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緊急事態宣言解除後も介護現場は課題つづき――感染症にもろい介護現場 - 結城康博 / 社会保障論

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1.感染症にもろい介護現場

緊急事態態宣言の解除によって、一般市民にとっては、全国的に収束の道筋を描き始めている。「小中学校の限定的な登校日の設定」「飲食業の営業自粛緩和」「医療現場におけるオーバーシュート回避への実態」など、わずかながらでも収束の気配はうかがえる。

しかし、介護現場においては、まだまだ予断を許さない状況だ。たとえ、一般社会では収束したとしても、「ポストコロナ」として大きな課題が残され、その対応に追われることが予想される。

筆者は5月半ばにかけて、在宅介護現場を中心に、介護従事者を対象とした緊急アンケート調査を行った(「在宅介護現場における介護従事者の意識調査報告(2020年5月21日)」)。このアンケートから、介護現場は感染症に「もろい」ことが再認識された。その深刻な実態を、本稿では述べていくこととする。

2.介護人材不足の深刻化

今年2月中旬から、新型コロナ問題が介護現場を襲い、介護施設では「面会禁止」、在宅介護現場では「感染者が1人でも生じれば、デイサービスなどを中心にサービス事業休止」など、この3ヶ月あまりで厳しい状況となってきた。

中でも介護職員の疲労はピークに達している。筆者の調査結果の自由意見でも、多くの回答者が、介護人材不足の深刻化を指摘する声が多かった。

たとえば、「ノイローゼになりそうな職員もおり、その方の仕事は他の職員に振り分け対応しているため、心身ともにぎりぎりの状態になってきています」「介護現場については、元々の報酬の兼ね合いで人材不足に悩まされている状況です」「介護に関わる人が決定的に減る」「コロナ収束までは、使命感から仕事を続ける介護職もいるが、収束後も介護の仕事をしようと思う人は減り、コロナで営業を継続できない事業所の閉鎖は増える」「倒産、閉鎖事業所が多く出ると思う」などといった意見である。

3.介護事業所減少の懸念

また、感染を意識しすぎて要介護者などが介護サービスを利用控えすることで、自身の健康状態の悪化が懸念される。そして、サービスが利用されないことで、介護事業所の経営持続にも大きな影響を及ぼしている。

既述の調査結果において、「新型コロナ問題が収束したら、介護サービス量は減少すると思いますか(廃業する事業所が増えるなど)?」といいう問いに対して、約3割の回答者が介護事業所の減少を危惧していることが分かった(表1)。

自由意見を分析するかぎり、この間、デイサービスを中心に利用者がサービスを手控えることで、事業所の収入が減り、経営問題が深刻化しているのである。介護事業者は、出来高払いによる介護保険(社会保険)からの収入に依存しているため、利用者が減少すれば収入が得られなくなり、事業展開が危うくなる。いわば福祉分野であっても、介護事業者は「飲食業」「旅館業」などと同様に、利用者(顧客)が来なければ、一挙に経営危機に直面する。

表1:新型コロナ問題が収束後の介護サービスの動向について(人)n=503 

「在宅介護現場における介護従事者の意識調査報告(2020年5月21日)」4頁より

今回、新型コロナ問題によって、飲食店の一部は、緊急事態宣言中はすべて休業し、大幅な赤字を回避したケースも見られた。しかし、介護事業所は、一人でも利用者がいれば、その福祉・生活を守らなければならないため、たとえかなりの赤字であっても、介護事業を継続しなければならない。

また、介護業界では、非正規職員の割合が介護系施設では約4割、訪問介護系(ヘルパー)では約7割と、必ずしも正規職員の割合が多いとはいえない。そのため、今回の新型コロナ問題によって、子育て中の介護スタッフなどでは、感染を危惧して休職した非正規介護職員もおり、収束後元の介護事業所で再度、働くかは未確定である。

介護サービスは、一定の介護職員を雇用しなければ事業展開が難しく、新型コロナ問題以前よりも、より介護人材不足に陥り、事業継続が難しくなるかもしれないと危惧されている。

4.地方と都市部との分断(遠距離介護の危機)

・「差別意識」に近い感覚 

また今回の感染症問題は、地方と都市部との「分断」を生じさせている。周知のように、緊急事態宣言においても、その受け止め方は地方と都市部とに大きな差が生じていた。感染者が0人もしくはわずかな地域と、東京や大阪などの都市部では、住民意識や経済活動(営業自粛の度合い)もかなり温度差があった。

とくに、地方のスタンスとして、都市部からの人の往来には慎重で、越境して来る人の流れには「毛嫌い」といった感情が芽生えている。もちろん、東京から帰ってきた人が感染源となってなった事例も少なくなく、このような人の「往来」を好ましくないと感じるのは当然であろう。

筆者が勤める千葉県の淑徳大学でも、地方から来ている学生らは長い遠隔授業期間(原則、大学内の立ち入り禁止)であっても、実家に帰ることはしない傾向だ。なぜなら、地方の両親から、首都圏からの帰省は近所の人らが「毛嫌い」するので控えてほしいといわれるからである。地方では首都圏から帰省した者がいると、すぐに地域の噂となり、人間関係のうえで問題になるというのである。

・遠距離介護は厳しい

この風潮は「遠距離介護」といった介護現場にも、大きな問題を投げかけている。地方に暮らす要介護者の中には、独居高齢者や老夫婦(老老介護)といったケースが多く、娘や息子、その配偶者は都市部で暮らしている。そして、週1もしくは月2回程度、都市部から地方の実家に「遠距離介護」してケースは少なくない。

このような地方で暮らす要介護者らの生活スタイルにおいて、地方と都市部の分断ともいえる意識(現象)が大きな影響を与えている。いわば「遠距離介護」の危機ともいえる。 

実際、調査結果においても、地方の介護従事者でも、都市部からの家族介護者の往来は「控えてほしい」が、「協力してほしい」を上回った(表2)。平時では家族介護者の協力を積極的に受け入れる介護従事者ではあるが、感染症の問題が生じると厳しい局面となる。

表2:地方にとって都市部の家族介護者の介護支援往来について(人) n=270

「在宅介護現場における介護従事者の意識調査報告(2020年5月21日)」5頁より

自由意見を見てみると、「遠距離介護は、感染拡大予防の点からも控えたほうが良い」「デイサービス利用者から一人でも感染者が出ると、事業を休止しなければならず、多くの利用者の生活にかかわる。リスクを排除するため控えてもらいたいと思う」「定期的に県外より帰郷して援助を行っている場合は、感染のリスクを考えると帰郷しての援助は控えてもらいたいと思う。

それ以外の方法(電話での安否確認や必要物品の郵送等)であれば、協力があっても良いと思う」「協力してほしいが、通所系は感染拡大地域からの来訪者との接触も心配して問い合わせがあった 。ケアマネとして、どうすることがいいのかわからない」などといった声が散見される。

いっぽう、「充分な感染対策の範囲が定かではありませんが、家族が感染していないのであれば、介護協力は可能だと思います」といった声は少なかった。

地方に住む独居高齢者や老夫婦といった要介護者らは、ヘルパーやデイサービスなどの介護保険サービスだけでは日常生活を支えることは難しい。定期的に家族が遠方から出向き、「安否確認などの精神的な支え」「ヘルパーには頼めない買い物」などの遠距離介護があって成り立っている。

今後、新型コロナ問題が収束する流れになったとしても、しばらく地方と都市部との意識の差は解消されず、「遠距離介護」は厳しい現状が続くであろう。

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