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10条問題の制度的瑕疵について

昨日オンライン上で実施したカジノ系会合で、参加者の方から以下の様な質問が出ました。


IR整備法第10条問題(以下「10条問題」)に関して、改めて何か解決策はないのか?


10条問題というのは、IR整備法第10条に定められたIR整備区域の認定期間を巡る問題。IR整備法は、この区域認定期間を当初10年と定め、またその後5年ごとの更新としています。この区域認定期間は、他国でいう所のライセンス期間に相当するものですが、マカオの20年、シンガポールの30年と比べると圧倒的に短く、またこの期間には施設建設の期間も含まれるため、当初の認定で営業が出来る期間は実質的に5年から6年。その様な短い期間で数千億円の開発投資が回収できるワケもなく、この10条問題が先日発表された世界最大のカジノ企業、ラスベガスサンズ社の日本撤退の主原因ともされています。

【参考】IRスジュールに変更なし=米サンズ計画断念で官房長官
http://www.asahi.com/business/reuters/CRBKBN22P1AT.html

まず二度とこのような事が起こってはならないので、前提としてこの10条問題が発生してしまった原因を整理しますが、この問題の発生原因は100%「行政の不作為」にあります。

カジノが如何に高収益と言えども数千億円の開発投資を実質5~6年で回収などという制度設計が常軌を逸している事は、火を見るよりも明らかであり、もしこの制度案が事前に知れていれば私を含めてすべての専門家および業界関係者は事前に大騒ぎしていたハズです。では、なぜこのような法律が成立してしまったかと言うと、IR整備法案を提起した役所の担当部局、具体的にIR推進本部事務局がこの法律案を国会提出までずっと秘匿にしており、適正なパブリックコメントのプロセスすら経なかった事にあります。

そもそもIR整備法の提起にあたっては、その前身となる2016年成立のIR推進法の付帯決議によって「必要となる法制上の措置の検討に当たっては、十分に国民的な議論を尽くすこと」との議決が行われており、法案の国民周知とその十分な意見の吸い上げは政府に課された努力義務でありました。

【参考】特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案に対する附帯決議 
https://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/192/f063_121301.pdf

しかし、このIR推進法による規定を受けて、その法の整備にあたるIR推進本部は「表面上は」上記付帯決議に則り国民的な論議を尽くす「ポーズ」は採りましたが、実際は全くそういう姿勢は採っていなかったのが実態。当時IR推進本部は「各省の所握分野がまたがるIR導入政策において非常にバランスの取れた調整事務を行っている」と中央省庁内では一定の評価を得ていたのは事実でありますが、一方で地方自治体や民間からの評判は最悪。要は、IR整備に関わる「横」の省益調整にばかり気を払い、一方でIR整備実務にあたる地方自治体、そして実際の施設開発と運営を担当する民間に対しては適切な配慮が行われないという、完全なる「国策主導」の施策となってしまっていたのが実態です。

その様なIR推進本部の姿勢が最悪の形で表れてしまったのが、IR整備法案の提起プロセスです。先述の通りIR整備法はその前身となるIR推進法付帯決議により「必要となる法制上の措置の検討に当たっては、十分に国民的な議論を尽くすこと」と定められています。IR推進本部はこの規定に基づいて、公聴会の実施など様々な形式上の意見聴取のプロセスは採りましたが、実は最も重大な場面においてとんでもないサボタージュを行った。彼らは、IR整備法の成立過程においてパブリックコメントの実施を行わなかった…いや、実際には「パブリックコメントを実施した『フリ』だけをした」という表現が適切でしょうか。

当時、IR推進本部が何をやらかしたかというと、国会への法案提出の前段階において、法案そのものに対するパブリックコメントを実施せず、法案作成の前提として開催されていた有識者会議の意見とりまとめ文書に対するパブリックコメントのみを実施し、その代用としました。以下は、当時行われたパブコメ実施概要へのリンク。

【参考】「特定複合観光施設区域整備推進会議取りまとめ~「観光先進国」の実現に向けて~」に対する意見募集について
https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=060170801&Mode=0&fromPCMMSTDETAIL=true

この時行われたパブリックコメントにおいて政府側から示されていた資料は、法律案ではなく有識者会議がとりまとめた意見書のみ。当然、そこには私も含めて沢山の業界関係者が法制上の課題を示しましたが、法律案そのものが示されていない中でより具体性を持った問題の指摘が出来るワケがありません。

そして、何よりも驚くべきことはIR推進本部はこの有識者会議の取りまとめ文書へのパブリックコメントをもって、IR推進法付帯決議にも定められた「必要となる法制上の措置の検討にあたっての十分に国民的な議論」は了とし、自分達が最後の最後まで秘匿し続けたIR推進法案をそのまま閣法として国会に提出させてしまったということです。要は、実は冒頭のご紹介した10条問題を含め現在業界内で指摘されているIR整備法上の致命的な問題点は、パブコメの対象となった有識者会議資料にもその記載はなかったもので、既に法案が国会に提出される段階まで私を含めて殆どの人間が認知をしていなかったのが実態であります。

勿論、法案提出がなされその実際の法案の姿が世に知れた段階で、私を含めてホンの一部の専門家は整備法上の問題点をいち早く察知し、大騒ぎをしました。当時、私も様々な形でその問題点を指摘し、またその意見を汲んでくれた議員が実際に法案審議時の質疑においてその問題点を指摘してくれるなどのバックラッシュも小さなレベルでは発生しました。一方で、現在の様に与党圧倒的多数の議会において、政府提出の閣法への修正は並大抵のことでは起こりません。結果的にIR整備法は、あらゆる制度的瑕疵を内包した形でそのまま成立をしてしまったわけであります。

以上の様に10条問題を始めとするIR整備法が抱える制度的瑕疵、そしてその瑕疵に起因して現在、地方自治体や民間事業者が抱えている様々な難局は、すべてIR整備法の提起を担当したIR推進本部事務局による一種の「サボタージュ」によって生まれたものです。あのとき中央省庁間の省益調整のみに邁進せず自治体や民間からの意見聴取をマジメにやっていれば、あのとき提出前法案をちゃんと示した上でまともなパブリックコメントの実施を行っていれば、直ぐに問題点の指摘は行われその修正はなされていたハズのもの。

今更、こんなことを解説したところで法が既に成立してしまっている今、何の解決にもならないのですが、二度とこのような事が起こらぬ様、当時行われたIR推進本部による不作為をここに明確に記しておきたいと思います。ホントに当時、IR推進本部事務局を主導した某財務官僚は日本のカジノ産業最大の戦犯者だと思っている。彼にはその誹りを一身に受けながら、今後の人生を歩んで頂きたいと思います。

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