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海外では30人以上が自殺、『テラハ』木村花さんの死が浮かび上がらせたリアリティ番組の闇 

人気リアリティ番組『テラスハウス TOKYO 2019-2020』に出演していたプロレスラーの木村花さんが、5月23日、22歳の若さでこの世を去ったというニュースが報じられた。自殺と見られている。

Getty Images

フジテレビの地上波放送と合わせて、Netflixで海外にも広く配信されている『テラスハウス』は世界中に数多くのファンを持っている。

英語圏では、木村さんが亡くなった当日からイギリスの公共放送BBCといった世界的な大手メディアがいち早く報じたほか、ハリウッドのエンターテインメント情報誌ザ・ラップは、木村さんへの誹謗中傷に対する、ファンからの怒りのコメントも取り上げて紹介した。

海外のリアリティ番組ファンからは「レアな存在」だったテラスハウス

テラスハウスは「Netflixで観るべき英語以外の番組ベスト○○」といった類のランキングに何度も登場していることからも、海外での人気の高さを物語っていたが、その際、常について回るのが「そこに住む6人の日常を淡々と切り取った、ゆったりとしたリアリティ番組」という点だ。筆者の外国人の友人たちも、淡々と進む日常を描く当番組の面白さを、決まって口にしていた。

というのも、海外で人気のリアリティ番組はまさに「修羅場」を見どころとしていたのだ。例に挙げると、『“ex-エックス”オン・ザ・ビーチ ~戦慄のバカンス~』では豪邸でバカンスを楽しむ8人の男女のもとに元恋人が現れ壮絶なケンカが繰り広げられたり、『ザ・バチェラー』では1人の裕福な男性をめぐり、複数の女性がドロドロの駆け引きを繰り広げたりしていた。

ex-エックス”オン・ザ・ビーチ ~戦慄のバカンス~(MTV公式ウェブサイトより)

一方テラスハウスでは、ある出演者が別の出演者の大切な肉を食べてしまうという、ファンの間ではよく知られた「肉事件」など、過去のシーズンでいくつかの言い合いはあったものの、海外のリアリティ番組に見られるような派手なケンカや、目的のために他の参加者を騙したりなどという泥沼の争いはなく、出演者が思い思いに過ごしていた。海外のファンは、恋愛や友情を育むその姿を楽しんでいたのだ。

Getty Images

アメリカ大手ケーブル局CNNも木村さんの死を報じる記事の中でテラスハウスが欧米で見られる他のリアリティ番組とは違い極端でドラマチックな場面はなく、買い物など日常生活のシーンがゆったり描かれている、という海外の視聴者が持つイメージに触れている。

そんな中で、今回のテラスハウス東京編で起きたコスチューム事件のほか、女性出演者間での激しいケンカ、執拗にも見える異性へのアプローチなど、これまでのシーズンと比べても、よりアグレシッブな描写が目立っていたのは、筆者の気のせいだろうか。

海外のリアリティ番組ではこれまでに38人が自殺

イギリスの大手紙ガーディアンは、木村さん逝去の一報の後、5月27日にはリアリティ番組をめぐるオンライン上での誹謗中傷にフォーカスした記事を出した。

この記事の中では、これまで欧米、アジア、豪州を含む世界中のリアリティ番組において、番組出演中・出演後合わせて、出演者の自殺が38件もあったというという衝撃的な数字が紹介されており、この中にはわずか11歳で自殺を選んだネハ・サワントというインドの番組への出演者も含まれている。

1986年からの合計ということであったが、内訳を見ると2000年以前は2件、2000年代に11件、そして2010年代には25件と年を追うごとに倍増している。記事の中では、強いプレッシャーに晒され続ける出演者に対する制作側のケアの欠如が指摘されているが、リアリティ番組の人気上昇とともに増えている犠牲者の数は、それを裏付けている。

ガーディアン紙の記事より作成

この数字からもわかるように、木村さんの死は決して日本に特有の文化や環境が招いた悲劇ではない。例えば隣の韓国では、10人の男女が一つ屋根の下で共同生活を送るテラスハウスと似たような番組『チャク』に出演していた女性が、2014年の放送期間中、番組内で一緒に住んでいた男性に興味を持ってもらえない「孤独な女」として描かれ、「もう韓国で生きていくことはできない」と思い悩んだ末に自殺を遂げた。

また2018年から今年にかけて、リゾート島で生活を共にする男女を追ったイギリスの番組『ラブ・アイランド』では、司会者を含む男女3人もの出演者が、オンラインでの誹謗中傷を受け命を絶っている。

ここからわかるように、スクリーンに映ったものに対して本当の自分とは違うキャラクターを演じ続けることのプレッシャーや、視聴者に向けて発信されるものに対して、釈明の機会を与えられないという悩みは、出演者にとって非常に大きなストレスになり得る。こういったリアリティ番組というジャンルのあり方自体に、より根本的な問題があるのかもしれない。

海外におけるリアリティ番組では上記のラブ・アイランドをはじめ、キャスティング段階でメンタルの診断や撮影のセットに精神科医を常駐させるなどの対策をしている番組もある。

