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高等教育の量的拡大はどのように行われるべきか? - 畠山勝太

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3.日本の大学の状況


a.日本の学生はいつ大学に進学しているか?


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図2

上記の図2は、OECD.StatExtractからのデータで、2009年における大学入学者に占める25歳以上の入学者の割合、すなわち社会人入学者の割合を示している。図が示すように、半分以上のOECD諸国で大学入学者に占める社会人入学者の割合は20%を超えている。さらに、日本を含む二カ国を除いて社会人入学者の割合は10%を上回っている。このように、多くの国が一定割合の社会人入学者を抱える中で、日本では社会人入学の割合がわずか5%しかなく、大学生の殆どは高校卒業後直ぐか数年以内に大学へと進学している事が分かる。

社会人入学者の割合が高くなることで大学教育の質が向上する可能性が存在するし、社会人入学生が少ないという事は一度社会に出た後で学び直す事が出来るという社会の柔軟性が欠如している事を意味しているのかもしれない。しかし、大学教育で形成される人的資本の金銭的価値という点に限って言えば、日本の学生の大学に進学するタイミングは極めて効率的であると言える。

b.日本の学生はどの学部に在籍しているか?

世界銀行のEdStats及びWorld Development Indicatorsのデータを利用して、新卒に占めるある学部の卒業生の割合をOECD諸国で比較してみる。諸外国での研究結果であまり一貫した結果が出ておらず、かつ卒業生が主に公的セクターで就職し労働生産性が賃金に反映されづらい教育学部・医学部及び、OECD諸国で割合がほぼ一様である農学部は比較対象から除外する。

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(図3)


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(図4)

まず人的資本の形成により結びつきやすいと考えられる学部の卒業生が新卒全体に占める割合について考察する。上記の図3は工学系統の卒業生の割合を示している。日本の割合はOECD諸国の中でも6番目に位置されるほど高い。しかし、図4で示されているように、工学系統に次いで人的資本の形成につながりやすいと考えられる科学系統の卒業生の割合はOECD諸国の中で最下位の割合である。
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(図5)

図5は人的資本形成に与える影響が中程度であると考えられる社会科学系統の卒業生の割合を示している。全卒業生に占める社会科学系統の卒業生の割合は、日本はOECD諸国の中でも下位に位置している。

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(図6)


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(図7)

最後に、図6・7で人的資本形成に結びつきづらいと考えられる学部の卒業生が新卒全体に占める割合を提示する。まず、人文科学系統の卒業生の割合であるが、これはOECD諸国の中で6番目に高い。さらに、サービス系統の卒業生の割合についてもOECD諸国の中でも日本は最も高い国の一つに分類される。

また、図示はしなかったがその他の特徴として教育系統・医学系統の卒業生の割合はOECD諸国の中では低い方に分類され、分類できない系統の卒業生の割合についてはOECD諸国で最も高くなっている。

以上をまとめると、日本の大学生は人的資本形成に結びつきやすいと考えられる学部からの卒業生がOECD諸国と比べてやや少ない一方で、人的資本形成に結びつきづらいと考えられる学部からの卒業生の割合はOECD諸国の中でもトップクラスに高い事が伺える。

c.日本の大学の入学難易度が人的資本形成に与える影響

日本の大学の入学難易度と人的資本形成の関係については、小野浩氏が2008年に出版した論文が詳しい。その内容を紹介すると、卒業した大学の入学難易度が上がるほど将来の収入も増加、具体的には卒業した大学・学部の偏差値が1上がるごとに、将来の収入が2-5%程度上昇する結果となっている。さらに、私立大学出身の学生はそうでない学生よりも収入の上昇スピードが遅い事も確認されている。

上記の結果は優秀な人物ほど入学難易度が高い大学に行っているだけではないか、と思われる方もいるかもしれない。しかし、中学校3年生時の通知表の成績が同じであった場合の結果である上に、2種類存在するスクリーニング仮説を立証する方法のうち1つを用いてスクリーニング仮説が成立していなさそうという結果を得ているので、上記の結果は入学難易度の高い大学ほど人的資本形成に成功している、と考える方が妥当である。

また、初回で紹介したものよりも、より洗練された手法を用いた教育投資の内部収益率の計測も行われている。男性の平均的な大学投資に対する内部収益率は7%である一方、サンプルの中で最も入学難易度の高い大学のそれは12.9%、最も入学難易度の低い大学の場合は2.7%となっている。さらに、国立大学を卒業した場合の平均は7.9%、私立大学を卒業した場合の平均は6.7%となっている。

4.過去20年間日本の高等教育はどのように量的拡大を果たしてきたのか?-大学生過剰論の背景

文部科学省の学校基本調査によると、この20年間で大学在籍者数は約74万人増加し、現在では大学在籍者は300万人近い数となっている。

まず、大学の種類別にこの20年間での在籍者数の増加数を見ると、国立大学で約11万人、公立大学で約8万人、私立大学で約57万人、在籍者が増えており、この間の学生数の増加の3/4以上は国立大学よりも学生に人的資本を蓄積させられていないと考えられる私立大学によって担われている事が分かる。

そして、関係学科別に見たこの20年間での学生数の増加は下の図8のようになっている。人的資本の形成につながりやすいと考えられる理学・工学・保健系の医学といった分野では殆ど学生数が増加せず、この間の学生数の増加は主に人的資本の形成にゆるやかにつながると考えられる社会科学分野、及び人的資本の形成につながりづらいと考えられる人文科学・保健系の看護&その他・家政・芸術・その他に分類される分野が主に担ってきた事が読み取れる。

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(図8)

以上のデータから分かるように、この20年間の大学生数の急激な増加は、主に人的資本の形成につながりづらいと考えられるセクター・分野によって主に担われてきた事が読み取れる。加えて、ここは推論になるが、近年出来た大学の入学難易度を考えると、この20年間の大学生数の増加は、これまで大学に行けていなかった層を入学難易度の高い大学にアファーマティブアクション的に取り込むという形ではなく、その層の上から順に輪切りにして、新設された入学難易度の低い大学に取り込むという形で進んできたと考えられる。

大学生の数が多過ぎるという言説は、この20年間の大学の量的拡大の在り方を反映したものである事が推測される。従来の大学生像は国立・理系・入学難易度の高い大学という、人的資本形成に極めてつながりやすいものであったが、この20年間で増加した大学生の姿は私立・文系・入学難易度の低い大学という、人的資本形成に極めてつながりづらいものである。

教育の収益率は個々人によって大きなばらつきがあり、かつこの20年間で新たに大学に行くようになった層を考えると、この20年間で大学を卒業したそれなりの数の人が大学に行かないほうが良かったという結果に終わっている可能性がある事も事実である。大学に行く価値はない・大学生の数は多過ぎるという言説が誤りである事は3章で紹介した研究・データが明らかにしているが、その主張自体は極めて重く受け止められなければならないものである、と考えられる。

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