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コロナ禍で進路選択も困難な高校球児たちの現実 - 新田日明 (スポーツライター)

想像以上に波紋は広がっているようだ。センバツに続き、夏の甲子園も中止が決定した。新型コロナウイルスの感染拡大という未曽有の出来事は、いわば国難である。このコロナショックを収束へと向かわせるため国民全体が自粛を強いられていることを考慮すれば、大会主催者側である日本高校野球連盟と朝日新聞社の下した「苦渋の決断」はやむを得なかったのかもしれない。

(33ft/gettyimages)

しかしながら高校球児たちのショックは甚大だ。特に3年生部員にとって夏の大会は総決算の場。第102回全国高校野球選手権大会、いわゆる夏の甲子園はその予選である地方大会も中止が決定したことで、野球部での3年間の締めくくりとなる戦いの舞台がなくなってしまった。

各都道府県の高野連は多くが自治体の許可を得られれば、各地方レベルでの代替大会の実施する方向としている。ただ、それでも全国大会は行われない。著名人などの間から規模を縮小した形での秋開催を提案する声も出ているが、現実的には無理だろう。

早いところは8月下旬から来春センバツの参考材料となる秋季大会が始まり、今の2年生が中心の新チームへとバトンが渡される。一度中止が決まってしまった以上は後のスケジュールを覆してまで、そうやすやすと「やっぱり何とか別の形で代替の全国大会実施をしよう」という流れには至らない。

心の底から気の毒だと思う。甲子園出場を目標に頑張っていた全国の3年生部員は誰一人として自分たちの代で春夏とも夢の舞台に立てないまま高校での野球生活を終える。それによって彼らのうち、目標として描いていた今後の野球人生を大きく変更せざるを得なくなりそうな球児も実は相当数いることを知っておいて欲しい。

まず高校卒業後、プロ入りを第1希望としている選手にとってはどうしてもイバラの道となってしまうだろう。早い段階からプロのスカウト陣に熱い視線を向けられている有望株ならば甲子園が開催されなくても何人かは、今秋のドラフトで指名されるはずだ。

だが、それもスカウト陣から「特A」や「A」(注・球団によって評価方法は異なる)など非常に高い評価を与えるような選手に限られてきそうな雲行きである。地方レベルの試合だけでは力量チェックを図れず、さらにプレッシャーのかかる全国大会でどれだけの力を発揮できるか。このように追加調査しなければならないと踏んでいた選手は球団の判断が難しくなってしまう。

それなりの感触を得られている有力なドラフト候補たちならば話は別だが、プロ志望届を出すべきかどうか迷い始めている選手も多い。スカウトから目配りはされていても、それほど現段階において高い評価ランクではないと自覚していたり、指導者や周囲の助言によって現実的な選択へと傾きつつあったりしているからである。

合宿形式のトライアウトを行うことも検討

だが、当初はこのようなレベルだった選手たちが甲子園の大舞台で潜在能力を発揮し、各球団スカウトの評価を急上昇させたケースはこれまでも枚挙に暇がない。その救済措置としての意味合いもあるようだ。NPB(日本野球機構)やセ・パ12球団の間では春夏の甲子園が中止となったことを踏まえ、プロ志望届を出した高校球児を対象に力量チェックを図るため合宿形式のトライアウトを行うことも検討されているという。

もちろんドラフト指名の判断要素につなげようという試みでもあるが、そもそも今の流れでは事前にプロ志望届を出すこと自体を諦める選手も少なくなさそうで、プロ側の画期的な救済措置も絵に描いた餅に終わってしまうかもしれない。

ある3年生エースの話をここに例として挙げたい。今春のセンバツ代表校に選ばれながら大会中止で涙を飲み、最後まで信じていた夏の甲子園開催も消滅してしまった。昨年の秋季大会から主戦投手となってスカウトたちからの評価もそれなりに集めてはいるが、周囲の話を総合すると現段階ではドラフト指名の上位候補とまではいかず「全国大会の出場経験がない」ことも足かせになっているという。

