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80代の元パチンコ店員「コロナ禍の無慈悲なパチンコ叩きは戦前と一緒だった」

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「実際に行動しないと飢え死にしちゃう」

池田さんもパチンコ店で仕事を始めた。日本人の店だったという。

「昔からイメージは悪かった。仕事しない人とか朝から集まりますからね、ナイフで脅されたり、殴られたりは普通でした。それに連発式になったら擦る額も大きくなって、勝った負けたの夜逃げとか殺傷沙汰になっちゃった。それで連発式が禁止になっちゃって、みんな廃業した。この時二束三文で店を買い取る人がいました。帰国事業で帰るって同胞の店を買い取った人もいました。経営者はあっちの国の人りになりました」

池田さんの記憶なので実際とはズレがあるかしれない。また、池田さんの時代も規制で大変だったそうだ。パチンコはゲーム性で勝負するためにチューリップや「役物」と呼ばれるギミックを取り入れたが、それでも射幸性が薄い限り客足は伸びない。

「だからあっちの国の人たちとは対立もしましたけど協力もしましたよ。不当な調査が入れば税務署にみんなで押しかけたり、政治家に陳情したりね。実際に行動しないと飢え死にしちゃうもん。まあ若かった」

あの時、日本人にとって韓国は味方だった

私自身も耳が痛い。そう、実際に行動しなければ駄目なのだ。ネットで吠えても届きはしないし叶いもしない。池田さん世代のこうした政治運動や労働運動を笑ったり、非難したりする団塊ジュニアも多いが、本来の政治参加とは連帯し、行動することだ。それにより団塊世代から上の世代が今日を勝ち取った事実は揺るがない。

「冷戦だからね、韓国は味方だった。自民党だってみんな親韓だから民団の人たちと協力しました。共産主義者から核ミサイル打たれるぞって時代でしたから」

そう、私も幼いころはそうだったが、韓国は西側勢力で味方という意識だった。軍事独裁政権で情報が限られたこと、在日韓国・朝鮮人が私の田舎には少なかったからかも知れないが、冷戦はシンプルで、敵と味方がはっきり分かれていた。池田さんに「いまのネットにいる保守の人たちは反韓が多いんですよ」と言ったら「なんで保守が反韓なの?」と笑われてしまった。

晒し者にする手口は戦前と同じでした

自民党は親韓で、旧社会党が親北であったことは事実である。時代と言えばそれまでだが、冷戦の終結と55年体制の崩壊、新党乱立によるそれまでのイデオロギー対立のうやむやという90年代を経て、イデオロギーによる対立が単なるコメントの優劣を競うネットコミュニティのパーツになり果てた2000年代へ。パチンコはこうした社会の変遷の中でもしたたかに生き残ってきた。現在も22万人が従事する20兆円産業として日本のレジャー産業の3割近くを占める(『レジャー白書2019』より)。

「80年代はよかった。本当に稼ぎました。でもいまはまた規制規制でかわいそうです。あとを継いだ連中も苦労しているでしょう。そんな中にこのコロナ。自粛は仕方ないにしても、晒し者にする手口は戦前と同じでした。あの時ざまあみろって笑った人たちも結局ひどい目に遭いました。パチンコが気に入らないはずが、パチンコだけじゃ済まなかったんですよ。悲しいことです。パチンコ業界よく乗り切ったと褒めたいところですが、袋叩きがね、あの時代に戻ったみたいで悲しかった」

パチンコが叩かれた時、自由が消えることのほうが怖かった。

どこか寂しそうな上目遣いでアイスコーヒーを吸う池田さん。私はすっかり背筋を伸ばして聞き入ってしまった。

実体験は何物にもまさる。私たちはこうした先人の教訓を、このコロナ禍で何も生かせなかった。これには右も左もないだろう。「隣組」やら「国防婦人会」のごとく自粛警察が跋扈し、不謹慎だと店に張り紙を貼り、あるいはネットで晒し者にした。やがて社会不安に便乗する連中の目的はコロナ関係なく「気に入らない」というお気持ち次第となり、ついにはひとりの女の子を死に追いやった。

「娯楽が自由な国ってのはいい国なんです。私だって今どきのしいテレビとか見ませんけど、ああいうのがいっぱいある国っていい国なんです。だから日本はいい国なんです。パチンコが叩かれた時、私は自分の会社がどうなるかより自由が消えることのほうが怖かった。私はその結果を知ってますから」

パチンコ叩き、人間叩きの教訓をどう生かす

先人の言葉はひたすら重い。ライブハウス、パチンコ店、そして人間——「歴史に学ばない国民は滅びる」そう言った吉田茂も池田さんと同様、身を持ってこの恐ろしさを知っていた。

私は、パチンコは打たない。しかししいテレビの自由を認める池田さん同様、自分が打たなくともパチンコの自由は守られるべきだと思っている。でなければ池田さんの危惧する通り、私の好きなものも奪われる、私の自由も奪われる。アメリカのような分断の地獄に堕ちることなく連帯と寛容を。あのコロナ禍のパチンコ叩き、人間叩きの教訓をコロナ後、これから襲い来るかもしれない第2波へと生かすために。

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日野 百草(ひの・ひゃくそう)
ノンフィクション作家/ルポライター
本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。ゲーム誌やアニメ誌のライター、編集人を経てフリーランス。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。近刊『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。
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(ノンフィクション作家/ルポライター 日野 百草)

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