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特集
AIとはたらく
日常生活をはじめ、医療や学問、行政など様々な場面で存在感を増しているのがAI(人工知能)です。AIは今後、私たちの生活をどのように変えていくのでしょうか。そして私たちの仕事への影響とは。AIをめぐる”今”をのぞいてみました。

AI時代に必要とされる「倫理」とはなにか 株式会社ABEJA・岡田陽介CEOに聞く

  • 2020年06月08日 13:02
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AIと一緒に働くのは、もはや「当たり前」。そんなAI時代に求められるのは、倫理観をはじめとするリベラルアーツだった—— 最先端のテクノロジーであるAIに、なぜ人間の倫理観が重要になってくるのか。ディープラーニングをはじめとするAIの社会実装事業を行う株式会社ABEJA代表取締役社長CEOの岡田陽介氏に、事例を交えつつ解説してもらった。

AIと働くのは、もはや「当たり前」

—— 近年、さまざまな企業でAIの導入が進んでいます。このトレンドはいつ頃からなのでしょうか。

私たちが創業した2012年頃は、AIやディープラーニングに対する認知度が低く、企業の関心も高くはありませんでした。ですが、ここ2〜3年でAIに対する企業の期待は急速に進んできたように思います。さらに、今回の新型コロナウイルスの流行がきっかけで、AIやロボットの活用に関する社会の関心は高まっています。

もはや、「AIと一緒に働くのが当たり前」という時代がすぐそこに来ているといっても過言ではありません。

話を聞いた株式会社ABEJA代表取締役社長CEOの岡田陽介氏 写真提供:ABEJA

—— 具体的にはどのような事例がありますか

空調大手「ダイキン工業」の製品故障の修理対応プロセスにAIを組み込むプロジェクトを支援したことがあります。

エアコン製品は数千点もの部品でできているため、修理を依頼されたからといって、1度にすべての部品を持っていけません。このため、修理完了までに数回訪問しなければならないという実情がありました。

一回の訪問で済めば、顧客満足度とコストの面でメリットは非常に大きい。ただ、そのためには、どこが故障したのか事前に的確に把握した上で、必要になりそうな部品を適切に選べるかがカギになります。

そこで、過去の修理データを学習させたAIに部品を選ぶ作業を任せたところ、修理内容に応じて部品を的確に選べるようになり、一回の訪問で修理が終わる割合も増えました。顧客満足を上げつつ、作業のコストも下げた分かりやすい例です。AIをうまく使えば、こんなことが実現できるようになります。

—— 御社でもAIは活用されていますか

もちろん活用しています。例えば、弊社はAIが学習するための教師データ作りである「アノテーション」を支援するサービスを提供していますが、そこで使う自社開発のアノテーションツールにAIを使っています。

例えば、犬や猫を見分けるAIを作りたい場合は、膨大な犬と猫の画像を使って「これは犬」「これは猫」とAIに教える作業(ラベル付け)が必要です。ここにAIを組み込むことで、人間が手作業でやっていたラベル付けの作業を、AIが自動で作業する仕組みになっています。こうすれば、AIがある程度やってくれた作業を人間が修正、確認するだけで済み、手間がだいぶ減るのです。

—— 今後、どの程度までAIが普及すると考えていますか

AIを取り入れない業界はほぼない、と言える状態まで進むでしょう。

ただ、現時点ではAIに学習させるためのデジタルデータ自体がない業界が多く、これがAI導入のハードルになっています。

現実世界で人間が身体を使ってやっている業務を、IoTデバイスやカメラを使ってデジタルデータに変換し、業務プロセスそのものをサイバー空間に移行しデータを取得・蓄積できれば、どんな業界でもAIを活用できるようになると思います。

ただ、もちろんAIが入っていけない分野もあるとは思います。

たとえば、アパレル店舗で接客する店員さんが全員いなくなり、代わりにロボットがすべてをやる、ということはないでしょう。ロボットから「似合いますね」と言われてもうれしくはないですからね。生身の人に「似合いますね」と感情を込めて言ってもらうからこそ得られる価値は、これからも求められていくと思っています。

AI時代 常に変化に対応する姿勢が重要

—— AIが普及すると、省人化が進んで人の仕事がなくなるとも言われていますが、その点はどうお考えでしょうか

AIによる効率化が進んだとしても、過去の技術革新と労働雇用の関係と方向性は同じだと考えています。

写真AC

第一次産業革命のときも、技術革新で織機の機械化が進んだ結果、職を失った職工が機械を破壊する「ラッダイト運動」などにつながりました。そういうことを踏まえると、新たなテクノロジーの出現によって職を失う人は確かにいるでしょう。ただ、新たなテクノロジーで生まれた仕事、増えた雇用もまたある、という面も踏まえておくべきだと思います。例えば、先ほどお話しをした「アノテーション」を担うアノテーターという職種も、AIの誕生で生まれた新たな職種です。

日本に関していえば、当面は労働人口が減る傾向にあり、すでに深刻な人不足に悩む業界もあります。こうした現状で、AIで効率化を進めることは、現在の経済規模を維持するという観点では有効だと思っています。

—— あらゆる業界でAIが導入されたときに、働く人にはどんなことが求められると思いますか

課題設定力や、クリエイティビティ、テクノロジーの理解などは、AI社会で重要だとよくいわれます。私が最も大切だと思っているのは、変化に常に対応していく姿勢だと思っています。「便利でゆたかな世界」を求めて常に進化し続けるのは人間の社会の常です。近年はそのスピードがとても早くなっている。そう考えると、自らをアップデートし続ける力が最も大事な力であると言えるでしょう。

ビジネスでAIを使う側に求められる倫理とは

—— AIがバイアスを持ち、人への差別につながったということが昨年話題になりました。これはなぜ起こってしまうのでしょうか?

