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なぜ大人が甲子園を諦めるのか?! ~全員マスク・手洗いで新型コロナのリスクが無視できる理由~

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 "リスクの伝道師"SFSSの山崎です。毎回、本ブログでは食の安全・安心に係るリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方を議論しておりますが、今月も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、ようやく緊急事態宣言が全国で解除されたにもかかわらず、いまだにその感染リスク低減策に関して疑問符がつく社会的措置が多いので、これを議論したいと思います。
 なお、世界中でCOVID-19により亡くなられた方々に謹んでお悔やみを申し上げるとともに、感染して治療中の方々にお見舞いを、また日々奮闘されている医療従事者の皆様に敬意を表します。

 実は昨年の夏も、筆者は甲子園のリスク問題をとりあげたのだが、今年もまたこのような形で高校野球のリスク問題をとりあげることになるとは、夢にも思わなかった:

 ◎いま一度「リスク」を考える
 ~回避すべきリスクかどうか、誰がどう決めるべき?~
  SFSS理事長雑感 [2019年7月26日]

 http://www.nposfss.com/blog/risk_avoidance.html

 その当時、高校球児だった現千葉ロッテマリーンズのゴールデンルーキー、佐々木朗希投手が、岩手県予選決勝で肩が故障するリスクを恐れて、監督が登板回避を指示したことに関して、筆者は本当にチームの甲子園出場を逃すリスクと佐々木投手の故障リスクを天秤にかけて(「リスクのトレードオフ」)、綿密にリスク評価をしたうえで佐々木選手やチームメートたちも含めて協議したうえでの決定だったのか、疑問を呈したわけだ。

 ◎夏の甲子園中止を決定 春夏連続は史上初めて 地方大会も
  Yahoo News 5/20(水) スポニチ・アネックス

  https://news.yahoo.co.jp/articles/70a127f88d6cda88e4d95f913b2014e3280004aa

 今回高野連と朝日新聞社が高校野球夏の甲子園大会を中止したことも、高校球児たちも含めて関係者の感染リスクを恐れて決定したものだと理解するが、肝心の高校球児たちが3年間甲子園を目指してきた汗と涙と努力の結晶(彼らにとっての夢・名誉・人生における価値など)が一瞬で消えてしまうリスクと、きちんと天秤にかけたうえでの判断だったのか、大いに疑問だ。夏の甲子園大会出場のチャンスを100%断たれるリスクと夏場の新型コロナのリスクを比較したときに、後者が間違いなく大きいとなぜ言えるのか。

 このような典型的な「リスクのトレードオフ」の問題を慎重に吟味する際に、感染症専門家の一面的な助言のみで、短絡的に新型コロナのゼロリスクを選択したとすると、あまりにも拙速というしかない。われわれの人生において、リスクは感染症だけではないので、新型コロナのリスクを移動制限などで遮断すると、必ずほかのリスクが生じる(ほかのベネフィットを失う)ことを肝に銘じなければならない。それくらい、高校球児たちにとって甲子園大会の価値観・人生観が非常に大きいことは、甲子園を経験して、その後の人生が大きく花開いていったOBたちに聴けばわかるのではないか。

 そう考えると、今回の夏の甲子園大会中止について、大人が勝手に決めてしまうのではなく、なぜ高校球児たちやOBの意見を少しでも反映して、判断に活かさないのか。「高校野球は教育の一環なのだから、大会開催の安全管理については生徒が決めることではない」と言われるかもしれないが、では「アスリート・ファースト」という考え方は高校生には適用されないというのも納得がいかない。かつて、日本がモスクワ五輪のボイコットを決定したときに、泣きながら抗議をした山下康弘や瀬古利彦なら、今回一生に一度のチャンスであった甲子園大会の夢を逃した高校3年生の選手たちの気持ちがよくわかるはずだ。

 もし次の冬に、新型コロナの第二波パンデミックが襲来したときに、感染リスクが避けられないとして、「東京大学・京都大学の入学試験を今年度は中止します」とアナウンスしたら、「命には替えられないので仕方ないよね。1年浪人します・・」と受験生や保護者達があっさり納得するだろうか。そんなことはないだろう。今回の高校野球大会中止は、高校球児・その保護者・応援する学校関係者たちにとっては、まさに人生を根本から覆されるような"青天の霹靂"というべき決定なのだ。

