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コロナ感染「世界最悪」に至った米国特殊事情 - 斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)

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(iStock.com/flySnow/Purestock)

失業者3800万人、感染者数150万人、1日当たり死者3000人……世界最悪のコロナウイルス危機に見舞われたアメリカ。そこにはこの国ならではのいくつもの特殊事情がある。「アメリカ例外主義」と言ってもよい。

「アメリカ例外主義American Exceptionalism」とはもともと、古典的名著『アメリカの民主主義』(1835年刊)を執筆したフランスの政治思想家アレクシ・ド・トクヴィルが、アメリカ視察旅行をした際に最初に使ったとされる用語だ。

その後一般的には、他の国では見られないアメリカ人ならではの特異な考え方や行動様式を総称した社会学的定義として今日にまで言い伝えられてきた。

そして特に今回、コロナウイルス危機が世界に拡散する中で、アメリカが感染者、死者数いずれにおいても最悪の事態を迎えるに至った要因として、トランプ政権の初期対応の遅れのほかに、「アメリカ例外主義」との関係が指摘され、大きな話題となっている。

大恐慌期に建てられたエンパイアステートビル(BradNYC/gettyimages)

アメリカ的楽観主義

その第一に挙げられているのが、「アメリカ的楽観主義American optimism」であり、オプティミストの代表格がほかならぬ、トランプ大統領だ。以下のような自らの発言がそのことを如実に物語っている。

「大丈夫だ、問題ない」(1月22日)、「わが国の感染者はたった5人だけ。すぐにハッピー・エンディングを迎える」(1月30日)、「暖かくなればウイルスは消滅する」(2月7日)、「感染者は合わせて15人だけ。数日中にはゼロになる」(2月26日)、「感染地域は限定されており、大多数の国民へのリスクは非常に低い」(3月11日)……etc。

ところが、実際の被害はその後現在に至るまで、全米規模でさらに悪化し続けており、5月22日現在の米国内感染者161万人、死者9万5000人と、断トツで「世界1位」の不名誉な記録を更新し続けている。

一人大統領だけではない。各州の多くの市民たちも、コロナウイルス感染の深刻さをまともに受け止めず、フロリダ、ノースカロライナなどのビーチにはマスク着用もしないまま、水着姿のレジャー客がいつも通りにぎやかに繰り出す光景が見られた。

他州の都会でもしばらくの間、マスクを着用せず、レストランやバーなど「3蜜」環境での人の出入りが続いた結果、事態を急速に悪化させる要因の一つとなったことが感染症学者の間でも指摘されている。

ベテラン・ジャーナリスト、デイモン・リンカー氏は、国際ニュース・マガジン「The Week」最近号の中で「わが国の無責任なオプティミズムがコロナ・パンデミックを通じてまずい結果をもたらしている。落ち込んだ経済も6月までにすぐに立ち直るとか、4月15日までには感染者数、死者数ともピークを迎えるといった見通しだったが、その後も死者は毎日平均2000人と増え続けている。今後何カ月、何年にもわたって試されているのは、このようなアメリカ社会に深くしみ込んだ楽観主義であろう」と断じている。

アメリカ的個人主義

次に、「アメリカ的個人主義 American individualism」がある。

マスクを着けるか、着けないかは個人の判断に任せられるべきであり、国や地方政府が指図するものではない。レストランで家族で食事するかどうか、店内での感染リスクなどの判断も個人に任せるべきだ……といった考え方だ。

げんに、南部諸州では、コロナ感染者が全米各地に拡大し始めた後も、星条旗を掲げたマイカー族が州政府の「都市封鎖 lockout」や「自宅退避 stay at home」措置に反抗、バー、クラブなどに押しかけ「人民解放!」を叫びながら気勢を挙げた。

ところが、政治専門デジタル・メディア「The Hill」が5月19日付で報じたところによると、テキサス州では去る16日に1801人と、1日だけの感染者数としてはこれまでの最多を記録、ノースカロライナ州も同じ日に1日当たり853人とワーストとなったほか、アリゾナ州も過去2番目に多い462人もの感染者を出した。1週間平均の新たな感染者数もこれら3州では依然として増加してきているという。3州に共通するのは、連邦政府から出されていた「外出自粛要請」を無視し、レストラン、理髪店などのビジネス再開に対し州政府が「ゴー・サイン」を出していた点だ。

また、CNNテレビは同日、コロナウイルス関連解説ニュースの中で、ホワイトハウス、州政府、公衆衛生当局などが感染拡大防止策、経済活動再開などについてそれぞれバラバラの見解を国民に伝え、一本化した方針が欠如していたことが事態を深刻化させてきた原因だとして次にように断じた:

「当初から対応は一貫性を欠いてきた。アメリカ的特異性と言ってもいい。国家的指針も組織化された経済再開プログラムもなく、公衆衛生専門家たちがこう言えば、州知事たちは違った見解を勝手に述べ、トランプ大統領は何の科学的根拠もない自説を並べ立てる始末だ……結局、我々アメリカ人は自分で(感染拡大防止の)決定を任せられている状態であり、まさに、個人の自由と権限を国家より優先させる伝統的な国民的価値=すなわち、『American individualism』の悪しき症状にほかならない」

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