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貧困の「現場」から見た生活保護  - 大西連

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■はじめに

 8月10日、消費増税法案を含む「税と社会保障の一体改革」関連法案が、参議院本会議で民主・自民・公明など与野党各党の賛成多数で可決され、成立した。各法案についての解説や評価は専門家のみなさまにお願いしたいが、少なくとも2014年4月に8%、2015年10月には10%、消費税が段階的に引き上げられることが決まった。

また、野田内閣は8月17日、2013年度予算の概算要求基準を閣議決定した。その中の社会保障費に関して、高齢化による年金・医療費などの自然増分(約8千億円)は認めるが、約3兆円以上の生活保護費については「見直し」を明記し、削減する方向を打ち出した。すでに厚生労働省が給付水準や受給資格の見直しを検討しているとの報道もある。

私たちの「くらし」を左右する「政策」は、今、目まぐるしく動いている。特にこの間、社会保障全般の動き、特に最後のセーフティネットと呼ばれる「生活保護制度」の動きは常に政局の影響を受けてきた。5月には芸能人の母親が生活保護を利用していることに対して、現職の国会議員が名指しで批判をするなどの「生活保護バッシング」が連日メディアを賑わせた。また、「生活保護受給者戦後最多の約210万人」「財政負担約3兆5千億円」「働けるのに働かない受給者が16%」などなど、数字の一人歩きも目立つ。某政党は選挙をにらんで、代替案のない「生活保護費の10%カット」「生活保護費の現物給付(食料の配給など)」「生活保護の有期化」などの提言を掲げている。

生活保護をめぐる議論は一体どこへ向かっているのだろうか。政局や感情、風潮に流されたロジック、実際の制度の運用現場の実態を無視して、あるいは慎重に観察することもないまま、本当に必要な社会保障制度の在り方についての議論が果たしてできるのであろうか。

本稿では生活保護制度の実態と、それに振り回される「困っている人々」の姿について、ほんの少しであるが触れたいと思う。実際の制度はどうなっているのか、いま現場で何が起きているのか、限られた視点からではあるが、一緒に見てもらいたい。本稿が冷静で丁寧な社会保障制度についての議論、持続可能なセーフティネットを作るための議論の一助になれば幸いである。

■私の立ち位置

 本題に入る前に、ここで筆者の立ち位置を明らかにしたい。私は、新宿での路上生活者への炊き出しと夜回りの活動から始まり、今は主にNPO法人自立生活サポートセンター・もやいというところで活動している。http://www.moyai.net/

<もやい>では、生活困窮者・路上生活者の生活再建のお手伝いとして、生活保護などの社会保障制度を利用するにあたっての相談・アドバイスや、安定した「住まい」がないなどのホームレス状態にある方がアパートを借りる際の「保証人」になるなど、「経済的な貧困」と「つながりの貧困(人間関係の貧困)」の問題に取り組んでいる。また、サロンなどの「居場所作り」の活動や、フェアトレードコーヒーの焙煎などの「仕事作り」にも取り組んでいる。

私は主にこの<もやい>を中心にいくつかの団体で、面談や電話、メール等で生活相談(生活全般の相談)に参加している。

私が携わる相談は様々だ。「貧困」や「生活困窮」というと、いわゆる「路上生活者(ホームレス)」「派遣切り」などを連想しがちだが、実際はそれにとどまらない。DV被害から子どもと一緒に逃げてきた女性、重い精神疾患を抱え地域の中で孤立している男性、部屋にひきこもって毎晩リストカットしてしまう女性、元暴力団員で覚せい剤をやめられない男性……などなど、本当に一人ひとりさまざまな状況や背景をお持ちになっている方が多い。

みんな一人ひとり違う事情で「困っている」のだ。そして、それらの状況や背景が、困難さの要因となってそれぞれ重なって、連鎖して、最終的に「生活困窮」の状態に陥って相談に訪れる。私が現場の人間としてできることは、日々訪れる「困っている人々」に対して、いかに既存の公的な制度によるサポートを受けられるようにするかしかない。

ここでは、そういった相談の現場の視点から、生活保護制度の実態と、見えてきている課題について一緒に考えていきたい。

■生活保護制度について

先日、日弁連が生活保護についてのパンフレットを作成した。日弁連パンフレット「今、ニッポンの生活保護制度はどうなっているの?」(http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/seikatuhogo_qa.pdf)というものである。

