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プロ責法の改正についての私案

 弁護士の最所です。

 前回、「電話番号の開示だけでは「簡素化」されない」との記事を書きました。

 じゃあ、どうすれば良いのかとのご批判があると思いますので、私の意見を書かせて頂きます。

 早急に、

 『プロバイダ責任制限法に、第4条5項として以下の条項を加筆すべきである。

 第4条5項 開示関係役務提供者は、発信者情報仮開示仮処分命令が発令された場合には、仮開示仮処分命令の対象とされた発信者情報以外の情報についても任意に開示をすることができる。この場合において、開示関係役務提供者は、開示によって当該発信者に生じた損害については、賠償の責めに任じない。』  

 その理由について、ご説明致します。 

 まず、発信者情報の開示に関する現行のプロバイダ責任制限法の問題点を箇条書きにすると以下のとおりです。

 ① 省令に列挙されている発信者情報では、発信者の特定に至らないことがある(開示対象が限定されているように読める。)。

 ② プロバイダが任意の開示に応じないことから、裁判上の対応が必要である。

 ③ 外国法人を相手にしなければならないことから、送達に時間がかかる(裁判が始まるまでに半年以上の期間を要する。)

 ④ 開示を請求する側で、違法性阻却事由の不存在について立証しなければならない。

 このうち、④の点に関しては、どのような場合に開示を認めるべきかという問題で、これには色々な考え方があるところですので、ここでは一先ず置いておきます。

 ①から③の問題は、まさに、中澤弁護士が仰っているように「権利侵害の要件は満たすのに手続きがうまくいかない」ということが最大の問題です。 (Web論座:「インターネット上の誹謗中傷で被害者ができること――法的対応策の課題 」中澤弁護士

 この問題を解決するためには、外国法人に対する送達場所についての手当、匿名訴訟の導入、等の民事訴訟法の改正が必要です。ただ、民事訴訟法の改正は、重要法令の改正となるので、改正の為のハードルは高く、短期間で改正することは極めて困難です。

 もっとも、外国法人に対する裁判上の対応でも、保全手続であれば、「呼出しは、相当と認める方法によることができる」(民事保全規則第3条1項)とされていますので、法律上の送達手続を取ることなく、裁判上の手続を開始することができます。現状も、EMS等による呼び出しによって、概ね、申立から1ヶ月以内に、審尋期日が入るようになっています。

 現状でも、外国法人であったとしても、民事保全手続を利用することで、客観的な第三者である裁判所の判断を得ることは可能です。また、3ヶ月以内に判断を得ることも十分にできます。

 裁判所以外の第三者機関が判断するような案が言われていますが、私は、そもそも人選の公平が保てるのか非常に疑問ですし、どのような手続で判断するのかについても議論されていない状態で、安易に、第三者機関の設置が主張されること自体、本質から乖離しているのではないかと思っています。

 裁判所という存在がある以上、これを効果的に利用しない手立てはありませんし、個々の裁判官の判断には問題のあるものが多々あるにせよ、現行法上、裁判所以上に、判断を行うに適した機関はないと思いますので、まずは、裁判所の手続を通じた救済を図ることが先決です。

 このように、現状でも、保全手続を利用することで、早期に裁判所の判断を得ることは可能ですが、問題は、開示の対象が、保全の必要性があるものに限定されていることから、例えば、電子メールアドレスの開示は、保全手続においては認められていません。そのため、仮に、電話番号が開示対象となったとしても、保全手続で、電話番号の開示が認められることはないでしょう。

 保全手続を利用して発信者を特定する情報を取得できるようになれば、現行の問題点は、ほぼクリアーできます。

 例えば、「発信者情報仮開示仮処分命令申立事件における発信者情報については、その全てについて、保全の必要性があるものと看做す。」というような規定を、プロバイダ責任制限法の中に入れることができれば、問題点は解決できるのです。

 とはいえ、個々の裁判所が個別に判断する「保全の必要性」について、法律で擬製するというのは、かなり無理がありますし、法体系の中で、そもそも、プロバイダ責任法の中に条項として入れることができる内容であるのかについても、やはり、疑問があります(もちろん、可能であれば入れて欲しいというのが率直な意見です。)。

 そこで、あくまでも次善の策ではありますが、プロバイダ責任制限法に、

『第4条5項   開示関係役務提供者は、発信者情報仮開示仮処分命令が発令された場合には、仮開示仮処分命令の対象とされた発信者情報以外の情報についても任意に開示をすることができる。この場合において、開示関係役務提供者は、開示によって当該発信者に生じた損害については、賠償の責めに任じない。』

 を追加してはどうかというのが、私の意見です。

 保全手続で、IPアドレス、タイムスタンプの開示を求めて、その開示が認められた場合に、プロバイダにそれ以外の情報を任意に開示することができるようにして、その場合の免責規定を設ける形であれば、他の法律との調整は不要です。

 そして、ここで、電話番号が省令に加えられると、事実上の運用で、仮処分の性質を変えることなく、現状が打破できる可能性があります。

 もちろん、外国法人が開示に応じなければ、これだけでは不十分で、最終的には民事訴訟法の改正が必要になるでしょう。

 しかしながら、保全の必要性の観点から開示を命じられる対象が、IPアドレス、タイムスタンプだけであったとしても、開示を命じる決定が出た以上、裁判所が、権利侵害が明白であると一応判断した訳ですから、明確に免責規定を置けば、開示を拒否する理由は、そもそもないはずです。

 さらに、現在、総務省の「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律に関する解説」36頁に記載のある

 「仮処分の審理であっても、アイ・ピー・アドレス等については、保全の必要性等の要件について慎重かつ厳格な判断を要するべきであり、また、個人を特定することができる氏名及び住所については、その秘匿の必要性は高いことから、その保全の必要性については極めて慎重かつ厳格に判断すべきである。さらに、アイ・ピー・アドレス及びタイムスタンプのみによって氏名及び住所が特定される場合も同様に秘匿の必要性が高いと考えられることから、極めて慎重かつ厳格に判断すべきである。」

 (※仮処分命令の判断に従うなと言っているようにすら読める。)

 の記載については、

「裁判所の判断によって権利侵害が明白であるとされた場合(仮処分命令が発令された場合を含む。)については、裁判所の公権的判断が示された以上、プロバイダ責任制限法第4条1項1号にいう「権利が侵害されたことが明らかである」と判断して差しつかえない。」

 と、速やかに、書き直すべきでしょう。

(改めて、読み返しても、総務省の解説には、腹が立ちます。)

 現行のプロバイダ責任制限法には、権利侵害が明白であるにも拘わらず、手続上の理由で、開示が異常に困難となっているという現状がありますが、それ以上に、旧来の総務省の考え方自体に、非常に問題があります。

 そもそも、自分たちが「開示するな」と言っていながら、任意に開示が進まないなどと他人事のように言っているのですから、そのこと自体に、非常に頭にきます。

 「歴代の担当者、全員出てこい!!」というのが、率直な気持ちですが、旧来の総務省の体質の中で、今回、改正に向けて動いて頂いている担当者の方には、心より敬意を示したいと思います。

 また、今後、予想されるであろう守旧派の「妨害」行為に怯むことなく、被害者救済に向けて必要な改革を行って頂きたいと心より願っております。

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