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拉致問題を否定した日本人達

北朝鮮による日本人拉致被害者たち 出典:必ず取り戻す!北朝鮮による日本人拉致問題:政府広報オンライン

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

【まとめ】

拉致事件の否定、無視、すり替えをしてきたメディアと政治家。

横田めぐみさんの弟がそうしたメディアや政治家を非難。

拉致事件ないがしろにしてきた汚辱の歴史を再考すべき。

北朝鮮政府による日本人拉致の被害者、横田めぐみさんの父、滋さんが亡くなった。

その機に記者会見に応じためぐみさんの弟の哲也さんが長年、同胞の拉致という悲劇を否定したり、無視あるいは軽視してきた日本のメディアや政治家たちを非難した。

この非難を契機にこの国民的な悲劇とも呼べる拉致事件が日本自体の新聞やテレビ、そして政治家や学者によってまで、いかにないがしろにされてきたかという汚辱の歴史を再考すべきである。

その再考の作業では再検証や反省、さらには当事者たちへの謝罪という対応さえ必要だろう。

▲写真 亡くなった横田滋さん(2014年1月30日 在日米大使公邸)出典:State Department photo by William Ng / Public Domain

横田哲也さんは6月9日の記者会見で以下のような発言をした。

 「一番悪いのは北朝鮮であることはまちがいないわけでありますが、この拉致間題が解決しないことに対して、あるジャーナリストやメディアの方が『安倍総理はなにをやっているんだ』というようなことをおっしやる方もいます。」

 「『北朝鮮問題を一丁目一番地に掲げていたのになにも動いていないじゃないか』というような発言をここ2~3日のメディアを見て、耳にしていますけど、安倍総理・安倍政権が問題なのではなくて、40年以上もなにもしてこなかった政治家や、『北朝鮮なんて拉致するはずがないでしょう』と言ってきたメディアがあったから、ここまで安倍総理・安倍政権が苦しんでいるんです。

 「安倍総理・安倍政権は動いてやってくださっています。なので、なにもやってない方が政権批判をするのは卑怯だと思います。拉致間題に協力して、様々な角度で協力して動いてきた方がおっしゃるのならわかりますが、ちょっと的を射ていない発言をするのはこれからやめてほしいと思います」

この言葉には私自身も胸を衝かれた。私も新聞記者として日本人拉致事件にはさまざまな形でかかわってきた。東京で、そしてワシントンで、さらには北京で、と実際にその事件に関する取材をし、報道もしてきた。そしてわりに早い時期に、日本国民の多数が北朝鮮政府の工作員に拉致されたことは疑いのない事実だとの確信を抱くようになった。

▲写真 来日中のトランプ大統領と面会する拉致被害者家族ら。安倍首相の右隣りに横田めぐみさんの母・早紀恵さん、その右隣りでめぐみさんの写真を持つ弟・拓也さん、早紀恵さんの後ろに弟・哲也さん。(2019年5月27日 赤坂迎賓館) 出典: White House

だが当時の日本ではまず、「北朝鮮による日本人拉致など存在しない」とする全面否定があった。表現こそ多様だったが、そんな事件はそもそもないのであり、あると明言する側を「危険な反朝鮮民族の反動分子だ」と断じる向きも少なくなかった。否定論だった。

当事者の北朝鮮政府や日本にある朝鮮総連も正面から否定し、拉致を提起する側を危険分子扱いしていた。日本側でも政治家、学者、そしてほとんどの新聞やテレビの姿勢がそうだった。

次に拉致の事実の否定が難しくなった段階では「北朝鮮の国交樹立のためには拉致問題など持ち出してはならない」という主張が顕著となった。国交樹立のためには「ほんの十数人の人間がかかわるだけの拉致事件などにとらわれてはならない」という外務省高官の言明さえ出ていた。一部のメディアは強硬にこの主張を続けた。拒否論、あるいは無視論ともいえよう。

さらには拉致の具体的な実態までが明らかとなった段階でも、「拉致はあったかもしれないが、日本の朝鮮半島侵略の非人道的行動をまず考えよう」という声が起きるようになった。一部メディアがしきりにこの種の理屈を熱心に発信した。拉致事件の解決自体を目指すなという拉致の軽視論、あるいはすりかえ論だった。

この種の主張のために日本全体としての拉致事件解決の努力がどれほど阻害されたかは測りしれない。この拉致事件の否定、拒否、無視、軽視、すり替えなどの実態を詳しく実証した貴重な本がある。

2003年1月に刊行された『拉致の海流 個人も国も売った政治とメディア』(恒文社)という書(※写真)である。筆者は産経新聞の政治部記者やニューヨーク支局長を務めた山際澄夫氏だった。

▲画像 『拉致の海流 個人も国も売った政治とメディア』(恒文社)

同書はすべて当事者たちの実名をあげて、拉致問題を否定、無視、軽視した側の当時の言動を伝えていた。そこには実に多数の人物や組織が糾弾されるべき側として登場する。いまこの本を読み、その刊行から17年が過ぎた現状と照らし合わせることも、日本の政治やメディアの有益な研究となるだろう。

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