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COVID-19重症化に関わる生物学的「ファクターX」は?:その1

一つ前の投稿で、東北大学におけるCOVID-19対応についての学内向けオンラインイベントが続けて2つ開催されたことを述べたが、実にタイムリーであった。緊急事態宣言解除後もここ数日、感染者のクラスターが生じた地域もあるが、振り返ってみれば、日本で発症日のピーク、もしくは「再生産係数」が1を下回ったのは4月1日頃であり、いわゆる「第一波」は乗り越えたと考えられる。

他国からみれば極めて「緩い」自粛にも関わらず、医療崩壊に至らなかったのは、国の新型コロナウイルス感染症対策専門家の一人である押谷仁教授の話によれば、以下に尽きるという。

1)クラスター(集団)の早期発見・早期対応
2)患者の早期診断・ 重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保
3)市民の行動変容

1)は日本独自のアプローチである。WHO事務局長がいいっとき「Test, Test, Test...!!!」とPCR検査を推進したように、多くの国では陽性者を隔離するためにPCR検査をできるだけ行う方針であったが、日本では感染状況の把握から「クラスター」を発見することを優先的に進めた。

それは2)ともリンクしていて、医療インフラを重症者に残すことにより、医療崩壊を防ぐというやり方だった。実際、東北大学病院長の冨永先生の話によれば、最後の砦とも言うべきECMO(体外式膜型人工肺)を装着する患者が1名出ると、本学病院では他の手術は一切行えなくなるくらいの影響があるとのこと。これまでの報道でもあまり見えてこなかったが、このあたりが重症者が多かった国々との大きな差であったように思われる。

3)市民の行動変容についていえば、100年前のいわゆる「スペイン風邪(実際にはその当時の新型インフルエンザ)」がパンデミックとなったとき、日本ではすでに、患者の隔離、患者の介護者を1名に限定する、マスク着用等の意識が高まっていた。その後、給食当番がマスクをするなどの衛生意識は一般市民でも常識として刷り込まれており、季節的な花粉症の流行も、マスクの着用が不思議がられることは少なかった。

高知新聞HP:「マスク着用を」100年前も スペイン風邪3年間で3回流行(2020.5.17)

今回、新たにCOVID-19蔓延を防ぐために新たに提唱されたのが「3密排除」であった。クラスターがどのような状況で生じたかの分析により、「密閉・密集・密接」の3つの要素が重なるところに感染が生じやすい、ということが繰り返し報じられた。他の国々ではsocial distance(正確にはphysical distance)として理解されているが、日本の「3密排除」はより徹底したスローガンであったと思う。

さらなるクラスター解析からは、以下のこともわかってきた。

●換気量が増大するような活動
●大声を出す
●歌う
●1対複数の密接した接触
●多くは咳・くしゃみがなく通常の飛沫感染ではない
●接触感染(Fomite Transmission)は起こりうる

上記の中の「通常の飛沫感染ではない」という点は、もしかすると、初期の感染が口腔内で生じ、唾液にウイルスが多数含まれるということと関係しているのかもしれない。これは、初期症状が味覚異常、嗅覚異常であることとも符合する。したがって、大声を出したり、歌ったりというのは、咳の症状が無くてもリスクが高いということになる。

Xu et al.: Saliva: potential diagnostic value and transmission of 2019-nCoV. Int J. Oral Sci, 12, 11, 2020

熱や咳などの症状が出るよりも前にウイルスが放出されて感染させるという点は、インフルエンザと大きく異なり、COVID-19の対応のやっかいな点であることがよくわかった。

さて、まだまだ感染が拡大している地域があるものの、世界のフェーズはワクチンや治療薬の開発に向かっている。生物学、生命科学、基礎医学に軸足を置く身としては、やはり、なぜ「日本の重症者が少なくて済んだのか?」という点が依然として気になるのである。

上記に挙げたような文化的・社会的背景はもちろん大事であり、大きな影響があったと思うが、私は生物学的な理由があるのかどうか、あるとすればそれが何なのかがどうしても知りたいのだ。それは予防や治療に役に立つはずであるからだ。

なお、重症者の割合が少ないのは日本だけではない。重症者を反映すると考えられる人口10万人あたりの死亡者を見ると、東アジアの国々は、ことごとく世界平均より下回っており、また日本はむしろこの集団の中ではもっとも死亡率が高い国の1つ(トップはフィリピン)である。(画像は6月2日時点の札幌医大 フロンティア研 ゲノム医科学サイトより作成)

3月末の時点で、「欧米と日本の重症化率の違い」として公開情報から筆者がもっとも注目した要因は「BCG接種の有無」であった。SNS上でこの説をJSatoNotesというブログサイトで最初に知ったが、この仮設の興味深い点は、単に国ごとのデータの相関性が高いということだけでなく、「自然免疫」が「BCG(や結核感染)」によって「訓練される」という「Trained Immunity」という可能性をベースにしていることにある。

拙ブログ:【さらに追記しました】新型コロナウイルスとBCG(2020.3.28)

週刊ダイヤモンドオンライン:コロナにBCGは「有効」なのか?東北大・大隅教授が緊急解説(2020.4.13)

「免疫訓練」の可能性については、免疫学の大家である大阪大学名誉教授の宮坂昌之先生も着目され指摘されている。

木村正人氏によるYahoo!記事:新型コロナとBCGの相関関係について免疫学の宮坂先生にお伺いしました(2020.4.5)

同じく免疫学がご専門で元阪大総長の平野俊夫先生も、数日前に日本医師会COVID-19有識者会議のサイトに公表された原稿の中で触れておられる。

日本医師会COVID-19有識者会議:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はサイトカインストーム症候群である(2020.5.28)

また、藤田医科大学の宮川剛教授は、3月17日以降、BCGおよび結核感染ととCOVID-19による死亡率に関しての解析を細かく行い、種々の交絡因子を考慮しても因果関係が強いという主張のプレプリントをmedRxivに公開している。

medRxiv:Association of BCG vaccination policy and tuberculosis burden with incidence and mortality of COVID-19

一方、なかなかすっきりしないと思っていたことがあった。

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