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棄民政策としての消費税税制 1

消費税増税は、その前提として「金が足りない」と言うことだけから消費税を増税しなければならないという結論を導いているように見えるデタラメな論議がされてきた。他の前提を一切無視して増税ありきというご都合主義的な論理で進められた。

この消費税について斎藤貴男さんの『消費税のカラクリ』(講談社現代新書)を読むと、実は消費税という税制そのものに問題があるのではないかという疑念がわいてくる。これは、原理的に弱者を切り捨て犠牲にする構造を持っているのではないかと。つまり消費税制そのものがデタラメ性を持っているので、その増税に合理的な根拠はなく、どのような論理を使おうとデタラメになってしまうのではないかという感じがしてきた。

斎藤さんは「消費税は中小・零細企業や独立自営業を壊滅させる」とその第2章で語っている。消費税の持っている不当性が、中小・零細企業に顕著に表れてくるのだ。消費税というのは、その名の通りであれば消費をする際にかかる税金であり、本質的には消費者が負担する税金でなければならない。しかし、それを消費者に転嫁できない中小・零細企業は、自らがそれを負担し、負担しきれなくなって壊滅していく。

消費税は社会福祉の財源として使われると宣伝されている。我々の福祉は、中小・零細企業の犠牲の上に成り立っているとしたら、これほど不条理なことがあるだろうか。このような不条理は、やがては負担を背負いきれなくなった中小・零細企業が全滅して、誰もその負担を背負ってくれなくなったら、福祉そのものが壊滅するのではないか。自らの首を絞めているような消費税について今一度よく考える必要があるのではないか。

消費税が「棄民政策」につながるものであるというのを事実から考えるために、斎藤さんが報告している、死へと追いやられる人々の状況をお知らせしたい。自殺者が3万人を超えて久しいが、自殺者がどうして自殺するかと言うことは具体的にはあまり報告されていない。消費税によって追い込まれて自殺する人がいるという事実を知ることによって、消費税の問題を知ることが出来る。斎藤さんの報告は非常に貴重なものだ。

1 長崎市内S,K.さん(施設工事業)

2008年4月18日、夜。長崎市内の住宅地に近い山中で不振な乗用車が発見され、社内に一人の男性の亡骸が見つかった。乗用車の中で、カッターのような刃物で首を切り裂いている。

電気関係の仕事をしていたSさんが独立したのは1989年、29歳の時、滑り出しは順調で、やがて年商5000万円、最大で8人のアルバイト従業員を要する規模に成長させることが出来た。
ケーブルテレビの普及に伴い、しかし競争も激化する。主に下請けの形で展開していた商いにも90年代半ば頃からはかげりが生じ始めた。

「ずいぶん長いこと、消費税を料金に転嫁することもしていませんでした。ようやく乗せさせてもらうようになったのは数年前からですが、料金そのもの値崩れが激しくて」(奥さんの話)

果たして税金の滞納が増えていく。2000年代に入って赤字に陥ると、それでも督促される消費税が徒になった。07年末までには滞納総額が800万円を超えた。

08年2月25日。すなわち従業員への給料の支払いの日に、Sさんは元請けのケーブルテレビ会社からの電話で、2月分の売掛金の全額、約450万円を差し押さえるとの通知があったと知らされた。消費税の滞納額を少しだけ上回る金額だった。


Sさんは私益のために消費税を滞納していたのではなかった。従業員の給料を払うために、自らの利益を削ってまで努力していたが、ないものは払えなかったというのが実情だ。何しろ消費税分を転嫁することが出来なかったのだから。このようなSさんの事情を考慮してもらうことは出来なかった。税金を取り立てる方は、具体的な事情には関係なく、滞納額という数字だけが問題だったのだ。事情が全く考慮されない制度は「棄民政策」ではないのか?

2 中部地方某県、赤城剛さん(仮名、工務店経営)

幾人もの職人を使いながら、自らが腕のよい2代目の棟梁として、寺社の建築に携わった経験もしばしば。会社組織にはせず職人商店の形態を貫いて、ピーク時には年商で1億円以上を売り上げていた。
それでも昨今の不景気はいかんともしがたい。2006年度の売上高は5000万円を割り込み、所得税もたいしたことはなかったが、消費税は利益の高に関わりなく、62万円を課せられた。
赤城さんは、しかし、なぜかこの消費税を直ちには納めなかった。資金繰りの都合だったとも言われるが、資産家だった彼が、この程度の金額を支払えないなどと言うことはあり得ないとの評判がもっぱらである。
(斎藤さんによれば、この程度の滞納であればいきなり差し押さえなどはないと赤城さんは思っていたらしいのだが、何の通告もなくいきなり差し押さえられたらしい。)

(知人の話)「何だあ、そりゃあ!?ですよね。すごく優しい反面で気の強い方でしたから、消費税を納めなかった最初の段階で、税務署との間でトラブルがあったのかもしれない。無礼なことを言われて、「どうとでもしろ」ぐらいの言葉を返していたとしても、私は驚きません。
意趣返しとしての差し押さえなんてありっこないと信じたいところですが、それから半年あまりしか立っていないわけでしょう。赤城さんは何よりも、信金側の対応にショックを受けていたようでした。それはそうですよ。長年の取引で、とてもよい関係なんだと、日頃から自慢していたのですから。
いつもは寄ってくれてもすぐに帰って行く方が、この日に限って、3時間も。税務署や信用金庫のことばかり、でも笑いながら話していきました。」

仕事がなかったとは思えない。赤城さんは翌月も新築と増改築の注文を、それぞれ2件ずつ右傾手痛そうである。
しかし彼は、この日のうちに首を吊ったという。享年62歳。遺書はなく、ただ、材料費などの支払先リストと簡単な明細だけが残されていたそうだ。


消費税の不条理が人間を追い込んでいくというのは、それが機械的に処理されていくからだ。機械的に処理されて弱者が切り捨てられるというのは、原理的に弱者を切り捨てるものがあるからだ。そして、斎藤さんが他の章で指摘するように、消費税は逆に大企業のような強者に対しては大きな利益をもたらす。ここにも利権が存在するのだ。経団連などが消費税増税に賛成するのはそこに理由がある。

消費税を滞納する人たちは、誠実でまじめであるが故に死に至るまで追い込まれてしまう。その不条理な制度さえなければ、自立し税金を納めることが出来る人々であるのに。それらの人を死に追いやって、税金を払う人々を減らして、どうやって財政再建にまで持って行くのだろうか?

また厳しい取り立てをする税務署員個人についても、それは彼らが酷薄なひどい人間だからそうするのではない。制度がそのような酷薄さを要求するから、これもまたまじめな人間であればあるほどひどい状況になる。消費税という背戸はそのような原理を持っている。「棄民政策」としてとらえて、早急に改善しなければ、日本社会は消費税によって壊滅し、不幸になる人間が増えていくだろう。

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