しましょう」という一定のコミュニケーション・コードが設けられることは、すべての社会の成員が等しく尊重され、その人らしく生きていくうえで重要なことである。

重要なことであるのは間違いないが、それ自体がかかわる側(マジョリティー側)の「コミュニケーションコスト」になっていることもまた事実である。

日常生活における何気ないかかわりのなかでも「やってはいけないこと、言ってはいけないこと、ふるまってはならないこと」をつねに念頭に置いておかなければならないことは、ニュートラルな人付き合いとは異なる性質のコミュニケーションとなる。

大なり小なりの認知的負担をマジョリティーとされる人びとに対して求めることになるためだ。もちろんその負担感は個人によって異なる。呼吸するように自然なふるまいで「配慮」を実践できる人もいれば、相当な緊張感とストレスのなかで、自分の言動を慎重に吟味する息苦しさを感じる人もいる。

「相談された人」は誰にも相談できない

しかしながら、マイノリティーとのかかわりにおいて求められる「配慮」のなかでも「~は(法律・条令により)禁止されます」という枠組みは、相手に最大級のコストを求めるものである。違反者へのなんらかの社会的ペナルティをともなう「コミュニケーションコスト」の負担要求は、人びとにとってはもはやたんなる「コスト」ではなくて「リスク」として見なされるようになってしまう。「配慮」に相当な負担感を感じていた人びとはいうまでもなく、これまでなら自然と「配慮」を実践できていた人にすら、マイノリティーとのかかわりにためらいを生じさせてしまうほどであるだろう。

この条例にかんしていえば、たとえばLGBT当事者からなんらかの相談を受けたとして、相談を受けた側の人にはその瞬間から「意図しようがしまいが絶対に口外してはならない、違反者にはなんらかの社会的制裁をともなう、禁じられた行為を生涯にわたって抱えるリスク」が生じてしまう。かりに自分がその禁則を堅守していたとしても、ほかのだれかが口外してしまい、しかも「アウティング」を行ったのはだれかが不明確な場合、自分にも「条例違反者」としての嫌疑がかかることになる。いったいだれがそのようなリスクが発生しうるコミュニケーションに率先して応じるだろうか。

「疎外する」のが最適なリスク回避になってしまう

あるいは、LGBT当事者の人から「望まない性的かかわり」を求められた場合においても、家族や知人など周囲に相談すると「条例違反」に抵触しうることになる。現時点では結局のところ、この条例に抵触せず、社会的ペナルティのリスクを引き受けない最善の方策は「LGBTとかかわらない、近寄らない、それとなく疎外する」になってしまう。

条例成立に携わった人びとの願い——「LGBTがいまよりも生きづらさを感じることなく、社会的に尊重され、尊厳を守られ、なおかつ包摂されてほしい」——とはまったく逆の結果が市民社会に生じてしまいうるのだ。これでは本末転倒である。

「大人の発達障害」でも同じことが起きている

「高まるコミュニケーションコスト」の問題はLGBTにかぎらず、他の社会的弱者に対しても当てはまる。いまその議論の最前線の一例が「(大人の)発達障害」だろう。

大人の発達障害は、大学進学や就職、恋愛・結婚などがきっかけとなって見つかりやすい。高校までは時間割など決められた日課があり、教師や級友など限られた人間関係の中で過ごすため、発達障害の特性がカバーされ、個性として許容される部分も少なくない。しかし、大学では自身で時間割を組み立てて行動しなければならず、「クラス」がなく友人関係も多様になる。社会人になると人間関係はさらに複雑化し、周囲に合わせて空気を読み取るなど社会への適応が必要となり、生活に支障を来すのだ。

(時事メディカル『大人になって気付く発達障害 周囲が一緒に支援模索を』(2020年5月31日)より引用)

「発達障害」という概念が人口に膾炙(かいしゃ)するにつれ、発達障害者に対する「理解」と「配慮」を求める流れが全社会的に生じてきた。

もちろんそれ自体は、社会的に大きな意義をもつ前進、あるいは救済になったという側面もある。「発達障害」という障害が広く世に知られる前は、こうした障害を持つ人は障害者だとは思われず「仕事の出来の悪い人」「頭の回転の鈍い人」「コミュニケーションができない人」などとレッテルを貼られ、爪はじきにされてきたからだ。

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