 しかも、夏の甲子園大会、地方の予選大会をすべて開催するにあたり、新型コロナウイルス感染リスク低減策を十分施せば、選手だけでなく応援団・観客や大会関係者にとってのCOVID-19のリスクは無視できるレベルまで下げることが可能だ。NPBも6月19日の開幕が決まったということは、野球の試合を開催すること自体可能だということを、政府もそのリスクが許容範囲内に抑えられると評価したことになる。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、日々世界中の研究者から論文発表され、新たな知見が伝わってくることで、専門家たちの見解も少しずつ変わってきたが、われわれの見解はぶれていない。中国武漢から始まり、ダイアモンド・プリンセス号における集団感染を契機に、わが国にも徐々に侵攻してきた未知のウイルス"SARS-Cov-2"に対して、その特徴的な感染形態と重篤性など限られた情報をもとに、公衆衛生上のリスクを評価し、どのような感染予防策をとるべきか、SFSSでは2月中旬から国立医薬品食品衛生研究所客員研究員の野田衛先生にご助言をいただきながら、以下のようなリスコミ活動を続けてきた:

 ◎「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防法について」
  BLOGOS 山崎 毅(食の安全と安心) 2020年02月19日

  https://blogos.com/article/437209/

 野田衛先生が提唱された「集団予防」のポイントは以下の3つだ:
   ① 飛沫をあびないこと(飛沫感染防止;マスクも有効)
   ② 手洗いまでは顔をさわらないこと(接触感染防止)
   ③ 消毒薬をうまく使う(アルコール以外も有効利用)

 この2月中旬の時点で、医療情報に詳しいメディアの方々に対しても、国民総動員でこの「集団予防」を励行することがCOVID-19感染拡大を抑えるのにもっとも重要とお伝えしたものの、われわれの発信力が弱く、採り上げていただけなかった。最大のネックは、WHOや米国CDCなど世界の主要な健康行政が「マスク着用によるウイルス感染症予防効果のエビデンスはなく、健常者はマスクを着用すべきでない」と主張していたことで、TVのワイドショーに登場する医師たちも、「健常者のマスク着用は非科学的で意味なし」と主張し続けたことだ。

 ダイアモンド・プリンセス号において無症状または軽症の感染者が多数発生していたとの事実をもっと真摯に受け止めて、公衆衛生上の感染拡大リスクが想像以上に大きいことが予測できたはずだが、それに対するリスク低減策が提案できていなかったように思う。しかも日本は、韓国と同じようなPCR検査拡充体制がなかったのだから、無症状/軽症の市中感染者がどこにいるのか不明のため、すべての市民に外出時マスク着用を義務付けるべきだったのだろう(感染者が自覚していないのだから、「咳エチケット」をうったえても、マスクをしてくれないだろう)。

 残念ながら、欧米の健康行政も医師など専門家たちも、社会に対して発信力のある方々が、この未知のウイルス感染症を抑えるためには、物理的隔離政策(ロックダウン・移動制限・外出自粛・3つの「密」に近寄らない等)、すなわち「ソーシャル・ディルタンス(社会的距離)」がもっとも重要であり、とにかく「Stay Home」という、きわめて限定的な環境要因のリスコミを市民向けに続けたことが問題だ。

 とにかく2m以上のソーシャルディスタンスを維持さえすれば感染リスクはなくなるという、すなわち「ゼロリスク」のリスコミは、裏を返すと、新型コロナウイルス感染症が、あたかも「空気感染」かのような誤ったリスクイメージを市民に植え付けてしまう。実際、新型コロナウイルスの感染形態は「飛沫感染」と「接触感染」であり、上述の野田衛先生の「集団予防」の解説でも、「唾液(ツバ)でもうつるので要注意」ということをうったえていたのだが、最近になってやっとメディアでも唾液の重要性をとりあげるようになり、「だからマスク着用が重要なんだね・・」とのコメントが出始めたのは朗報だ。

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