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茨城空港のTokyo騒動に県民「”だっぺ空港”の方が魅力的」

開港から10年を迎えた茨城空港(時事通信フォト)

有識者案を却下した大井川和彦・茨城県知事(時事通信フォト)

中国最大のLCC「春秋航空」の路線も(時事通信フォト)

旅客実績もあり健闘している茨城空港だが、課題も多い(時事通信フォト)

 茨城空港(茨城県小美玉市)の海外向け愛称が6月5日に正式発表された。有識者会議で最終候補に選んだのは、頭に“東京”の名前を冠した「Tokyo Ibaraki International Airport」だったが、パブリックコメントなどで強い反対に遭い、Tokyoが外れることに。県民の失笑も買った前代未聞のドタバタ劇をジャーナリストの山田稔氏がレポートする。

 * * *

 開港から10年になる茨城空港の正式名称は百里飛行場で、自衛隊との共用空港だ。コロナ禍発生までは、スカイマークが国内線4か所、海外のLCC2社がアジア向け国際線3か所の定期路線を就航していた。コロナ禍で現在はすべてが運休中で、6月12日から茨城─福岡便の運航が再開される。

 さらなる海外客取り込みを図ろうと、茨城県は空港の海外向け愛称を決めるため有識者会議(座長・戸崎肇桜美林大教授)を設置して愛称案を練ってきた。有識者会議は3月下旬、「東京」を冠した4案など次の6案を提示した。

・Tokyo Metropolitan Ibaraki Airport(直訳/東京首都茨城空港)
・Tokyo Ibaraki Airport(東京茨城空港)
・Tokyo Ibaraki International Airport(東京茨城国際空港)
・Tokyo North Airport(東京北空港)
・Metropolitan Ibaraki Airport(首都茨城空港)
・Ibaraki International Airport(茨城国際空港)

 その後、県は4月23日~5月22日までの1か月間、県民からパブリックコメントを募集。そして5月28日、有識者会議の第3回目会合が開かれ、「Tokyo Ibaraki International Airport」を最終候補案に選定した。航空会社や旅行業者らで構成するメンバー9人全員が賛同したという。

 選定理由について戸崎座長は、「茨城は国際的な知名度が低い。海外へのプロモーションのためには東京という言葉は魅力的」などと説明した。

 これを受け、大手メディアは「茨城空港に愛称『東京』正式決定へ」「海外向け愛称『東京茨城国際』茨城空港 県、来月正式決定へ」などと報じた。これで決まりというムードだったのである。

 ところが、事態は一変した。6月5日、大井川和彦知事が愛称を正式発表したが、そこには「Tokyo」の文字がなかった。愛称は「Ibaraki International Airport」に最終決定したのである。有識者会議のメンツは丸つぶれだ。

◆有識者の「答申」よりも県民の「誇り」を選んだ県知事

 有識者会議の最終答申を県知事がひっくり返す結果となった、今回の空港愛称問題。なぜ、こんなことになったのか。

 ひとつは県が実施したパブリックコメントで反対論が多かったことが要因。県の空港対策課に確認したところ、60件のパブコメが集まった。その内容はまだ公開されていないが、「東京に非常に近いという誤解を与える」「東京の名を冠するのはいかがなものか」など否定的意見が目立ったという。

 さらに、有識者会議の最終案が報じられた直後から、ネット上でも批判的な意見が相次いだ。パブコメ、ネットという民意が知事の決断につながったのだろう。愛称を発表した6月5日の会見で大井川知事は「東京」を外した理由についてこう語っていた。

「(パブコメなどで)『県民の誇りはないのか』などほぼ反対一色だった。県民の反対を押し切ってまで『Tokyo』を付けるべきなのか。今の状況では、(東京を付けない)この名称がふさわしいと判断した」

 どこかの政治家と違って、大井川知事はちゃんと民の聞く耳を持っているようだ。

 実際、5月下旬に「東京茨城国際空港」案が報道されて以降、ネット上には反対論、失望論が相次いでいた。

「あとで困るのは現場。何で東京? 茨城は東京なの?」
「このネーミングには無理がある。県外の有識者に委託するほどのことでもないと思う」
「東京の名の力を借りる前提など情けなさすぎる。茨城県としての誇りはないのかね」
「もう少し自分の土地に自信と愛着を持ったらどうだろう」
「tokyoの愛称を付けるのであれば、東京と茨城空港直結路線を作ることが必要不可欠。千葉県の某夢の国も東京名が付いていますが、舞浜駅があり利便性がいい」

