記事

新聞社の「歪んだニュース感覚」が招いた黒川「賭け麻雀」問題 - 白戸圭一

1/2
国会前では検察庁法改正案に抗議する反対デモが行われた(C)時事

 検察官の定年延長問題の渦中にいた黒川弘務・東京高検検事長(5月22日付で辞職)の「賭け麻雀」報道は、新型コロナウイルスで自粛生活を強いられている国民の間に猛烈な反発を巻き起こした。同時に多くの人が、麻雀のメンツが『産経新聞』と『朝日新聞』のベテラン社員(1人は編集部門を離れて管理職)だった事実に呆れ、大手新聞社と権力の「癒着」を改めて見せつけられた気分になっただろう。

 筆者は、今回の一件によって、日本の新聞社が長年、正面から向き合ってこなかった問題が改めて浮き彫りになったように感じている。

 それは「ニュースとは何か」という、ジャーナリズムの根幹に関わる問題である。

「取材」か「暇つぶし」

 今回の問題をスクープしたのは『週刊文春』である。同誌編集部は、多くの国民が営業自粛や失業によって経済的に困窮している最中に、政権中枢に近い検察ナンバー2が「3密」状態で違法性のある賭け事に興じている事実を掴み、「これはニュースだ」と判断したから記事化したのだろう。

 その反対に、新聞記者たちは「黒川氏が賭け麻雀に興じている」という事実を知っていたどころか、自らも一緒に雀卓を囲み、同氏が帰宅するためのハイヤーも用意していたと報じられている。

 つまり、彼らはこの状況で黒川氏と雀卓を囲む行為を「取材」か「暇つぶし」のどちらかだとは自覚していただろうが、「ニュース」になってしまう行為とは想像もしなかったのだろう。

 だから「私は今日、渦中の検察ナンバー2と3密状態で雀卓を囲み、ハイヤーも提供した」などという新聞記事が彼ら自身の手で書かれることはなく、代わりに週刊誌が書いたのである。

 要するに、今回の問題では、「文春砲」と言われるスクープ連発の週刊誌のニュース感覚と、大手新聞社のニュース感覚の決定的な違いが見えた。そして、国民の多くは週刊文春とニュース感覚を共有していたから賭け麻雀に怒った。

 反対に、大新聞の社会部畑の記者のニュース感覚は、多数の国民のニュース感覚とは合致していなかった、ということである。

 捜査当局者に食い込むこと自体は重要

 では一体、この新聞記者たちにとっての「ニュース」とは何だったのだろうか。

 彼らが黒川氏と雀卓を囲んだのは、検察の最高幹部と人間関係を築けば事件に関する「特ダネ」を教えてもらえる可能性が高いからかもしれない。

 あるいは、今回問題となった麻雀は単なる遊びだったとしても、かつての取材を通じて既に個人的な人間関係が構築されており、ともに遊ぶことを通じて関係を維持していけば、いつか後輩の検察担当記者たちが「特ダネ」を取るのに役立つと考えていたのかもしれない。

 または、自社を除く全社に捜査情報を一斉にリーク(非公式な情報漏洩)される「特オチ」を防ぐための保険だったのかもしれない。

 そのいずれにしても、捜査当局者との密接な関係を重視していたことは間違いないだろう。

 こうした心理状態で働く新聞記者たちを嗤い、批判するのは容易い。取材という行為の難しさや複雑さを経験したことのない人の中には、しばしば記者が捜査当局者と接触すること自体を「日本メディア特有の問題」のように非難する人がいる。

 だが、捜査当局者に食い込むこと自体は重要な取材手法であり、報道の自由がある国ならば世界中どこでも行われている。検察や警察など捜査機関の不正や冤罪を暴く際であっても、内部の協力者は必要だ。

 筆者も若い頃の数年間、九州の2つの県で警察取材(サツマワリ)を担当していた。

 何かの事件について県警本部に取材に出向いても、「捜査中」のひと言で追い返されてしまう。夜間や休日に警察官の自宅をひそかに訪れ、個人的な関係を築かなければ、「特ダネ」は入ってこない。

 だから盆も正月も返上し、深夜0時、1時まで住宅街で「ネタ元」の警察官の帰宅を待っていた。麻雀は嫌いなのでやらなかったが、親しくなった警察官とは時々酒を飲み、一緒に日帰り温泉に行ったり、パチンコに行ったりしたことも少なくなかった。

 しかし当時、警察組織に食い込むことに血道を上げながら、どうしても拭えない1つの疑問があった。自分が日常的に上司から要求されている「特ダネ」とは、本当に「特ダネ」と言えるのか、という疑問である。

あわせて読みたい

「検察庁法」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    河野大臣が表情変えた記者の質問

    BLOGOS しらべる部

  2. 2

    テレ朝のPCR巡る報道に医師怒り

    中村ゆきつぐ

  3. 3

    文科相が一部大学の授業を批判か

    BLOGOS しらべる部

  4. 4

    イソジンの転売 薬事法に抵触

    BLOGOS しらべる部

  5. 5

    徴用工問題は日韓政府が解決せよ

    ヒロ

  6. 6

    帰省大丈夫? お盆迫り厳しく追及

    BLOGOS しらべる部

  7. 7

    宮崎駿に学ぶ メモしない発想法

    放送作家の徹夜は2日まで

  8. 8

    消費税5% 解散総選挙で奥の手か

    NEWSポストセブン

  9. 9

    国会を開かないなら歳費返上せよ

    鈴木しんじ

  10. 10

    恋心を持つこと自体が難しい現代

    シロクマ(はてなid;p_shirokuma)

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。