また、生活保護問題対策全国会議(法律家・支援者・当事者などを中心に構成された団体)を中心に、以下の本も立て続けに出版された。

『法律家・支援者のための生活保護申請マニュアル2012年度版』(編著:生活保護問題対策全国会議 発行:全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会)『間違いだらけの生活保護バッシング-Q&Aでわかる生活保護の誤解と利用者の実像』

(編著:生活保護問題対策全国会議  発行:明石書店)

いずれも、生活保護制度のことをきちんと知って、困っている人が正しく利用できるようになることを目的に、専門家によって分かりやすい解説がなされている。また、<もやい>でも「生活保護活用ガイド」を作成し、実際に被災者支援を行う支援団体に配布している。http://moyai-files.sunnyday.jp/pdf/seiho-guide_1.0

詳細な生活保護制度の説明は、これらの本をご参照頂くとして、ここでは生活保護制度の実態に関する部分だけ、簡単に紹介しておこう。ご存知の方はこの部分を読み飛ばしてもらって構わない。

生活保護制度は、憲法25条で掲げられた「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するための制度で、生活保護法を根拠にしている。

生活保護の目的は、生活に困窮した方が生活に困らないように保護して、自立を助長することである。つまり、生存権の保障である。そして、生活に困っていれば(そして要件に合致していれば)、誰でも、いつでも、どこに住んでいても、過去のことや生活に困った理由に関係なく自由に利用することができる。これを無差別平等の原則と呼ぶ。

同時に生活保護には、原則として「個人単位」ではなく、「世帯単位」という特徴がある。この場合の「世帯」とは、血縁上の家族や住民票上の世帯と必ずしも同じではなく、「同一の住居に居住し、生計を一にしている」ことを意味する。すなわち、実際は入籍していない「事実婚」であっても、はたまた「同性間のカップル」であっても、実態として同居し、かつ家計が一緒であれば「同一世帯」として認められる。そして、その「世帯単位」で、生活に困っている状況・程度に応じて、必要な保護を行う。

■生活保護の要件と「健康で文化的な最低限度の生活=最低生活」

生活保護の要件は「資産や能力など、すべてを活用してもなお生活に困っている」ということである。これを少し砕いてみると、大きく分けて次の4つの要素になる。

第一に「収入が最低生活費以下」であること。第二に「資産を活用しても最低生活が保てない」こと。第三に「働けない、もしくは働く場がない」こと。第四に「あらゆる手段(年金や手当などの他の制度など)を使っても最低生活費に満たない」ことである。

ちなみに「扶養義務」は保護の要件ではなく「優先しておこなわれるものとする」とのみ定められていて、DVや虐待など家族や親族と離れて暮らす必要がある場合も多く、必要な保護を妨げるものではない。

では、「生活に困っている」ということ、つまり「最低生活以下であること」はどう定義され、かつ、どのような形で生活保護制度によって保護されるのだろうか。生活保護制度では「健康で文化的な最低限度の生活=最低生活」を8種類の「扶助」という形で定義している。一つずつ紹介しよう。

まず、「生活扶助」。生活扶助とは文字通り、生活全般にかかる費用のことで、食事や洋服、光熱費やその他日常の消耗品などにかかるお金である。生活扶助はl類とll類とあり、l類は「個人消費」としてかかる費用で、個人の食事や被服費などを意味し、ll類は「世帯消費」としてかかるお金で、光熱費などの世帯を維持するためにかかる費用をあらわす。そして、生活扶助に関しては、障がいや妊産婦、母子など、本人や世帯員の状況により「加算」といってl類・ll類以外にプラスされる場合がある。生活扶助に関しては現金給付される。

次に、「住宅扶助」。住宅扶助は「住まい」にかかる費用のことである。家賃や地代など安定した住まいを維持するために必要な費用を、基本的に実費分の現金給付にて支給される。後述するが地域や世帯員の状況によって上限額があり、その範囲の実費分である。

3つ目は「医療扶助」。医療扶助は「医療」や「看護」にかかる費用のことであり、必要最小限の範囲でのサービスの現物給付が行われる。ちなみに医療扶助費は生活保護費全体の約47.2%にのぼり、最も大きな割合を占める(平成22年度生活保護費負担金事業実績報告より)。

