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焦点:コロナで株式の需給反転へ、企業は自社株買いより増資


Sujata Rao Ritvik Carvalho

[ロンドン 15日 ロイター] - 新型コロナウイルス危機は、株式市場における過去最長の強気相場を後押ししてきた、需給引き締まりの流れを反転させそうだ。手元資金不足に陥った企業が、従来の自社株買いではなく、増資に動かざるを得ないからだ。

今年見られる上場株式数の急増ぶりは、企業が頻繁に低利の借り入れを利用して自社株買いやM&A(合併・買収)、上場廃止などを行い、それによって株式供給が減少、株価を押し上げてきた過去数年の構図と比べ、実に対照的といえる。

コロナ危機に伴って従業員を解雇したり、政府から支援を受けたりしている企業は、株主への利益還元を避けるべきだとの政治的な圧力が強まっているという面からも、自社株買いを敬遠している。

JPモルガンのストラテジスト、ニコラオス・パニギルツォグロウ氏は、昨年は株式発行から上場廃止、自社株買いを差し引いた株式の純供給が、2015年以降で初めて実質的に増加したと述べた。

パニギルツォグロウ氏が世界的な株式数算出データを基に試算したところ、昨年の純供給増加幅は5000億ドル(約54兆円)相当と、2010年以来の高水準だったが、今年1─5月も2000億ドル相当増えており、通年で少なくとも昨年水準には達するだろうという。

「新型コロナ感染が拡大する状況が、株式発行の『順番待ち』をもたらしつつある。増資する必要は存在する。そして相場が上昇していることが示唆するのは、民間セクターからの意欲がなお強まる可能性が高いということだ」と同氏は語る。

同氏によると、これと対照的に、今年の世界全体での自社株買い規模は4500億ドルと、昨年から半減するかもしれない。

ヤルデニ・リサーチのデータに基づくと、米企業による自社株買いの人気が続いたことで、11年半ばから昨年半ばまで、S&P総合500種企業の発行済み株式は約250億株減った。

ゴールドマン・サックスは、今年の米企業の自社株買いは昨年の半分の3700億ドル前後にとどまると予想する。先月の米株式市場では資金調達総額が600億ドルと過去最高を記録しており、企業は株式の売り出しのほうを活発化させている様子が分かる。

MFSのグローバル投資ストラテジスト、ロブ・アルメイダ氏は、こうした変化はまだ始まったばかりだと主張。「市場は、過去10年間に目にされてきた状況の逆転を過小評価している」と話した上で、従業員を一時帰休させている今の環境で、増やした借り入れで自社株買いをする余地はかなり小さくなると述べた。

<設備投資に好影響も>

何年も続いた株式供給の減少、いわば「エクイティ減少化」の動きは、需給的にそれぞれの株式を追いかける資金が増額することになり、相場上昇の原動力になった。アルメイダ氏によると、2010年以降にS&P500企業が買い入れた株式の総額は4兆ドルを超え、それにより同500種企業は最大の株式の買い手ともなってきた。

多くのアナリストは、株式の需給が緩めば相場の足かせとなり、その上、株価急落時に自社株買いが行われないとすればボラティリティーが上昇するとみる。

自社株買いは企業収益も上向かせてきた。アビバ・インベスターズのポートフォリオマネジャー、リチャード・サルダンハ氏は、S&P500企業の1株利益が自社株買いで年間約2%伸びたと見積もる。

ただサルダンハ氏の考えでは、自社株買いの縮小が設備投資増加を意味するならば長期的にはプラスだ。「企業はサプライチェーンや自動化、研究開発に資金を投じることが可能になる。これはコロナ危機が生み出す持続的な好影響の1つになるだろう」という。

S&Pグローバルによると、中央銀行によるほぼ10年がかりの景気刺激策にもかかわらず、18年の企業設備投資の伸びは世界全体で2%にすぎなかった。配当支払いや自社株買い、企業買収などに比べて設備投資に使われた現金の割合は、過去10年余りのうちで18年が最も低かった。

もっとも今のところ、自社株買いの勢いが衰えたことが相場の動揺を引き起こしてはいない。それは企業が以前ほど資本集約的でなくなり、必要とする資本の規模自体がずっと小さくなっているだけでなく、株式のリスクプレミアム、つまり将来のリターン期待で債券リターンに比べた優位性が長期平均を大幅に上回っている点にもある。

JPモルガンのパニギルツォグロウ氏は「流動性面の構造変化と金利環境」が株式にとって有利に働くと強調した。

<株主還元の条件>

自社株買いが再び流行する可能性はあるが、コロナ危機を経た企業にとって、借金をしてまで自社株買いや配当支払いに動くのは難しいだろう。

バンク・オブ・アメリカが公表した最新の機関投資家調査では、自社株買いを支持したのはわずか7%で、73%は債務圧縮が望ましいと答えた。機関投資家はむしろ、今後、企業のバランスシートにおける現金や債務の水準、あるいは従業員の労働環境、事業が環境に及ぼす影響などを重視していくと回答した。

フィデリティー・インターナショナルの投資ディレクター、マシュー・ジェニングス氏は、同社の運用担当者がコロナ危機以前から既に「(株主への)大盤振る舞い」をする企業を避けてきたと述べ、大盤振る舞いゆえに突然に減配したり、株主に緊急増資を迫ったりする恐れがあるからだと説明した。

ジェニングス氏は「株主は借金ではなく、利益を原資に配当や自社株買いをする企業に着目することになる。そうした株主還元ができるようになるには、多くの企業はまずバランスシートを再構築し、債務を圧縮しなければならない」と強調した。

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