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似ていてほしくないけど、似ているもの。

今年の初め頃から随分長く続いてきた「新型コロナウイルス禍」への対応も、ようやく一区切りを迎えようとしている今日この頃だが、そんな中、最近気になるのは、これまで国内の対策立案から情報発信まで、八面六臂の活躍をしてこられた政府対策本部の専門家会議や厚労省のクラスター対策班の関係者に対して、心ない批判の声が浴びせられているのを見かける機会が多くなっているのではないか、ということである。

元々、緊急事態宣言が発令される前後くらいから、「やれ経済がー!!」と騒ぐ人はいたが、日々増加の一途をたどる感染判明者の数字の前に、「目先のカネより命の方が大事」というごくごく真っ当な理屈が優先されたのは、4月に差し掛かるくらいの時期だった。

そして、そこから約1か月半。

海外諸国に比べれば、はるかに緩やかで自由度も高い「自粛」レベルの話だったとはいえ、それでも世の中に、不要不急の遠出を控え、無駄な通勤・通学を控え、飲み会も控え・・・という大きな流れができた結果、想定されていた最悪のシナリオは回避され、感染した人は、せいぜい7000人に1人くらい。亡くなられた方々の数も(決して少ない数ではないものの)2桁は低く抑えることができた、だからこそ、既にフライング気味に街もポカポカ陽気を楽しむ人々で賑わいを取り戻し始めている、というのが今の状況である。

連日高熱でうなされていても検査が受けられず、病院で治療を受けることさえままならない、という話はあちこちで聞いたが、それでも重症者が全く救われない、というレベルの「医療崩壊」にまで至ることはなかった、と自分は理解しているし、感染拡大ペースを抑え込んだことで、最悪の事態を免れ、無事退院することができた方も多数いるはず。

それにもかかわらず、なぜか巷には、「8割削減は不要だったのではないか」とか「新型コロナウイルスを恐れすぎたのではないか」といった類の言説が飛び交っているし、挙句の果てには、「実際の死者数、感染判明者数が、想定されていた理論モデルから大きく乖離した」ことをもって専門家の方々をバッシングする人々すらいるように見受けられる。

そんな光景を見ながら、自分が感じたのは、「これって、相当な手間をかけて内部統制体制とか法令遵守体制を整え、それを徹底させようと汗をかいても、重大な不祥事に遭遇するまでなかなか評価してもらえない法務・コンプライアンス部門が味わっている悲哀と一緒じゃないか」ということである。

他国(他社)の実例や、クラスター追跡結果(監査結果)等のエビデンスに基づいて、具体的なリスクを想定し、それを回避するために知恵を絞って対策を実装すれば、その対策が機能している限り最悪の事態は回避できるはずだし、最悪の事態が起きていない、ということは、対策がうまく行っていることの裏返しでもあるはず。

だが、そうやって汗をかいている当事者以外の人たちには、「最悪の事態が何も起きていない」状況しか見えないものだから、どうしても、

「何でこんな面倒なことをやらされないといけないんだ」

という不満が出てきがちだし、挙句の果てには、

「リスクを恐れすぎだ。こんなこと真面目にやってたら経済(事業)に支障が出る」

といったことまで言う人々が出てくる。

そんなこともあって、この手のリスク回避策は、大抵平時には実装できず、ある程度リスクが顕在化した時に導入されることが多いのだが、導入当初は理解を示していた人の中にも、いずれ最初の危機感が薄れ、「何も起きない」状況が常態化するようになると、掌を返す人は必ず出てきてしまう。

もちろん、あまりに硬直的で厳格な対策を取り過ぎるのは良くない、ということは、COVID-19対策の世界でも、法令遵守体制構築の世界でも同じことで、それはこの国の状況が芳しくない方向に向かっていた時期のエントリーで一度書かせていただいたことでもある。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

