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イスラム教徒6割のマレーシアをコロナ禍が直撃 現地在住の日本人専門家が見た宗教と防災 - 松浦象平

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新型コロナウイルスの感染拡大は各国の宗教や文化的慣習にも大きな影響を与えた。半数以上がイスラム教徒であるマレーシアでは、ラマダン(断食)などをどう過ごしたのか。現地で防災分野アドバイザーとして活動する国際協力機構(JICA)の松浦象平専門家に、「宗教と防災」の観点から寄稿いただいた。

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約3千万人の人口を有するマレーシア。

主にマレー系、中国系、インド系の三大民族により構成されており、その内、国教であるイスラム教の信者は約6割を占める。

当国のマジョリティーであるイスラム教が国民の思考態度や社会的行動に与える影響は大きいことは過言ではなく、感染症や自然災害の管理や予防対策にも現れていると思われる。

宗教と人々の防災行動の関連性に関する調査や研究は限定されているが、その限られた数の文献の中で、イスラム教徒の多くが災害は「神の業」によるものであり、人は苦境に置かれて試練を与えられていると信じているということを何度か耳にしてきた。

災害は日々の悪い行いを正すための神からの我々に対する暗示であるという考えもあるようである。そして、この状況を乗り越えるには、アッラーの擁護を祈願し、信仰心を一層高めるしかないと信じる人々は決して少なくない。

※神の業:Act of God

イスラム教の大集会でクラスター 東南アジアで最大の集団感染に

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マレーシアで新型コロナウイルスの危機感が全国的に広まったのは、2月下旬、首都クアラルンプールで開催されたイスラム教の大集会でのクラスターが明らかになってからであった。

国内外からの約1万6千人の参加者が数日間にわたり、狭い会場で礼拝し、宿食をともにしたとのことであり、まさに3密の状態であったと言われている。

結果として、673人の感染が確認され、東南アジアで最大の集団感染の事例となってしまった。

その後、マレーシアの感染者数は日々増加し、一時、ASEAN諸国で最も感染者が多い国となったが、ここからの対応に目を見張るものがある。

マレーシア政府は、コロナ問題を公衆衛生上の問題から国家安全保障の問題と位置付け、ムヒディン新首相の下、世界的にも厳しいとされる事実上のロックダウンである活動制限令(MCO)を3月18日に発令した。

※MCO:Movement Control Order

夜8時以降は外出禁止 ロックダウンで激変したマレーシア生活

断食明けの食事を購入するためソーシャルディスタンスを保ちながら並ぶ市民(JICA提供)

活動制限令により現地の生活は激変した。

生活用品買い出しのための外出は1世帯1名に制限。スーパーではソーシャルディスタンス実施のため、長い列で待つことになり、入り口では検温、手の消毒、手袋が配布され、店内の人数も制限された。

クアラルンプール市内のフードコート。一席開ける配置になっている(JICA提供)

市場の入り口で見られるソーシャルディスタンスを保つための工夫(JICA提供)

市内のレストランやバーは出前を除き閉鎖され、ホームパーティや自宅のコンドミニアムの敷地内の散歩ですら禁止された。

学校も閉鎖されたため、息子の授業はすべてオンラインになり、仕事も自宅勤務となった。

さらに、夜8時以降の外出が禁止され、警察と国軍が路上検問を実施し、人々の行動を厳しく取り締まった。

ジョギング中の日本人らが逮捕 地元からは不満の声

スーパーに入るためには、検温し、氏名と連絡先を記載することが必要(JICA提供)

このような状況下、外国人が多く暮らす自宅付近で活動制限令を無視してジョギングをしていた日本人4名を含む計11名の外国人が警察に逮捕されるというニュースが流れた。

これに対し、地元住民はSNS上で、「我々は地域コミュニティの健康を守るため活動制限令に忠実に従っているのに、外国人は自分勝手な行動を取っていいのか?」と不満を露わにしたという。

今後、しばらくの間、外国人の行動がシビアに監視されるのではないかと緊張感が走った。

イスラム教徒にとって最も重要な時期 断食など宗教行事にコロナが影響

ソーシャルディスタンスを保った形での礼拝(JICA提供)

活動制限令はその後、4回にわたり延長された(現フェーズは6月9日まで)。このムヒディン首相の政治判断による徹底した対策に安心感を覚えたが、やはり行動制限下の生活は息苦しいものである。

さらに困難な時期を過ごしたと言えるのはこの期間中、ラマダン(断食)やハリラヤ(ラマダン明けの祝祭)といった宗教行事を迎えたイスラム教徒であろう。

※イスラム教最大の祝祭である「イード」をマレーシアでは「ハリラヤ」と呼ぶ

「Malaysians prepare for a different kind of Raya
(マレーシア人は、いつもとは違うハリラヤに備える)」
地元紙The Star(5月2日)

ラマダンとはムスリムが1ヶ月の間、日中の飲食を断つ「聖なる月」のこと。


イスラム教で義務とされる五行
信仰告白(シャハーダ)
礼拝(サラー)
喜捨(ザカート)
断食(サウム)
巡礼(ハッジ)
をより厳格に実行し信仰心を高める、ムスリムにとって一年の中で最も重要な時期である。

ラマダン中に断食することは一般的によく知られているが、その他にも喫煙、性行為や喧嘩なども禁じられる。さらに、タラーウィーと呼ばれるラマダン中だけ行う礼拝もある。

マレーシア国民の連帯感が最高潮になるラマダン明けの祝祭も…

ラマダンとハリラヤは家族や友人とともに過ごすムスリムにとって重要な時期(昨年の様子:JICA提供)

何かしら重々しい雰囲気と思われるラマダンであるが、実はとても賑やかで楽しい一面もある。

普段のラマダン中は、日没後の食事の時間になると、街には一気に活気が戻り、レストランやラマダン・バザールと呼ばれる路上の屋台には行列ができる。大晩餐会があちらこちらで展開されるのだ。

ラマダン明けのハリラヤになると、祝賀ムードは益々エスカレート。クアラルンプールなどの大都市で暮らす地方出身者はハリラヤ休暇を家族と過ごすため、一斉に帰省する。

ラマダン・バザールでは、断食明けの食事や贈り物を大量に購入する(昨年の様子:JICA提供)

また、この時期に多いのがオープン・ハウスだ。家族、親戚、友人、ご近所さん、職場の同僚、さらには知らない人までも家に招き入れ、食事を一日中振る舞い、ともに祝うのである。

一度、筆者がドライブ中、路上で信号待ちをしている時に、近くの住民から満面の笑顔で飲み物と食べ物を渡された時は、さすがに驚いた。ムスリム同士はもちろんのこと、マレーシア全国民の連帯感が最高潮になるのがハリラヤである。

「こんな事態は初めて」 礼拝やラマダン・バザールでの食事会が原則禁止に

しかし、今年はコロナの予防のため、礼拝やラマダン・バザールなどでの食事会は原則禁止となった。オープン・ハウスにおいても、不特定多数の訪問者が集合するような催しを取り締まると警察は警告している。

州を跨ぐ移動も禁止されたため、帰省できない多くの人が家族と離れたハリラヤを過ごすことになった。

自然災害、産業事故、政治危機などの様々な危機を経験してきたマレーシアだが、多くのマレーシア人の知人は「このような事態を目の当たりにするのは初めてだ」と口を揃える。

人々が集まる機会が多い時期であるからこそ、敢えて厳しい予防措置を取ったマレーシア政府。幸いにも、この措置の成果は、新規感染者数の確実な減少に現れ始めている。

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