- 2020年05月29日 16:02
新型コロナ「追跡アプリ」がもたらす恐ろしい未来 - 山田敏弘
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世界的ベストセラー『サピエンス全史』(河出書房新社)の著者ユヴァル・ノア・ハラリは、世界で蔓延している新型コロナウイルス対策について、『アルジャジーラ』にこう語っている。
「感染症の大流行とそれによる経済的な危機を軽減するために、使えるテクノロジーはすべて使うべきだ」
世界では現在、新型コロナの感染者を追跡するスマートフォンのアプリが30種類ほどシステム開発されており、各国で導入されている。
追跡アプリとは、PCR検査で陽性反応が出た人の行動を把握し、その人物と接近した人などを追跡することで、感染拡大を抑えようというものだ。
日本でも、官民共同で進めていた感染者追跡アプリを厚生労働省が主導して開発・運用することが決まっている。ただ、グーグル社とアップル社の規格を利用するため、導入は6月以降になりそうだ。
日本の新型コロナ対策は、世界的に見ても一貫して悲しいほど動きが鈍いが、ここでもそれは同じようだ。
ハラリは、先のコメントにこう付け加えている。
「ただ、慎重に使うべきなのです」
追跡アプリに対する警戒感は根強い。人の行動を追うだけに、プライバシーの侵害に繋がったり、政府による監視に使われたりするのではないかという懸念が議論になっているのだ。
新型コロナが収束した後も、引き続きそうした技術が使われる可能性も否定できず、そうなれば新型コロナが私たちのプライバシーの概念を変えてしまいかねない、と見る向きもある。そしてその先には、恐ろしい世界が広がる可能性も考えられる。
では、既に導入されている国で、そもそも追跡アプリはどんな形で使われているのだろうか。
強硬なアプローチを採用する韓国
まずは日本でも追跡アプリが話題になった韓国だ。
韓国の追跡システムは、言うなれば、犯罪者を追跡するように、感染者と感染の可能性がある接触者を追いかけるものだ。
スマホの位置情報で彼らがどこにいるのかを把握し、さらにクレジットカートなどの情報を紐付け、誰がどこで食事や買い物をしたのかがわかるようにもなっている。各地に張り巡らされた監視カメラの情報とも繋がれ、行動が追跡される。これによって、感染後の行動だけでなく、感染前の行動も把握する。
自分がどこで何をしていたのかすべて調べられると考えると、気持ちが悪いが、韓国に国外から入国する際には、政府系の追跡アプリのダウンロードが義務付けられている。
追跡アプリに加えて、韓国では感染者がどこで何をしたのかという情報を広くスマホに通知するシステムもある。
ここまでの取り組みは、欧米諸国ではプライバシー問題で導入することが難しいだろう。
ベルギー誌『ブリュッセル・タイムズ』は韓国のこうした取り組みについて、
「韓国のアプリなどは強硬なアプローチが採用され、データ保護やプライバシー、さらに自分の情報をどう使われるか決める個人の権利を無視している」
と指摘している。
監視の度合いが強まっている中国
プライバシー上の懸念を無視して追跡アプリなどによる新型コロナ対策に乗り出しているのは、韓国だけではない。韓国以上に徹底監視しているのは中国だ。
中国では、大手IT企業の「アリババ」と「テンセント」がそれぞれアプリを開発。ユーザーはアプリをダウンロードし、個人情報だけでなく、体温や健康状態なども入力して監視される。過去14日間の移動履歴や、感染者などに接近した記録も残される。
また、人口比で世界で最も監視カメラの数が多い中国だけに、監視カメラによる監視も行われているという。
そして外出して公共交通機関を使ったり、店舗に入ったりする際には、健康状態を示す色分けされた「ヘルスコード」(QRコード)を提示する必要がある。
グリーンなら安全で移動が許されるが、レッドならどこにも出歩けない。店舗や職場などにも行けない状態で、自主的に隔離生活を送る必要がある。
ちなみにこのサービスは政府が実施していると喧伝されているが、実際にアプリを調べてみると、個人のデータが警察にも送られていることが暴露されている。
普段からネット監視や検閲などが厳しく行われている中国なら、もはや驚きすらしないが、それでも新型コロナ対策によって、当局が国民の健康状態などさらなる個人情報を入手できてしまっていることは看過できない。監視の度合いが強まっているのである。
今回の追跡システムにも関わっているアリババやテンセントは、スマホ決済で中国を席巻しており、都市部ではスマホ決済がなくては生活が不便になってしまうほど。おそらく、個人の行動や買い物、ローン状況など生活に関わるあらゆるデータを大量に蓄積しており、それらもまとめて移動履歴や健康状態と紐付けられているはずだ。
アジアのみならずヨーロッパでも
新型コロナ対策の成功国として評価されている台湾でも追跡アプリが導入されている。14日間の自主隔離をしなければならない人たちがアプリを利用し、少しでも家から離れたりすると警告が届くシステムだ。ちなみに違反者には罰金が科される。
台湾はまだ感染者数が少なかった今年1月末にはアプリ開発に乗り出し、数日でアプリを完成させ、スピード感をもって導入している。民間では、マスクの在庫などを示すアプリも開発されて、多くの人に利用された。
ただ、こうしたアプリもかなりの個人情報がスマホから吸い上げられているとの指摘もあり、警戒する人たちもいる。
また香港では、隔離の際に行動をトラックするリストバンドをつけるよう義務付けられているし、シンガポール政府が開発した新型コロナ対策アプリも接近した人たちを記録するものだ。
インドでも、政府が開発したアプリのダウンロードが国民全員に実質強制され、利用されている。
アジアだけではない。
ドイツ政府も、睡眠時間や脈拍、体温を管理するスマートウォッチ用のアプリを提供している。
アイスランドではGPS(全地球測位システム)を利用した追跡アプリが使われた。



