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【読書感想】炎上CMでよみとくジェンダー論

炎上CMでよみとくジェンダー論 (光文社新書)
作者:瀬地山角
発売日: 2020/05/19
メディア: 新書

Kindle版もあります。

炎上CMでよみとくジェンダー論 (光文社新書)
作者:瀬地山 角
発売日: 2020/05/29
メディア: Kindle版

ジェンダーへの理解不足で炎上する広告は「4つの型」にわけられる――
SNSが発達した現代、「CM」と「炎上」は切っても切れない関係となった。とりわけジェンダーに対する無理解に端を発する炎上案件は数知れない。最近も日本赤十字社のポスターが炎上したりだ。
一方で、新しい人間や家族のかたちを描いて共感を抱かれた広告もいくつか存在する。両者をわかつものは何だったのだろうか? 東大で人気講義を開く社会学者が「CM」を切り口に語る、目から鱗のジェンダー論。

 「目から鱗のジェンダー論」と書いてあるのですが、僕の個人的な「好み」からいえば、「苦手」だとしか言いようがなく、読むのが大変苦痛でした。

 この新書の内容は「ポリティカルコレクトネス」を追求するために、CMの揚げ足をとりまくって学生から「笑い」をとっているのですが、男である僕からみると、どうもバランスが悪いというか、そんなに男であることが悪いのか、こっちだって好きで男に生まれてきたわけじゃないのに、とか言いたくなってくるのです。

 歴史上、女性の権利がないがしろにされてきた、という事実は揺るぎないものであるとしても、いまだって、「男だから優遇されている」と口にするのと同じ人が、「男らしくない!」なんて責めてくることもありますし(ただしこれは、「女性の権利を尊重している」という男性にも同じことがしばしばみられます)。

 この著者の「診断基準」にも「とりあえず男と広告代理店を悪者にしておけ」みたいな偏りも感じるのです。
 こういうのって、対立をあおるだけではないのか。

 ただ、いまの世界、とくにアメリカの状況を考えると、「ポリティカルコレクトネスに反したものを攻撃し、相手を謝らせる」講義を東京大学でやっているということは、日本人が「世界基準」に対応していくためには必要なことなのかもしれません。

 僕も、なんだかなあ、と思いつつ、最後までいちおう読んだのですが、これは女性、あるいは男性が不快になるのも当然だ、というCMもたくさんありました。

 いまの時代というのは、まだ、男性が「自分たちは『稼ぎが良いこと』と『家事をちゃんとすること』を両立することを過剰に求められていることに対して、抗議の声をあげにくい」という気もするのです。

 僕くらいの団塊ジュニア(日本で1971年(昭和46年)から1974年(昭和49年) に生まれた世代)は、「男は仕事」という自分がみてきた家族像が、大人になったとたんに大きく変化し、「男は仕事も家事もやらないと認められない」という時代になってしまったことに、ずっとと戸惑っているのです。
 ひと世代前は家父長制でまだ逃げ切れたし、僕の子ども世代は、「共働き、共家事」を自然のこととして受け入れられているようにみえます。

 同じ2017年に出た、保険のビュッフェ(当時のブランド名)のCM「結婚式篇」もやはり自虐ネタ路線。

 公園のベンチに座り、涙ぐみながらスマートフォンにおさめられた彼女との思い出の写真を消す男性。
「くるつもりはなかったのに」といいながら向かったのは教会

「どうしても君に聞きたいことがあって」
そうつぶやきながら、大きな扉を開けると、中では結婚式の真っ最中
誓いのキスをしようとするカップルに、男性は「ルリ子ー!」と駆け寄る

男性「俺は……俺は君のなんだったんだ?」
女性「大事な……」
男性「大事な?」
女性「保険」
テロップ「幸せには、きっと保険が必要だ」

 これは笑えました。確かにENEOSにせよ、保険のビュッフェにせよ、どちらも男女を入れ替えたら、大きな問題になっていたことでしょう。考え方によってはかなり辛らつなCMともいえます。しかし、私は不快に感じる男性のいい分もわからないわけではないですが、保険のビュッフェのCMには笑ってしまいました。関西人として、あのオチは笑いとして成立していたと思います。座布団1枚。ENEOSでんきも同様です。

 これらは栄養ドリンクと少し内容が異なり、男性の自虐ネタです。そしてこの「男性の自虐」というのは比較的安定して笑いがとれるネタです。トートロジーになってしまいますが、笑いがとれるというのは、おそらく、ある程度、からかっていいということなのだと思います。なぜでしょう? 第一生命の毎年恒例のサラリーマン川柳。これも男性の不遇を笑うネタの方がはるかに多くなります。あとは上司を揶揄。もちろん新入社員や女性をかわかうネタもありますが、男性の自虐ネタと上司をからかうのは定番です。

 これらに共通するのは権力を持つ側をからかうので人を傷つけずに笑いがとれるという点です。

 こういう人が、「東京大学で人気のジェンダー論」の講義をやっているのか……と、僕はうんざりしました。

 保険のCMで、女性に「保険」呼ばわりされた男性は「権力をもつ者」なのかね。自分が笑いたい、という対象が理不尽に笑いのネタにされているときには、「自分は関西人だから」「定番だから」「笑いがとれるというのは、おそらく、ある程度、からかっていい」と許容してしまうって、あまりにも、ご都合主義すぎませんか?

 女性芸人の容姿イジリは、どう考えているのだろうか?

 「トートロジーになってしまいますが」って、研究者が、自分でもそう認識している「トートロジー」を用いて「説明」したつもりになっているって、あまりにも稚拙です。

 ……すみません、ちょっと熱くなりすぎてしまいました。

 この本のなかでも、とくに「ひどい」ところを抜き出して揚げ足をとる、というのは、あまり良いやり方ではないですよね。それは、著者のCMに対する態度にもあてはまるとは思いますが。

 僕にとっては、「なんでこれを買ってしまったんだ……」という後悔りではあるのです。
 でも、今の社会で何かを「表現」しようという人は、「世の中には、こういうところを突いてくる『意識が高く、声が大きな人』がいる」というのを知り、地雷を踏まないために、一読しておく価値はあるかもしれません。

 何かを表現する際には、「男女」とか「家族」とかにはタッチしないほうが無難だな、という結論になると思うけど。

fujipon.hatenablog.com

CMを科学する ―「視聴質」で知るCMの本当の効果とデジタルの組み合わせ方― (宣伝会議 実践と応用シリーズ)
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発売日: 2016/04/14
メディア: Kindle版


発掘! 歴史に埋もれたテレビCM~見たことのない昭和30年代~ (光文社新書)
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作者:横山隆治,大橋聡史,川越智勇
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