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9月入学は政治災害

 9月入学では、学力格差がさらに拡大するリスクが大きい。そもそも、これまでの詰め込み教育を改善すべき。このような状況だからこそ、オンライン学習の環境整備を優先すべき。話題となっている9月入学への移行について、このような課題点を伺った。

■火事場の9月入学論は危険

 5月21日に立憲民主党の自治体議員向けオンラインセミナーで末富芳(すえとみ かおり)日本大学教授から9月入学問題について課題点と自治体議員の役割について伺った。

 新型コロナウイルス感染症への対策として学校を休校(休業)したことでこの間の学力を取り戻そうと9月から再スタートすること、国際的にみても9月入学が主流との考えから、にわかにこの話題が飛び出しているが、都道府県知事でも賛否が分かれるなど、大きな論点になっているのが9月入学問題だ。

 末富教授は、新型コロナウイルス感染症への対応のなかでこの問題を議論することは、何が政策目的か完全に見失われている。「自宅が燃えているときに消化しながらバーベキューをやろうというふうに聞こえる」との丸山達也鳥取県知事の発言(※)を紹介し、火事場の9月入学論は危険だ、9月入学は政治災害と指摘されていた。

■メリットはない

 そして、新小学1年生、乳幼児世代にはいかなるメリットもない。政府が示している段階的な移行案では待機児が激増し、学年の分断が避けられない。

 さらに、特別支援学校の教諭が不安を持つように障がいを持つ人々にかかわる現場の不安が強く、国民世論が分断されているなかで「国民一丸となった」コロナ後の復興が可能なのか? と警笛をならしていた。

 特に今の段階で9月入学にすると、再開時期が異なる地域での格差、オンライン学習に移行している私立との格差、努力をしている学校との間で格差が縮小するどころか拡大するリスクのほうが大きい。

 3か月間の臨時休校での学力低下、学力格差が拡大したとしても、今回の9月入学は半年間入学を遅らせるもので、これまでに議論されていた半年間早めるものとは異なっている。何よりも義務教育開始年齢を遅らせることが学力や生涯賃金(働き始めるのが遅くなる)などに有利であるというエビデンスは、管見の限り存在しない。

 授業日数や時間の増加がプラスの影響になる研究事例があり、学習内容をこれまでと変更しないのであれば、これまでと同じ授業日数が必要になると指摘されていた。

 経済的にも大きな影響が出る。文科省の資産では、家計部門で3.9兆円が必要になるとしているが、政府は教員の確保だけで2640億円の負担を想定しているが、保育園や学童保育への追加財源が考えられていない。

 何よりも4月から8月生まれの子どもたちと保護者の不安、学年分断の心配、育休や待機児問題がどうなるかなど心理的影響や学校現場の混乱による教育の質低下が起きるリスクの方が高い。一生涯消えない「コロナ世代」の負担を子どもに負わせるのかとの指摘もあった。

 また、9月入学となると9月から教育予算が始めることになり、半年ほどずれてしまう。そのため他の予算の執行が終わり決算をする中で教育の新年度予算を編成することになり二重構造になる。議会では、教育予算の審査と他の分野の決算を同時に行うことができるのだろうか。なにより市役所のシステム改修もしなくてはならない、との疑問も出されていた。

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■国際的にみても意味があるか?

 国際的には9月入学が多いとされているが、9月に変えれば問題が解決するのではない、との指摘もあった。

 先に書いたが、そもそもは、日本よりも半年早く義務教育を始めるのであって、新型コロナウイルス感染症対策での9月入学では半年遅い入学になってしまう。

 例えば、海外の9月入学に合わせて高校を卒業しても、そのまま現地の言葉を身に付けていないことが多く授業についていけない。現在でも多くの日本人留学生は4〜8月に語学スキルを上げ9月にやっと授業についていけるレベルだ。

 日本への留学生を受けいれは、日本語の授業を続けている限り、いきなり日本語の授業を受けられる留学生は少ないだろう。つまり、9月入学にしても日本からの留学生が増えることは考えにくく、日本への留学生も増えるとは考えにくい。

