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【原発避難者から住まいを奪うな】「収入超過」75世帯。震災・原発事故避難者にも公営住宅法適用し、段階的に家賃値上げ。背景に立法の不備

2011年の震災・原発事故を受けて福島県内に建設された「復興公営住宅」。政府の避難指示が出された浜通りの住民を中心に約3600世帯が入居しているが、このうち、75世帯が公営住宅法に定める「収入超過」と認定され、段階的な家賃値上げの対象となっている事が分かった。今後さらに増える可能性がある。津波や原発事故に伴う避難者に一般公営住宅のルールを適用する事には議会でも批判の声があるが、法整備が進まない事も背景にはありそうだ。原発事故から来春で丸10年。なぜ原発避難者の家賃が上げられなければならないのか。

【「住み続けられない」】

 福島県建築住宅課によると今年3月末現在、県全体で3634世帯が復興公営住宅に入居(入居率は82・8%)している。地区別では、いわき市が最も多く1340世帯。以下、南相馬市769世帯、郡山市496世帯、福島市366世帯、二本松市289世帯の順。郡山市の「日和田団地1号棟」と「八山田団地1号棟」が最も古く、2014年11月1日から入居が始まった。避難指示が出されなかった区域からの避難者も入居しているという。

 復興公営住宅は法的には一般の県営住宅と同じ扱いになるため「公営住宅法」が適用される。
 同法は28条第1項で「公営住宅の入居者は、当該公営住宅に引き続き3年以上入居している場合において政令で定める基準を超える収入のあるときは、当該公営住宅を明け渡すように努めなければならない」、第2項では「公営住宅の入居者が前項の規定に該当する場合において当該公営住宅に引き続き入居しているときは、当該公営住宅の毎月の家賃は、第16条第1項の規定にかかわらず、毎年度、入居者からの収入の申告に基づき、当該入居者の収入を勘案し、かつ、近傍同種の住宅の家賃以下で、政令で定めるところにより、事業主体が定める」と定めている。

 一般世帯の「政令月収」(年間総所得金額から扶養控除などを控除したものを12で割った金額)が3年連続して15万8000円を上回ると「収入超過」とみなされ、復興公営住宅近隣の民間アパートなどの家賃に近づくよう、段階的に家賃が引き上げられる。2018年10月1日現在で「収入超過」とみなされた世帯が、昨年4月の家賃から値上がった。今後も、毎年10月に計算し、翌年4月分から適用するという。

 同じ間取りでも立地などによって引き上げ幅は大きく異なるため、2019年2月26日にいわき市議会では、渡辺博之市議(日本共産党・市民共同)が、次のように語っている。
 「(市独自の激変緩和制度で)家賃の値上げはある程度抑制されましたが、それでも3LDKでは月10万円ほどになっていきます。ある収入超過者は『値上げが抑制されても、これほど高くなればやはり住み続ける事は出来ない。いわき市は物価も高いので茨城県に出て行こうと思う』と私に話しました」

復興庁が2017年11月、被災3県に出した「事務連絡」でも「東日本大震災の災害公営住宅においても、収入超過者の家賃が上がることになります」と明記されていた

【「公平性の確保必要」】

 収入が多いのなら自主的に退去しろ、住み続けるのなら家賃を上げるぞ、という理屈。

 公営住宅法は第1条で「この法律は、国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し、又は転貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とする」とうたっている。

 公営住宅が建設されたのは「住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で貸す」のが本来の目的だから、「低額所得者」でなくなった場合には退去や家賃値上げを求められるのも理解出来なくも無い。

 しかし、復興公営住宅は目的が全く違う。津波で自宅を失ったり、原発事故で避難をせざるを得なくなったりした人のための住宅だ。入居にあたって収入要件は無い。しかも県全体で564部屋が空いている。そのため、県議会でも再三、県独自に収入超過者の家賃を減免するよう声があがっていた。

 復興公営住宅の建設にあたっては、復興事業の集中などで建設費が高騰したとして、収入超過者の家賃値上げ率も一般の公営住宅と比べて高くなる。福島県は、「建設費の高騰は入居者の責任では無い」として、値上げ幅を圧縮。これが結果として減免措置となっているとしている。いわき市土木部長は議会答弁の中で「減免措置を受けていない民間賃貸住宅や一般の市営住宅に入居している方との公平性を確保する必要がある」と述べ、減免措置の拡充に否定的な考えを示している。

 原発避難者には常に、「公平性」の壁が立ちはだかる。避難指示が出されなかった区域からの〝自主避難者〟の住宅支援でもそうだった。福島県の担当者は「入居期限にあわせて既に新しい生活再建をスタートされている方との公平性という問題もございます」として、国家公務員宿舎に入居している避難者の入居延長を国に求めなかった。

二本松市にある「石倉団地」には、2016年11月から浪江町民など160世帯が入居している

【進まぬ法整備】

 そもそもなぜ、一般の公営住宅に定められた〝収入超過ルール〟を復興公営住宅に当てはめるのか。
 福島県建築住宅課の担当者は「そもそも公営住宅法が、原子力災害のような長期間に及ぶ避難、入居を想定していない」と〝立法の不備〟を指摘する。

 政府の避難指示が出されなかった区域から福島県外に避難した〝自主避難者〟に関しても、法律が存在しないため県は災害救助法を適用。避難先での住宅を「応急仮設住宅」とみなして2年間無償提供。以後、1年ごとに延長し、とうとう2017年3月末をもって打ち切った経緯がある。

 避難を必要とするような原発事故は起きないとの前提があったから、避難者の住まいに関する法律も整備されて来なかった。原発事故から9年以上が経過した今でも、原発避難者に関する法整備は進んでいない。

 復興公営住宅も、そもそも原発事故が無ければ建設の必要が無かった。入居者も、避難元での生活を続けられた。事故の当事者である東電がなぜ負担しないのか。なぜ避難者が応分の負担をしなければならないのか。

 原発事故から来春で丸10年。風化が進む中で、国も自治体も原発避難者を〝特別扱い〟しなくなった。五輪開催には多額の金を使うが、原発避難者には金を使わない。生活の根幹である住まいに、その姿勢が如実に表れている。

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