4つ目は「教育扶助」。生活保護を利用する世帯の子どもが義務教育を受けるために必要な学用品などの費用を、必要最小限の範囲で現金給付するものである。ここには教材費や給食費などが含まれる。

5つ目は「介護扶助」。要介護または要支援と認められた方に対して、原則として介護保険と同等程度の範囲でサービスの現物給付を行う。

6つ目は「出産扶助」。出産する際にかかる費用に関して、必要最小限の実費分の現金給付を行う。

7つ目は「生業扶助」。仕事に就くために必要な費用の、必要最小限の実費分を現金給付。高等学校などに就学するための費用や就職の支度金(スーツ代など)なども含まれる。

8つ目は「葬祭扶助」。亡くなった際にかかる火葬や埋葬、その他手続きの費用であり、必要最小限の実費分の現金給付が行われる。

そして、この8つの扶助以外にも「一時扶助」として、生活の状況、世帯員の状況によって一時的にお金が必要になった場合、実費分(必要最小限の範囲)支給される枠がある。(具体的には、やむを得ず引っ越しをする場合の引っ越し代や、住居がない方がアパートを借りるための初期費用など)。

このように、8種類の扶助と一時扶助において、国は最低生活を定義している。そして、それぞれの扶助に関して、年齢別・性別・世帯構成別・所在地域別に、「基準」を設けていて、その基準額、もしくは基準内の必要最小限の実費分が、その「世帯」の最低生活ラインとなる。

■最低生活=生活保護基準

では、その基準はどうやって決められるのであろうか。「生活保護基準」は1年に1度、消費実態などをもとに厚生労働省の「生活保護基準部会」で議論され、厚生労働大臣が決定する。よって、一般世帯の消費の動向などにより毎年少しずつ変更がある。具体的な「基準」を見てみるとわかりやすい。ここでは、主に「生活扶助」と「住宅扶助」について数字をあげていこうと思う。

まず、一番基準額が高い東京都23区(1級地の1)を見てみよう。

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【50歳男性の単身世帯、東京都23区居住の場合(加算等省略)】<生活扶助>l類(個人消費・年齢と居住地域で決まる)は38,180円。ll類(世帯消費・世帯人数と居住地域で決まる)は43,430円。合計で81,610円である。<住宅扶助>53,700円以下の実費分(家賃が3万円なら3万円分、家賃が5万円なら5万円分のみ)<合計>81,610円+~53,700円=~135,310円(住宅扶助は上限額にて計算)

【50歳男性と50歳女性の2人世帯、東京都23区居住の場合(加算等省略)】<生活扶助>l類は38,180円×2人分=76,360円。ll類は48,070円。合計で124,430円である。<住宅扶助>69,800円以下の実費分<合計>124,430円+~69,800円=~194,230円  生活保護基準では地域差が大きい。例えば、被災地でもある岩手県大船渡市(3給地の1)と比べてみよう。

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 【50歳男性単身世帯、岩手県大船渡市居住の場合(加算等省略)】<生活扶助>l類は31,310円。ll類は35,610円。合計で66,920円である。<住宅扶助>25,000円以下の実費分<合計>66,920円+~25,000円=~91,920円

【50歳男性と50歳女性の2人世帯、岩手県大船渡市居住の場合(加算等省略)】<生活扶助>l類は31,310円×2人分=62,620円。ll類は39,420円。合計で102,040円である。<住宅扶助>33,000円以下の実費分<合計>102,040円+~33,000円=~135,040円

このように地域差は顕著である。東京の単身世帯と岩手県大船渡市での2人世帯の生活保護基準はほぼ同じである。この「基準」をもとに「最低生活ライン」が設定され、「生活に困っている状態」の「基準」となる。この「基準」に満たない状態の方が、生活保護を利用することができる。

そして、生活保護は8つの扶助によるパッケージとして「基準に満たない部分」に関してのみ、総合的なセーフティネットとして、必要な支援を必要な範囲で行う。よって、生活保護基準が例えば13万円だとして、収入が5万円あれば、足りない分の8万円の支給を受けることが出来る、ということである(注:実際は収入には控除等が発生する)。

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