 そもそも、9月入学は合理的な発想なのか。今秋、第二波がきて休校になったら、今度は11月入学にするのか? また、この状況下でも家庭で取り組んでいる子どもたちの学習を「ゼロ」と考えて良いのか、とも指摘されていた。

■今だからこそ考えること

 末富教授は、入学時期の問題ではなく、コロナ前から授業や学校行事・部活を濃密につめこみ、三密教室で活動していた日本の学校のあり方そのものの変革に取り組むべき時ではないか、と話されていた。
 授業時数の確保だけであるならば、受験学年以外は在学中に感染予防拡大をしながらすればいい。重視すべきことは「心のケア」「つながりと元気の回復」「学習内容・行事の精選」「新しい活動の創出」であり、このような教育にしていく時代へと変える必要がある

 学力テスト至上主義、正規教員減らし、先進国最悪のつめこみ学級、部活・学校行事で圧迫される教職員の労働時間を改善することの方が必要とされていた。

■今からすべきこと

 2011年にニュージーランドで大地震が起きているが、その時の調査によると教員が生徒の学習状況を把握し、丁寧にサポートすることで中退率は変動していない。中退の主要因は家庭の所得低下によるものだった。

 同じ年には、東日本大震災が起きているが、この時の調査でも、基礎学力を確実に定着させること。家庭学習の充実、生活規範の回復などにより学力は回復している。そこには、子どもたちを見守ることができる教員の加配、大学やNPOによる学習支援活動が有効であり、支えるための政策、財政的支援が重要になる。拙速な9月入学移行では、学校の「現場力」を下げる可能性が高いとも指摘されていた。

 そして、今からできることとして、学力格差にきめこまやかに対応するための 個別支援の拡大 ・ 家庭学習経費の保障。スクールソーシャルワーカーなどの配置を強化して子ども・保護者支援体制を拡充すること。オンライン教育の環境整備が必要とされていた。

 特に、日本は諸外国と比較してICT教育が遅れていた。オンライン学習環境を整備しないままの一斉休校により、日本の子どもたちだけが先進国の中で、学習から置き去りになっている厳しい実態を認識しなければならない。

 だからこそ、いま国と地方をあげて、オンライン学習環境整備に集中投資をし、学校の教員の研修や活用を促進することで、 PISA 読解力調査の下落の原因となっていたICTスキル進化の好機とすべきと結んだ。

■教職員体制の拡充、ICT機器の整備

 緊急事態宣言が解除され、外出自粛要請も薄められたとしても、新型コロナウイルスがなくなるのではない。他の感染症が襲うかもしれない。今後、第二波、第三波があるとの想定で、日本の学習をどのように改善し対応できるようにするか、今だからこそ考え実行すべきと思えてならなかった。

 今回のセミナーは進行役をしていたが、参加者から多種多様な疑問が出されていた。すべてを解決するまでにはならなかったが、それだけ、9月入学には疑問と心配が多いということになる。

 9月入学という話題で、本来改善すべき今の教育問題の論点をずらされていないのか、政治的意図がないのかも気になる。
 
 特にICTを活用した教育は多くの自治体で今年度が機器を導入しスタートを切る年ともなりそうだ。機器導入はゴールではなく、あくまでも道具を整備するもの。ICT機器で教育と子どもたちの環境がどのように良くするか。今後、大きな争点となりそうだ。

 いずれにせよ、9月入学にするなら課題を整理する時間が必要だ。今、実施すべきではなく、今の子どもたちの精神的なフォローと今からの学習をいかに良くしていくか。そのための教職員体制の拡充、ICT機器の整備を進めることが最優先だろう。

『9月入学「自宅燃えてるのにBBQ」島根県知事非難』(日刊スポーツ2020年5月1日)

【参考】
立憲民主党東京都連合 5月21日(木) 「9月入学の課題と自治体議会の役割」と題したオンラインセミナーを開催

※写真はオンラインセミナーの様子。末富教授と連会長の長妻昭衆議院議員。

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