彼本人としてはセンバツ、あるいは地方大会を勝ち抜いて出場が叶えば夏の甲子園でも一気に評価を上げ、子どもの頃から思い描いていたプロ入りの夢をつかみたいと考えていたが、コロナ禍によって檜舞台の場は奪われてしまった挙句に大きな狂いが生じた。

所属する野球部は今春のセンバツ代表に選ばれたとはいえ甲子園の常連校ではない点も、もしかしたら彼の能力がプロ側から〝全国レベルでは未知数〟とされている要因につながっているのかもしれない。

彼本人や指導者側もそれを薄々分かっていることから、独自に今夏開催される予定の地方大会への参加を前にして早々とプロ志望届の提出を回避する方向で考えがまとまりつあるという。どうやらスポーツ推薦の話がある大学進学の道を選び、野球を続けていくつもりのようだ。

球児たちの進路は

この3年生投手が所属する野球部の指導者は、来春高卒予定となっている球児たちの進路について次のように分析している。

「ウチの生徒だけではないですよ。おそらく今秋、プロ志望届を出す3年生は例年に比べるとかなり少なくなるはずです。全国大会がないことから高い評価を得ている選手も限りがある。大学へ進学するか、あるいは社会人チームで野球人生を継続させていく。ドラフト候補と目されていた高校3年生の球児たちの多くが、何かとリスクの高そうなプロ入りを回避し、進学か就職という手堅い人生設計を選ぶのではないかとみられています。

その理由はやはり、この未曽有のコロナショックです。球児たちは実際にセンバツ、夏の甲子園と過去例のない春夏連続の全国大会中止という出来事に直面した。この先も何が起こるか分からない世の中ならば、入れるかどうかすら分からない上に生存競争も難儀なプロの世界へ進もうとするより〝安パイ〟な道のりを進みたいと考えるのは、賢明と言えます」

とはいえ、評価ランクはそれほど高くなくてもプロから視線を向けられるようなレベルの球児ならば大学や社会人から推薦の〝オファー〟がかかる可能性が高く、だいぶ恵まれているといえるだろう。今年の3年生たちは新型コロナウイルスの影響によって春夏の甲子園が中止に追い込まれたばかりか、一部の私立有力校を除けば部活動停止によって満足な練習すらできていない。

実戦の場もほとんどないことから進学や就職の道を選ぶ場合、推薦に必要な材料も少なく、自分の力で切り開いていくしかないのが現状のようだ。

前出の指導者も現場のリアルな現状を打ち明けながら、このように危惧している。

「コロナの影響を受けているのは当たり前の話ですが、我々の携わる高校野球だけではありません。インターハイも中止になった。このように高校スポーツ界における判断材料が今年は軒並み消滅していることを踏まえれば、各大学が来春入学予定者の選考においてスポーツ枠での推薦を減らしたり、より厳格化したりしようと検討しているのも無理はないと思います。

でもそうなれば、もちろん球児たちだってとばっちりを受けてしまう。例年よりもはるかに厳しくなるわけだから大半が志望校のランクを下げたり、それでも推薦枠すら得られないようなレベルの子は一般入試から正面切って門を叩くしかない。そう考えると大学も社会人への就職も決まらず、あぶれてしまう3年生球児はこれまで以上に数多く出てしまうのではないでしょうか。

ちなみにウチの部の中には今の段階から進路が難航しそうなことに不安を覚えている選手も何人かいます。『少なくとも野球は続けられないかもしれません』と弱音を吐く子もいて叱咤激励を飛ばしてはいますが、内心では同情しているのが正直なところです」

コロナショックの残した〝爪跡〟は春夏の甲子園中止だけではなく、高校球児たちの進路にまで深刻な悪影響を及ぼそうとしている。

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