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「美人な妻がいるのに」の問題をマスクに隠して - 花房観音

前回、不正出血をして病院行きますと書いて、ちゃんと婦人科で検査もしてもらったのだが、検査結果が現時点で出ていないので、その話はいったん今回は置いておく。

このところ、少しずつ日常を取り戻すと同時に、外出する用事もぼちぼちと復活してきた。ただ、まだ不安なので人混みを歩くときや、お店に入る際はマスク着用だ。飲食店や病院も、「マスク着用お願いします」と張り紙がしてあるところが多い。

ところが、もう六月だ。気温も三十度を超える日があり、梅雨で湿気も高い。今まで使っていた不織布マスクをつけていると、口元に汗が噴きだし蒸して、暑くて苦しい。これじゃあ熱中症になる……と、「夏用」とされているマスクをネットで何種類か購入して試しているのだが、「夏用」のものは、だいぶ楽だった。

 

そしてマスクを装着して、つい先日も買い物をしに繁華街に出て電車も乗った。マスクが汚れるから、チークと口紅はつけない。

顔の半分以上がマスクで隠れている状態で街を歩いて、ふと気づいた。

顔がほとんど見えないって……これ、なんだか気分が楽だ。

マスクに守られて

私は未だにときどき、外に出て人と会う度に、「醜い女だと、周りに嫌悪感を与えているのではないか」と疑心暗鬼になってしまう。醜形恐怖症なのかもしれない。

子どもの頃から容姿を貶され嗤われて、小説家になってからも散々ネットでは「ブス、死ね」と「顔見てがっかり」「ブスのババアが官能書くな」などと言われたし、リアルに対峙した人にも、きっと冗談のつもりなのだろうが容姿を揶揄されたことは何度もある。

私が自分に自信のある人間なら平気かもしれないが、もともと劣等感の塊なので、初めて会う人の前では、「がっかりされるだろうな」といつも思うし、基本的に自分は醜くて嫌われる人間だという気持ちが消えないから、あまり人とは会いたくない。

SNSに自撮りあげるなんてとんでもないし、本の宣伝関係以外では顔を晒したくない。誰が喜ぶのだと思うし、自分で自分が気持ちが悪い。私の若い頃の写真が一枚もないのは自分の姿が残っているのが不快なので、すべて捨ててしまったからだ。

今はおばさんになって、だいぶ恐怖心はマシになったと思っていたけれど、マスクをして「顔が見えない」状態に安心しているのに気づき、まだ私の中で「醜くてごめんなさい」という気持ちが残っているのがわかった。

私だって美人が好きだ

女は男よりも、子どもの頃から容姿を当たり前のようにジャッジされる傾向がある。可愛くない子どもは、結婚して幸せになれないから手に職をつけなさいと親に言われていた知人がいるが、そういう話は他でも聞いた。

綺麗じゃない、可愛くないと、男の人に選ばれないから自立しろなんて価値観があったのだ。

醜い女の子は、幸せになれないとすり込まれてきた。少年漫画のヒロインは、クラスのマドンナ・美少女たちばかりだ。ブスはいつも引き立て役だった。

世の中には女の容姿をランク付けするものが溢れている。小説家になっても、美しい女は「美人作家」と顔写真を使って宣伝され、そうでない女は、ただの作家だ。どの世界だって、そうだ。どこに行っても、容姿のジャッジからは逃れられない。

露骨に美人とそうじゃない女とで態度に差をつける男なんて、世の中にたくさんいる。いや、男だけじゃなくて、女も変わらない。女だって、美しい女のほうが好きだ。醜い女は、見たくないものをつきつけるから、同性にだって目を背けられる。私も、美しい人のほうが好きだ。自分と違う存在だからこそ憧れる。自分と似た者なんて、つらくなるから視界に入れたくない。

「あんなに美人な妻がいるのに」

けれど、実際に世の中に出てみると、美人だから幸せになれるとか、結婚できるというわけではないのもわかる。それに「美人」も主観なので、傍から見たらどうかと思う女性を「美しい」と称賛する人たちもいる。自分で自分を美人と思い込み、自己肯定感を溢れさせ、周りに美しい人だと思わせて自信まんまんに生きている人もいれば、どう見たって整った顔立ちなのに、醜形恐怖症に苦しんでいる人もいる。

世の中、すべてが美醜で決められているわけではないのはわかるのだが、それでも大きく根付いているのは確かだ。

先日、浮気をした芸人の報道で、「あんな美人の妻がいるのに」という声があがったが、浮気されるのに美人か美人でないかは実際は関係ない。けれど「美人」という存在が女のヒエラルキーの頂上という考えがあるから、そうも言いたくなるのだろう。

息苦しさからの脱出

自分は自分、他人の目なんか気にしない! と、言い切れるほどに、私は強くはなれないどころか、マスクで顔を隠すことにより、どれだけ自分が今まで人の目を意識していたのか、改めて思い知らされた。

顔を見せなくていいことにホッとしている自分がいるけれど、マスクと同じぐらい、美醜に囚われ続ける世の中は窮屈で、早く解放されたくてたまらない。

(大人でも注文できる「お子様ランチ」。藤井大丸にて)

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