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増加予想されるエッセンシャルワーカー 差別増える悪循環も

5月29日、航空自衛隊がアクロバット飛行を披露して医療従事者へエールを送った(時事通信フォト)

 新型コロナウイルス感染拡大のなか、人々の暮らしを守り、社会を支えるために働いているのが「エッセンシャルワーカー(生活必須職従事者)」だ。医療従事者、配達員、役所職員、清掃員、保育士、運輸業者、スーパーやドラッグストアの店員など、多くのエッセンシャルワーカーが働いてくれているからこそ、コロナ禍でも生活ができるのだ。

 しかし、医療従事者に対する差別的な言動や、「なぜマスクを置いていないのだ!」などと、店員に対する理不尽なクレームなど、エッセンシャルワーカーが苦しめられている現状があるのも事実だ。

◆懸命に働くほど困窮していく

 海外の事情はどうだろうか。爆発的に感染者数が拡大した英国はロックダウン(都市封鎖)を断行し、医療などを除くほぼすべての業務が停止した。慶應義塾大学教授で労働経済学者の太田聰一さんが指摘する。

「英国のスーパーでは買い占めによる物不足が生じて、連日寝ずに勤務していた看護師の女性が、“お願いだから買い占めをやめてください。何も買えなくて暮らしていけない”と涙ながらに訴える姿が大きく報じられました。欧米では小売りや流通などがほぼストップして、大きく生活水準を落とさざるを得ない人が数多く現れたのです」

 日本では医療以外のエッセンシャルワーカーもコロナ禍のもとで働き続けた。それによって生活の質はある程度保たれたが、当然ながら、その日常の陰に大きな犠牲が払われていることを知るべきだ。

 たとえば、大手喫茶チェーンのカフェ・ベローチェは、緊急事態宣言が出た後も人を減らして時短営業を続け、現場の従業員の負担が激増。

 労働組合が抗議すると、本社は即座に“自由に休んでいい”という通達を出した。しかし、通達内容は“休むことに対する許可”のみ。休業補償などに関する文言はなく、結局、「同僚に迷惑がかかるから」と、出勤をやめる従業員はわずかだったという。

 労働や貧困問題に取り組むNPO法人「POSSE」代表の今野晴貴さんは、こう話す。

「これは経営陣が果たすべき責任を現場に押しつける、典型的なブラック企業の手口ですね。欧米だったらストライキが起きたはず。日本は社会全体がエッセンシャルワーカーに責任を押しつける風潮がある。社会全体が“ブラック企業化”しているんです。もっと国が責任を持って、社会のために働く人々をケアすべきです」

 自治体の相談員や看護師、保育士、小売店員などのエッセンシャルワーカーには非正規雇用労働者が多く、低賃金や正社員との待遇格差が指摘される。役所の窓口職員が安定した公務員だと思って怒りをぶつけたら、実は非正規雇用の職員だったというケースもめずらしくない。

 さまざまなリスクを背負って社会を回すために働き続けているのに、客や市民から非難されてはたまったものではない。経営判断だけでなく、国の施策としても非正規の待遇改善が待たれる。

◆今日、普通に過ごせたのは誰かが働いているから

 これまで、エッセンシャルワーカーをケアする具体的な対策はなかった。太田さんが言う。

「コロナで休職を余儀なくされる人が多いなか、目立つのが“仕事があるだけいいのでは?”との声です。こうした考えが強く根づいているせいで、日本では目立った対策は講じられていません。

 しかし、思い直してほしい。自粛期間中でもコンビニにマスクや消毒液以外の物資が充分にあったのは、製造、物流、小売りなど、各部門が適切に機能していたからです。医療や教育も含めて、エッセンシャルワーカーがいなければ、日本人の暮らしは絶対に成り立ちません」

 だが、この先、エッセンシャルワーカーへの風当たりはさらに強まるかもしれない。精神科医の片田珠美さんはこう話す。

「今後は景気悪化で失業者が急増し、エッセンシャルワーカーになる人が増えると予想されます。労働環境が改善されなければ、燃え尽きて離職する人も増えるでしょうが、職を求める人もまた増える。そうなると、次から次へと“新人”が入ってくるようになる。感染不安や経済的な不安がいつまでも収束しなければ、エッセンシャルワーカーへの差別や暴言などがますます増えるという悪循環に陥る恐れがあります」

 事実、現在、コロナで解雇された人や仕事が激減した人がウーバーイーツなどのアルバイトに殺到しているという。

 一方で、エッセンシャルワーカーへの感謝を示そうという動きもある。結婚式の中止などでキャンセルされた生花を医療従事者に贈る「キャンセルフラワー」は、配達員やドラッグストアなどにも贈られる予定だ。

 毎週金曜日の正午から1分間拍手をして、医療従事者への感謝を表す「フライデーオベーション」も各地で行われている。こうした行為に「癒された」と語る医療従事者がいる一方、冷ややかな声もある。

「うがった見方をすれば、自分が何もしていない後ろめたさを払拭するために行われていると考えられます。拍手の音はほとんどの従事者の耳に入らないし、ただでさえ忙しい医療従事者にとって、生花をもらっても手間がかかるし、衛生的な不安もある。個人的な見解としては、うれしい半面、ありがた迷惑とも思います」(片田さん)

 一方、東京清掃労働組合中央執行委員長の中里保夫さんは、「ゴミ袋に感謝の言葉を書き込んでいただくことがある。廃棄するのが惜しくなるくらいうれしくなります」と話す。

 感謝を形にするのは急がなくていい。まずは私たちのために働く人々の苦労と献身を知ることが大切だ。

 内閣官房によると、エッセンシャルワーカーと呼ばれる人は全国に約2725万人。あなた自身は違っても、家族や友人に思い当たる人が、きっといるはずだ。

※女性セブン2020年6月18日号

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