得てしてこういう問題は、「本当の意味で状況を理解して、リスクベースアプローチで必要なポイントを押さえようとする専門家」の思いが、オフィシャルなコミュニケーションの過程で十分に伝わらないことに起因することが多く、「出し手」側で”明確さ”、”分かりやすさ”を重視したために、当初の意図よりも広範囲で制約を課す”お達し”になるパターン*1もあれば、「受け手」の側で必要以上に過剰な受け止め方をしてしまう、というパターンもある*2。

ただ、いずれにしても共通するのは、思いと実態が噛み合わないことで専門家側が抱えるもどかしさ。そして、そこから出し手、受け手の双方に生まれる様々なフラストレーション。

こと、新型コロナウイルス対策に関しては、4月頃から「専門家」サイドが積極的に行っていた情報発信により、それをきちんと受け止めて理解した人々との間での”溝”は埋まったのでは?と思っていたのだが、相手は日本の全国民、しかもバックグラウンドも思想も全く異なる不特定多数の人々(普段同じ釜の飯を食っているはずの会社の中ですら、見慣れない施策を徹底するのは一大事なのだから・・・)、となれば、それでもさすがに限界があった、ということなのかもしれない。

ちなみに、「コンプライアンス担当」を長く経験した人であれば、やろうとしている施策の意図を現場になかなか理解してもらえず、遵守を徹底するために手を焼いたり、そのたびにあちこちから文句を言われたりするたびに、

「いっそのこと、一度大不祥事が起きて、部門ごと吹き飛んでしまえ!」

と悪態をつきたくなるような思いに駆られたことも皆無ではないはずだ。

だから、あの昼夜を問わず奮闘しておられる感染症専門家の先生方も、確たる根拠のない「不況説」*3を持ち出してああだこうだ言ってくる人々に対して穏やかならぬ感情を抱いても不思議ではないところではあるのだが、そこは人の命が絡む話だけに、グッと押さえて職務に邁進しておられるのだろうし、そういった胸中(?)(勝手な想像で申し訳ありません・・・)を思えばこそ、心ない批判に対してはどうしても憤りを感じずにはいられない。

一時期の「感染拡大」の波が収まりつつある今、気候のおかげなのか、日本人が元々備えている抗体 or 免疫力(?)のおかげなのか、あるいは純粋な運の良さゆえなのかは分からないが、このまま大多数の国民が罹患しないまま「ウイルスの時代の終焉」を見届けることができるならそれにこしたことはないのだけれど、そうはいっても、まだまだ、本格的な夏の訪れまでは、何度かの小規模なぶり返しがあるだろうし、夏が過ぎて涼しくなってくる頃には、再び「新型コロナ再流行」の忌まわしいフレーズを耳にする可能性もある。

だからこそ、「次」のステージで自分の頭で考えて行動できるように、専門家の話を真摯に受け止めて消化しておく

それが、今、求められていることだと思うのである。

*1:コンプライアンス施策を打つ場合も、法務部門で起案した段階では「対象」を絞って手を打とうとしていたのに、上の役員のレベルで「分かりやすく」することを試みた結果、影響が及ぶ範囲が広がってしまう、ということはよくある。

*2:「外国公務員への贈賄に注意せよ」という趣旨を伝えた結果、ノベルティのボールペン1本を渡すことすら、然るべき部署の決裁を仰ぐまで話を進められない、という状況に陥ってしまうこと等。

*3:これも繰り返し当ブログで言っていることだが、一時的な需要の落ち込みを過大に解釈して、過度の「緩和」や必要以上の政策発動を求めるような動きは、もういい加減止めた方が良いのではないかと思う。足元の動きは間違いなく自律的回復に向かっているし、ここから先、下手に政策的な介入を続けると、逆に新たな「バブル」を生じさせることさえ懸念される状況にある。経済全体の話と、飲食業、観光業等の分野一部の個人事業主・中小規模の事業者が立ち行かなくなっている、という話は全く別の話として切り分けることが可能だし、切り分けないといけないもののはず。今沸き起こっているのは感覚的、感情的な議論が中心で、少なくとも経済学的観点からの、過度な「悲観モデル」を正当化できるだけのエビデンスや理論モデルはまだ十分に示されていない、と自分は思っている。

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