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「コロナ困窮の留学生を大使館が支援」そんな美談に群がるマスコミの罪

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NHKがあえて「コロンビア留学生」を選んだ理由

こうした複雑な事情があるため、大手メディアは偽装留学生の問題を深掘りしようとしない。NHKのニュースでも、「30万人計画」の実態には一切触れてはいない。取材対象が「コロンビア人留学生」だったのは、単なる「偶然」だとは筆者には思えない。NHKは「美談」として報じるため、ベトナムなど新興国出身者を避け、“偽装”の可能性が低いとみなすコロンビア人を選んだのではないか。

朝日の記事にしろ、取り上げているのはタイやアフガニスタン出身の“少数派”の留学生たちだ。また、彼らが通う「立命館アジア太平洋大学」は、偽装留学生には高嶺の花のエリート校である。これでは本当の「困窮留学生」の姿は伝わらない。

朝日は4月末にも「困窮留学生」問題を報じている。(「ポテチも買えない…」コロナ禍、外国人留学生の困窮|朝日新聞デジタル)コロナ禍でコンビニのアルバイトを失い、困っているバングラデシュ人留学生の話である。母国で「養殖業」を営む母親からの仕送りが途絶え、所持金が7000円しかなくなったため、好きな「ポテチ」もがまんしているのだという。

読者は留学生に対し、憐憫(れんびん)の情を募らせたに違いない。記事の目的もそこにあったのだろう。しかし、筆者が長年取材してきた新興国の留学生たちには、母国から仕送りのある者などごく少数しかいない。そもそも、記者が上から目線で憐れんでみたところで、「30万人計画」の構造的な欠陥まで指摘しなければ、問題の本質は見えてはこない。

新聞配達を留学生に頼る朝日は深入りできない

実は、朝日には留学生問題に深入りできない理由がある。自らの配達現場で、留学生の違法就労が常態化しているのだ。(睡眠3時間で週休1日“朝日奨学生”の過酷|PRESIDENT Online)違法就労に加え、残業代の未払いまで強いられる留学生は、「困窮留学生」にも増して憐れむべき存在である。しかし朝日が配達現場の留学生について報じたことは一度もない。そして違法就労などの問題も現在まで改善されてはいない。

経済的に困窮する学生に対し、政府が支給を決めた「学生支援緊急給付金」について取り上げた毎日新聞の記事(「勤労学生への差別、切り捨て」給付金支給で留学生だけに求められる成績条件の冷淡|毎日新聞)も同様だ。給付金の支給対象には留学生も含まれるが、その要件に日本人学生には課されない「成績」が加わった。その点に関し、「差別」だと批判しているのである。

確かに、留学生だけに「成績」を要件とするのはおかしい。とはいえ、毎日が文部科学省を批判するのであれば、「差別」のみならず、「留学生30万人計画」の旗振り役を担ってきた同省の政策の是非を問うべきだ。しかし記事は、同計画を「優秀な留学生を多数呼び込む戦略」と評価している。

人権派メディアは「弱者の味方」と呼べるのか

毎日によれば、留学生は「勤労学生」なのだという。この表現に筆者は唖然とした。日本への「留学」のため多額の借金を背負い、来日後は借金返済と学費の支払いを強いられ、日本人の嫌がる底辺労働という「勤労」に明け暮れる現状を、容認しているに等しいからだ。毎日は朝日と並ぶ“人権派”メディアとして知られるが、これで「弱者の味方」と呼べるのか。

毎日が留学生のことを助けたいなら、「留学ビザの発給基準を緩和せよ」と主張すべきである。経済力のない外国人にも無条件で留学ビザが発給されることになれば、留学希望者が斡旋業者に対し、書類の捏造のため多額の手数料を支払う必要もなくなる。

ただし、これほど留学ビザを大盤振る舞いしている国は、先進諸国で日本以外にはない。欧米に留学できる新興国出身者は、「富裕層」もしくは「奨学金を得られる成績優秀者」に限られる。だから「優秀な」留学生を呼び込むこともできる。

彼らは報じられない場所で苦しんでいる

翻って日本はどうか。「留学生」だと称してビザを発給し、日本語学校など教育機関の学費稼ぎのみならず、底辺労働にも都合よく利用してきた。毎日が「優秀な留学生を多数呼び込む政策」と呼ぶ「30万人計画」の裏テーマは、底辺労働者の確保策なのである。その揚げ句、コロナ禍で多くの「困窮留学生」が生まれている。

偽装留学生たちは留学先の日本語学校、また夜勤の肉体労働に就くアルバイト先でも、ほとんど日本人と接する機会がない。もちろん、日本人に尋ねられたところで、自らが“偽装”であることも、また「週28時間以内」を超えて違法就労していることも認めるはずもない。

そんな彼らの存在に目を背け、制度の欺瞞も放置しておきながら、コロナ禍が起きた途端、「困窮」だと報じる大手メディアの姿勢とはいったい何なのか。そもそも本当に「困窮」している留学生は、メディアが報じない場所で苦しんでいる。

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出井 康博(いでい・やすひろ)
ジャーナリスト
1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。英字紙『The Nikkei Weekly』の記者を経て独立。著書に、『松下政経塾とは何か』『長寿大国の虚構―外国人介護士の現場を追う―』(共に新潮社)『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)近著に『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)がある。
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