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抗議デモ激化、それでも分断と対立を煽るトランプ - 海野素央 (明治大学教授、心理学博士)

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今回のテーマは、「抗議デモと米大統領選挙」です。中西部ミネソタ州ミネアポリスで、アフリカ系のジョージ・フロイドさん(46)が白人警察官に首を膝で押さえつけられて死亡する事件が起こると、その動画が瞬く間にSNSで拡散しました。その後、全国で抗議デモが起こり、暴徒化しました。その波は今、ホワイトハウスの周辺まで迫っています。

ドナルド・トランプ米大統領はこの暴動をどのように選挙利用しているのでしょうか。本稿では、トランプ大統領の言動から読み解きます。

「強さ」の保持

米メディアは5月31日、ホワイトハウス周辺で大規模の抗議デモがあった同月29日、トランプ大統領がメラニア夫人や息子のバロンさんとホワイトハウスの地下壕に1時間ほど避難したと報じました。トランプ氏はこの報道に怒ったというのです。

おそらく、トランプ大統領は有権者から「弱いリーダー」と見られるのを嫌ったのでしょう。トランプ集会に参加すると、トランプ氏は支持者に向かって拳を握って強さを表現するジェスチャーを必ずします。常に「強いリーダー」のイメージを保持したいという意識があることは間違いありません。

トランプ大統領は、「地下壕に逃げた」という弱いイメージを打ち消そうと、自身のツイッターで民主党大統領候補を確実にしたジョー・バイデン前副大統領をこう攻撃しました。

「寝ぼけたジョーは弱い(省略)。弱さは無政府主義者、略奪者、悪党を打ち負かすことはできない」

自分には「強さ」があり、暴動を鎮静化できる能力があるといいたいのです。トランプ大統領には自己イメージを傷つける報道に敏感に反応する特徴があります。

「神」まで利用するトランプ

トランプ大統領は暴徒を恐れない姿勢を示すために6月1日、ウィリアム・バー司法長官やマイク・エスパー国防長官等の幹部を引き連れて、徒歩でホワイトハウスの傍にあるセント・ジョーンズ教会を訪問しました。教会の前に立つと、右手で聖書を掲げて記念撮影を行いました。支持基盤であるキリスト教福音派に、「信仰心の厚い」大統領をアピールする狙いがあったことは明らかです。

ところが、ホワイトハウスの記者団が「それはあなたの聖書ですか?」と質問をすると、トランプ大統領は「聖書だ」と回答しました。自分の聖書ではなかったのでしょう。信仰心が薄いトランプ氏の選挙目的のパフォーマンスであった訳です。

この件に関して、オバマ支持者の女性は「ドナルド・トランプは教会を訪問したが、お祈りを捧げなかった。聖書も読まなかった」とリツイートしました。結局、トランプ大統領は教会を利用したといえます。一歩踏み込んで言ってしまえば、「神」を選挙に使ったのです。

大統領警護隊(シークレットサービス)の選挙利用?

ところで、この写真撮影を行うために、ホワイトハウス周辺で平和的デモ活動をしていた群衆に催涙ガスとゴム弾が撃ち込まれました。民主党のジェリー・コノリー下院議員(南部バージニア州第11選挙区選出)は、トランプ大統領のやり方に憤激して、大統領警護隊のジェームズ・マレー長官に書簡を送りました。

この書簡の中で、コノリー下院議員は、「大統領警護隊は米大統領を守るのが仕事だが、ファシズム(独裁的国家主義)の道具になってはいけない」と指摘しました。「米国民の憲法上の権利を侵害してはならない」とも述べています。アメリカ合衆国憲法修正第1条は、表現の自由及び平和的な集会の権利を定めているからです。

そのうえで、コノリー議員はマレー長官にトランプ大統領の教会訪問に関する関連資料の提出を要求しました。トランプ大統領が選挙のために大統領警護隊を利用したとみているからです。

「アンティファ(antifa)」を持ち出した本当の理由

トランプ大統領は全国規模の抗議デモの発端となった人種差別問題を「アンティファ」によるテロ問題にすり替えようとしています。米国民の目をアンティファにそらせ、自分は「法と秩序」を守る大統領であるという戦略に出ました。

アンティファは「アンチ・ファシスト(anti-fascist: 反独裁国家主義者)」の略で、極左グループです。反人種差別や反排他主義及び無政府主義を主張しています。1930年代にナチズムに対抗するために、ドイツで台頭したといわれていますが、米国ではトランプ大統領当選後に活動が活発になりました。

2017年8月に南部バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者と抗議活動家が衝突し、女性の活動家が死亡する事件が発生しました。筆者は同年9月、今回の暴動のきっかけとなった事件が発生したミネアポリスで、トランプ支持者を対象にヒアリング調査を実施しました。このとき、白人女性がシャーロッツビルでの事件にアンティファが絡んでいると主張していました(「トランプが『白人至上主義者』に恩赦を出した理由」参照)。

今回トランプ大統領はアンティファをテロ組織に指定すると発表し、極右の白人至上主義者を喜ばせました。白人至上主義者はトランプ大統領の重要な支持基盤だからです。トランプ氏は「アンティファ対白人至上主義者」という対立構図を演出し、それを先鋭化させています。

全ては選挙のために

前述しましたが、ミネアポリスでフロイドさんが白人警察官に殺され、それが原因で同州で抗議デモが起こり、暴徒化しました。にもかかわらず、トランプ大統領は決してミネソタ州の州民を非難しません。それどころか、ミネソタ州の州民は偉大だと褒めたたえています。なぜでしょうか。

16年米大統領選挙においてトランプ大統領はヒラリー・クリントン元国務長官に対し、僅か1.5ポイント差でミネソタ州を落としました。20年の選挙ではミネソタ州は激戦州になると予想されており、トランプ氏は同州の選挙人獲得を目指しているからです。

トランプ大統領はバイデン前副大統領及び民主党を極左とレッテルを貼って非難してきました。もちろん、バイデン氏や民主党は暴力的ではないのですが、極左のアンティファとイメージを重ね合わせています。もうここまでくると、全てが選挙のためです。

あくまでも「分断」と「対立」

トランプ大統領は米国社会にある根深い人種差別問題に正面から向き合うのではなく、選挙を強く意識した言動をとっています。コロナ対応でもそうでした。

つまり、本質的な問題に取り組む意識が低いのです。「分断」と「対立」を煽って選挙に勝つという思考様式が変わらない限り、トランプ氏は根本的な問題解決に乗り出さないでしょう。

「経済」「コロナ」「人種」の3つの危機を、トランプ大統領はアンティファと「中国叩き」で再選にこぎ着けようとしています。

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