また、「茨城国際空港」が正式愛称となったと報道された直後からは、「当たり前だ」という声があふれかえっている。

「普通に考えたら分かること。有識者っていう人たちは一般の人とどこか感覚がずれてる」
「羽田と成田はマルチエアポートとして、航空券の互換性もあるが、それもないままに茨城空港がTOKYOを名乗っては外国の方の混乱を招くだけ」
「大井川さんのことだから、そのまま採用するかと思っていた。良かった、まともな判断をしてくれて」
「ここは、県知事も判断ミスをせずに済んだようですね。今後、有識者が会議する場合、生配信していただきたい」
「茨城県民の郷土愛の勝利だと思います」

 大井川知事の判断は県民、ネット民にも支持されているようだ。茨城出身の都内在住の30代女性は今回の騒動についてこんな感想をもらした。

「日本の県はどこも特徴豊かで個性がある。なんでもかんでもTOKYOをつける必要はない。IBARAKIだけのほうが今後はマニアックな海外ツーリストの検索率が上がるはず。

 県民の友達と話したときは、『まだ“茨城だっぺ空港”“International Dappe Airport”のほうがいいんじゃないかと(笑い)。そのほうがキャラクター展開とかしやすそうだし、牧歌的でいいところだとアピールできますよ。いずれにしても、茨城の魅力を前面に出してほしかったですね」

 当初案が報道された直後には「納豆空港」「黄門空港」「茨城干し芋納豆空港」などの書き込みも見られた。茨城らしさを打ち出して海外にアピールしてほしいという思いなのだろう。

◆ポスト・コロナ時代に問われる茨城空港の存在感

 スッタモンダがあった愛称問題もひと段落。最大の課題は今後の茨城空港がどれだけ存在感を放つことができるかだ。国交省の資料によると国管理25空港の一つである百里飛行場(茨城空港)の平成30年度の 収支は次の通りだ。

【航空系事業】営業損益/-1億9600万円 経常損益/-1億6500万円
【非航空系事業】営業利益/1700万円 経常利益/400万円
【非航空系事業+航空系事業】営業損益 /-1億7900万円 経常損益/-1億6100万円
【EBITDA(実質的な利益水準を示す指標)】航空系事業+非航空系事業/8500万円

 航空系事業と非航空系事業を合わせた収支(経常損益)は、国管理空港25のうち15空港が赤字となっている。茨城空港もその一つだが、赤字額は3番目に少ない。各空港が1年間の営業を通じて得られるキャッシュフロー(実質的な利益水準)を示す指標「EBITDA」は、8500万円の黒字となっている。

 旅客実績(東京航空局調べ)は平成22年度の20万3070人が26年度に53万8215人と50万人を超え、令和元年度は77万6002人と過去最多を記録した。2019年の1年間の数字では約82万2000人と年間80万人を突破。

 これは全国85空港中37番目の乗降客数だ。収支、旅客実績ともに地方空港の中では健闘していると言っていいだろう。

 自衛隊との共用空港ということで戦闘機マニアにも人気で、無料の駐車場、ターミナルビルからの眺望、土産物購入など若者のデートスポットとしても知られている。

 ドラマなどのロケ地としても利用されている。飛行機に乗らない人にとっても楽しめる空港なのだ。非航空系事業の黒字化を含め、「地方空港の成功モデル」との評価もある。

 問題はコロナ禍で航空需要が大きく減少した中で、今後インバウンドを含めどれだけ旅客実績を回復させられるかだ。

 それには空港自身の利便性向上、機能充実、アクセス改善だけでは不十分。茨城の豊富な観光資源、農産物・海産物資源、つくばに代表される研究拠点、日本有数の実績を誇るロケ地としての魅力など、茨城のパワー・魅力・財産を内外に強烈に発信することで、国内観光客、ビジネス客に加え、「茨城空港経由東京行き」ではなく、茨城訪問・滞在を目的とするインバウンドをどれだけ増やせるかがポイントになる。

「Ibaraki International Airport」の愛称と「Ibaraki」の魅力をどこまで浸透させることができるか──。県の情報発信力が大いに問われることになる。

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