しかし、出演者が短期間で突然大きな注目に晒されることへのケアや、出演後までも含めた長期間的なサポートが、リアリティ番組においては今以上に求められているだろう。制作側が出演者を守るというのは当然果たされるべき義務であり、その逆の結果を招くというのは、もう二度とあってはならないことである。

あいのり公式サイトより

リアリティ番組というジャンルのもつ「曖昧さ」

リアリティ番組は、『アメリカン・アイドル』や『あいのり』など、国内外で以前から数多くのフォーマットが存在していたが、増加し続けるコンテンツの生存競争に勝ち残るため、さらに強い刺激を追い求めて、アメリカの『デイティング・ネイキッド』のように、参加者の男女が全裸で過ごす姿を見せるような、極端なものも作られた。

そんな中、テラスハウスのような、起きてから寝るまで基本的にカメラが回っているタイプの番組は、ステージ上や好きな人の前で見せる「表の顔」だけでなく、出演者が抱える葛藤やギスギスとした人間関係など、「裏の顔」までも見せるスタイルが受け、20年以上にわたって人気のジャンルになってきた。

だが、こういった番組というのは、監視カメラの映像をただ垂れ流しているのとは違う。作り手がいて、人の手で編集されている以上、制作側の意図が必ずどこかに反映されている。

木村さんの逝去にあたり、その責任の所在を問う報道も増える中、演出とリアリティの認識に関して、制作と視聴者の間にある、大きな乖離の存在が露呈した。

テラスハウスでも、各出演者のセリフ一字一句までを定めた台本は存在しなかったかもしれないが、エピソード全体の中でどういった山場を作り、ドラマとして成立させるかという制作指針は存在していただろう。

また、編集の中で作り手の描く「ストーリー」に沿ったシーンを意図的に選んだり、より目立つようにつなげることは、珍しいことではなかったのだろう。

これまでにも日本では、バラエティ番組のやらせ疑惑が大きな問題となるなど、「正直であること」が、メディアに求められた重要な倫理観であった。だから「台本はございません」という売り文句が、誤解を生んでしまう可能性を大いに孕んでいた。

「リアリティ番組」を謳い、出演者たちが自身の出るエピソードを観たり、インターネット上の評判を確認したりしている姿をエピソード中で見せることもありながら、今回、木村さんが実際に抱えている悩みを、拾い上げることができなかったのは皮肉であり、非常に残念というほかない。

どこまでが「リアリティ」かという問題はついて回る

フジテレビは『テラスハウス TOKYO 2019-2020』の制作・放送の打ち切りを発表した。だが今後新しいシーズンとして、このフォーマット自体が再び戻ってくる可能性は残っている。

上で書いたように、リアリティ番組においては、制作・編集の段階で人の手が入っている以上、その内容に発信する側の意志が介入することは避けられず、どこまでが「リアリティ」なのかという問題は、ついて回ることになるだろう。

出演者が「裏の顔」をむき出しにしてケンカし、嫉妬し、時に大きく失敗する姿までも観ることのできるリアリティ番組は、視聴者の好奇心を満たすものとしての機能と、華麗な成功を収める過去の出演者の姿を見て、同じような成功を手に入れたい、と後に続く出演希望者の利害が一致することで発展し、人気がピークに達したと言える。

だが今回木村さんの死去は、リアリティ番組のあり方を今一度問い直すことになったのではないだろうか。課題は演出の有無という根本的なところから、上で述べたような出演者の描き方やケアの必要性まで、幅広い。

だが長期的に見た場合、そこに抜本的なテコ入れができなかった場合、こうした事件は繰り返され続けるし、その先に待っているのは、このジャンルの衰退である。

一方で、制作側だけが悪であるという単純な問題でもない。度の超えた誹謗中傷で出演者を追い詰めてきたのは、紛れもなくオンラインでの一部の匿名発信者であり、その発言がもたらす結果への想像力の欠如である。

観る側にも、そして作る側にも、各々が社会に向けて発信するものに対して、誰に見せても恥ずかしくないような責任を持つことが求められると、改めて感じた次第である。

参照
Why some fans of Netflix reality-show star Hana Kimura blame her death on cyberbullying(Los Angels Times)
Hana Kimura, Japanese Wrestler and Star of Netflix Series, Dies at 22(The New York Times)
Hana Kimura, Pro Wrestler and Star of Netflix’s ‘Terrace House,’ Dies at 22(THE WRAP)
Japan mulls law to regulate cyberbullying after death of Netflix star Hana Kimura(The Washington Post)
Japan to discuss cyberbullying laws after death of wrestler and 'Terrace House' star(CNN)
Why suicide is still the shadow that hangs over reality TV(The Guardian)
Love Island’s Mike Thalassitis and Sophie Gradon’s deaths among 38 suspected suicides linked to reality TV shows worldwide(The Sun)
Entertainment vs ethics: how psychologists protect reality TV contestants' mental health(JPIMedia)

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