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とうとうアメリカも介入した「中国VS香港」で問われるイギリスの本気度

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同盟5カ国は香港市民の受け入れを協議中

こうしたHSBCの不穏な動きに対し、冒頭で述べたようにポンペオ米国務長官が非難の声明を上げたわけだ。香港の一般市民の多くは「HSBCに裏切られた」と感じていた中、同長官の発言は大いに歓迎されている。英国の証券アナリストらの間で「中国による国家安全法の制定で、香港から資本が逃げる」との危惧が叫ばれているが、これを一矢報いた格好となっているとも言える。

同長官の発言から見るに、米国がついに本土親中派の瓦解に向け介入してきたとの見方もできよう。英米両国を含む機密情報に関する同盟「ファイブ・アイズ」の国々が親中派支配層らの私権にも踏み込んでくるかどうかも今後の注目点かもしれない。

親中派支配層の中には、ファイブ・アイズ諸国の国籍を持つ者も混ざっているとみられる。彼らは、米英などの国々に自社の資産なり自身の財産なりを持ち出したり、肉親を分散させて住まわせたりしている。

「ファイブ・アイズ」とは本来の名を諜報協定UKUSAといい、英国、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国から成る。これらの国々は、香港への「国家安全法」の適用により、香港市民の中から「政治難民」が出る事態が生じた場合に備え、受け入れに関する今後の対応をすでに協議中と伝えられている。これらの国々の「本気度」も試されている。

かつての英国寄りの企業家も今や親中派に?

親中派はベタベタの中国大陸出身者で中央政府寄りの人間ばかりか、といえば実はそうでない。かつて植民地時代の支配層としての立場にいたいわば英国閥といえる企業家らの中には、返還後香港に生まれた中国主導の行政側に「中国側に日和れば、自身の商売や地位を守れる」と寝返った者がおり、今やしっかりと親中派の一角を成している。

返還以前の状況をさらに詳しく説明すると、「香港政庁」のトップである英国政府派遣の「総督」を筆頭に、香港人の役人、そして企業家が取り囲み、「世界に冠たる金融の中心地・香港」を盛り立ててきた。返還前には、英国閥の人々が「共産主義に染まった中国寄りの人物」と真っ向から対立していた。おそらく、ジョンソン首相はこうした「かつての英国閥の存在」を念頭に「香港の人々との友情の絆を守る」と言っているのかもしれない。

ところが現状を見れば、かつての英国閥の企業家が中国にすり寄っている。英国からすれば「立派な裏切り」と感じるのは当然だ。

「中国への歯止め役」に徹することはできるか

返還当時の「最後の香港総督」だったクリス・パッテン氏は中国の試みは「香港の自治に対する包括的な攻撃」だと述べている他、英国の過去に外務大臣に任じられた7人の政治家が「世界が英国の香港問題への対応を注視している」と、現政権に何らかの対応を行うよう促していた経緯もある。

これらの動きに押された形でジョンソン首相が「市民権の付与云々」を言い出す中で、「返還直前の住民名簿は確実に英国内務省に保管されている(そうしなければ人定ができず、パスポートの発給はムリだ)」さらに踏み込んで「英国閥だった人物で、親中派に寝返った人物の処遇も検討する」という読みもできる。

米国では、ポンペオ国務長官の「HSBC非難の声明」に先立ち、トランプ大統領が5月下旬、議会に対し「中国に対する戦略的アプローチ」といった報告書の形で対中関係にくさびを打つ宣言を出す格好となっているが、果たして英国はどう出てくるか。

コロナ後の自国経済のテコ入れが必要な時期に、中国との間で政治と経済両面で直接対決に及ぶことになるジョンソン首相は、今後極めてタフな状況にさらされることになる。果たして、国際社会が期待する「中国への歯止め役」に徹することはできるだろうか。

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さかい もとみ(さかい・もとみ)
ジャーナリスト
1965年名古屋生まれ。日大国際関係学部卒。香港で15年余り暮らしたのち、2008年8月からロンドン在住、日本人の妻と2人暮らし。在英ジャーナリストとして、日本国内の媒体向けに記事を執筆。旅行業にも従事し、英国訪問の日本人らのアテンド役も担う。■Facebook ■Twitter
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(ジャーナリスト さかい もとみ)

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