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「釣りの終焉」と「フェイクの時代」


インターネットスラングに「釣り」というものがあった。たとえば00年代の2ちゃんねるでは、「釣り」「釣り乙」という言葉がしばしば用いられた。釣りを釣りだと理解していることは、ちょっとしたネットのリテラシーだったものだ。昔の2ちゃんねるの管理人が言っていた、「ウソをウソだと見抜ける人でないと(インターネットは)難しい」という言葉が支持されていた時代でもあった。
 
はてなダイアリー(現はてなブログ)やはてなブックマークでもそれは同じで、「釣り記事」「釣りエントリ」といった言葉が並んでいたものである。わざと突っ込みどころのあるブログ記事を書いたり、たくさんの人の反応を集めるための仕掛けをほどこされたブログ記事などに、そうした言葉があてがわれていた。「大きな釣り針」「錆びた釣り針」といった派生語を用いている人もいた。本人は大真面目にブログ記事を書いたつもりが、「釣り」扱いされて、憤慨している人もいた。
 
なんにせよ「釣り」という言葉があって、皆がそれを共有していた。
 
twitterでも、00年代までは釣りという言葉はそれほどレアではなかった、はずだ。「はずだ」と書くのは、2009年まで私はtwitterを非公開運用しかしていなかったからだが、2010年前半のtwitterでは、まだ「釣り」という言葉が視界に入ったように思う。

「ウソをウソだと見抜ける人でないと(インターネットは)難しい」の終焉

しかし、今日では「釣り」という言葉を用いるネットユーザーは非常に少なくなった。古参のネットユーザーでも、「釣り」という言葉を積極的に選び続けている人は少ない。私だって、「釣り」という言葉をネットスラングとして用いるのは久しぶりである。というか普段は意識にのぼらない。 

いっぽう世間では、フェイクニュースなるものが取り沙汰されるようになった。事実に基づいたメンションを侵食するようにフェイクのメンションが流通し、そのフェイクが影響力を獲得して事実を食い荒らすようになると、フェイクに皆が真剣になって、フェイクに気をつけろ、フェイクに対策しろと言うようになった。

フェイクに気をつけろ、という時の皆の口調は真剣で、「釣り」という言葉を応酬していた頃ののどかさ、おおらかさは無い。「釣り」という言葉にはどこか遊び心があったが、フェイクに関しては、それを流布する側もそれをフェイクだと看破し注意を呼び掛ける側も真剣になっている。

昔、インターネットには「ネタにマジレスカコワルイ (現代訳:ネタに対して本気になって反応しているのは格好が悪い) 」というフレーズがあったけれども、ネタや「釣り」に相当するものがフェイクになってしまった今、このフレーズも通用しなくなったと言える。

伴って、昔の2ちゃんねる管理人が述べていた「『ウソをウソだと見抜ける人でないと(インターネットは)難しい』も終わりを告げた。ウソをウソと見抜けない人がいて、ウソをウソと知りながら流布し、影響力を獲得する人もいるようになった今は、ウソをウソだと見抜けない人がインターネットには満ちている、というのが本当のところだろう。そして私たちは意外に簡単にウソに騙されてしまう。

[参考]:「『ウソをウソだと見抜ける人でないと難しい』という格言はもう賞味期限切れ」という意見に同意の声 - Togetter

今にして思えば、「釣り」という言葉に遊び心が宿り、遊び心のある言葉が流通する程度には、インターネットは遊び場だったのだろう。現実とシームレスではなく、現実と少し距離感をもって付き合う場でもあり、マジになり過ぎたらカコワルイものでもあったのかもしれない。だが、現実とインターネットがシームレスになり、そこでお金や影響力が動くことが皆に意識されるようになるにつれて、インターネットは単なる遊び場ではなく、ビジネスや政治の場になった。

ビジネスや政治の場では、「ネタにマジレスカコワルイ」などと言えたものではあるまい。
「釣り」という言葉が廃れていったのは、時代の必然だったのだろう。

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