AIが「差別する」といっても、AI自体は善悪を判断できません。なので、AIに学習データを提供する側の人間にものごとの善悪を判断するための指針、つまり倫理が求められるのです。

たとえば金融機関などで、AIを使った与信判断モデルをつくる際、性別のデータは入れるべきではないという意見があります。教師データとなる過去の与信判断に関するデータの中に女性のサンプル数が圧倒的に少ないため、性別のデータを教師データに含めることで、AIが「女性」を理由に審査を落としてしまう恐れがあるのではないかという懸念に基づいています。

ならば、性別のデータを入れずに与信判断モデルをつくるべきだという話になります。ですが、実際に性別のデータを入れずにモデルをつくると、やはり結果的に女性が審査に落ちてしまうんです。性別のデータを教師データから削除したとしても、職務経歴や学歴といった、他のデータによって結果的に女性が不利になってしまうためです。

AIのバイアスをなくすためには、例えば「女性」であることをデータに組み込んだうえで、「女性」には評価をプラスするなど平等にするための処理が必要になります。

—— 差別を防ぐために、人間がモデルを是正していくのですね

そうです。AI自体はバイアスを取り除けないので、バイアスがないモデルにするためのデータづくりに人間がかかわり、AIに提供する必要があります。こうしたことをするために、テクノロジーを使う側の人間が、テクノロジーの理解はもちろん、倫理観を持つ必要があるのです

Getty Images

—— AIの倫理的利用についてですが、AIを活用する企業側の認識はどうですか。やはり、AIを活用する企業の立場だけで考えると危うい点があるのでしょうか

「儲ける」ということを第一義に考えると、危うい方に流れてしまいがちです。実際、テクノロジーへの理解が乏しい企業の中には「AIを使えば儲かるの?」というところからスタートしてしまうところもあります。

でもほとんどの場合、企業活動は儲けることだけが目的ではないですよね。社会をどのように良くしたいかというビジョン・ミッションから考えてAIを使っていく必要があると思います。

わたしたちもAI導入の支援の際に、利益という観点に加えて、企業の社会的な使命といったものを踏まえて、提案しています。

AI時代に重要になる、リベラルアーツ教育

—— これまで人間が培った歴史への理解や倫理観が重要になってくるということでしょうか

突き詰めていくと「トロッコ問題※」に近い「究極の選択」をしなければならない現実にも直面します。難しいことではありますが、企業は意思決定の際にこうした倫理観を常に念頭におかないと、確実に社会から見放されてしまうと思います。

なので、リベラルアーツが重要ですという発信をABEJAではしています。また、「Ethical Approach to AI」という倫理委員会を2019年夏に設け、外部の有識者が倫理、法務的観点からAI活用について定期的に討議しています。

—— 少し前は、ネット時代の教養としてプログラミングや語学の重要性が指摘されていましたが、それだけではなく、昔からある教養の重要性も増しているということなんですね

そうだと思います。プログラミング教育はあくまでテクノロジーの勉強であり、テクノロジーはこれからも進化し続けることが目に見えています。ですが、テクノロジー自体は「正しい」、「正しくない」の善悪を判断するものではない。だからこそ、人間が高い倫理観を持ち、テクノロジーをどう使うべきか考える時代が来ていると思います。

—— なるほど。お話しを伺っているとAIには発展する余地がまだまだある感じがします

そうなんです。将来的な発展の可能性は大きいと思う一方で、まだ時間はかかると思っています。ですが、現時点でもAIでできることはたくさんある。

たとえば、いまは新型コロナウイルスの影響で外出の自粛が呼びかけられていますが、小売りや物流の現場では、感染リスクを負いながら働いてくださっている人がいます。ですが、AIやロボットがこうした対面業務を代わりに担ってくれれば、外で働いている人たちをリモートワークにすることもできるわけです。こうしたことはどんどんやっていくべきだと思っています。

※トロッコ問題とは
フィリッパ・フットが1967年に提起した倫理学における思考実験のひとつ。AI時代の到来によって再注目されている。例えば、自動運転車の設計の際に「誰かの命を救うためには、他の誰かの命を犠牲にする必要がある」究極の状態をAIがどう判断するように設計するべきなのかという現実的な問題がある。

プロフィール 岡田陽介(おかだ・ようすけ):株式会社ABEJA 代表取締役社長CEO。
1988年生まれ。愛知県名古屋市出身。10歳からプログラミングをスタート。高校でCGを専攻し、全国高等学校デザイン選手権大会で文部科学大臣賞を受賞。大学在学中、CG関連の国際会議発表多数。その後、ITベンチャー企業を経て、2012年9月、AIの社会実装を手掛ける株式会社ABEJAを起業。2017年には、AI、ディープラーニングを中心とする技術による日本の産業競争力の向上を目指し、他理事とともに設立し、日本ディープラーニング協会理事を務める。2019年10月より、米シリコンバレーの現地法人 ABEJA Technologies, Inc. CEOに就任。

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