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特集:アフター・コロナの米中対立を考える

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 近年の米中関係は全世界の関心事であり、特に2018年からの「貿易戦争」は世界経済の波乱要因でありました。しかるにコロナウイルスの登場以降は、両国の対立はいよいよ引き返せないところまで到達したように思われます。

 今週のWHO総会、台湾総統就任式、全人代の開催などは、そのことをあらためて思い起こさせました。思えばこの数カ月で、米中両大国はコロナウイルスで多くのものを失いました。米国は多数の死者を出し、雇用を劇的に減らし、今後は巨額の財政赤字が残りそうです。

 中国はGDP目標の達成が困難となり、共産党統治に疑問符が付き、信認も低下した感があります。互いに「手負い」状態となった両大国は、これからどういう方向に向かうのか。「コロナ後」の米中関係を考えてみたいと思います。

●空文化した米中の「第1次合意」

 朝から晩までコロナ騒動の中で過ごしていると、年初の事件がとても遠い昔のことに思われてくる。わずか4カ月前に起きた以下のような事件を、果たしてどれだけの人が記憶しているだろうか。

1月1日:日米経済協定の発効
1月3日:米軍がイランのソレイマーニ司令官をバグダッド空港で爆殺。
1月7日:カルロス・ゴーン被告が亡命先のベイルートで記者会見。
1月8日:イランがバグダッドの米軍基地を攻撃。米軍は反撃せず。
1月8日:ウクライナの民間航空機が墜落。のちにイランによる誤射と判明。
1月11日:台湾総統・立法院選挙。史上最大の得票で蔡英文総統が再選。
1月15日:米中が第1次合意の共同文書に署名。
1月21日:議会上院でトランプ大統領の弾劾裁判始まる。

 米中の第1次合意とは、2018年から始まった米中貿易戦争におけるとりあえずの「手打ち式」であった。1月15日に劉鶴副首相がワシントンを訪問し、共同文書に調印した。本格的な合意であれば、習近平国家主席が訪米したはずである。

 トランプ大統領としては、みずからの弾劾裁判や民主党の大統領選挙予備選が始まる時期に、「対中外交の成果」をアピールしたかったと見るべきだろう。

 従って中身は妥協の産物であり、約90ページの文書を大雑把にまとめると、①中国は米国からの財・サービス輸入を2年間で2000億ドル以上増やすと約束し、②産業補助金やハイテク支援策、国有企業改革などの構造問題は目をつぶる(ただし知的財産権保護は強化)という内容であった。

 しかるに①は、管理貿易の懸念がある上に非常にハードルが高い。時間がたてば、「やっぱり達成できない」と問題化することは自明であった。そして②は、米中間のもっともコアな問題を避けている。

 米国内の安全保障サークルは、「中国製造2025」や5G分野におけるファーウェイ社の圧倒的リードが、米国にとって脅威だと見なしている。そこを不問に付すのでは、当初から持続可能性が疑問視される内容であった。

 ところがトランプ大統領としては、これを対中外交の成果と位置づけ、今年11月の大統領選挙までは「自画自賛」していく腹であった。

 ゆえに米中貿易戦争はしばらく沙汰止みとなるので、2021年以降(再選後?)に「第2次合意」を目指す米中交渉が始まるというのが、本誌の読み筋であった。それが、「アフター・コロナ」では状況が一変した。

 輸入拡大についていえば、中国が米国から買い付けている工業製品の中で、最大の品目は航空機だが、その需要は一気に「蒸発」した。エネルギー製品の価格も急落している。サービスの中では「旅行」や「教育」の項目が大きいが、そのためには中国からの旅行客や留学生を増やす必要がある。

 いずれも「アフター・コロナ」の状況では考えにくいことばかり。もともと無理だった輸入拡大の約束が、いよいよ困難になりつつある。構造問題についても、米国は我慢を続ける必要がなくなった。米商務省は5月15日、ファーウェイに対する締め付け強化策に打って出た。

 ちょうど1年前、商務省はファーウェイをエンティティリストに加え、米国製の部品やソフトの販売を禁止した。ファーウェイは大いに困ったものの、部品を他国製に切り替えるなどして何とか生き残りを図ってきた。

 今回の措置は、「米国製の技術やソフトウェアを使っていれば、他国製品であっても輸出を許可制にする」というもの。具体的に言えば、ファーウェイが半導体生産を委託している台湾のTSMC社を狙い撃ちにしている。

 TSMC社としても、米国製の半導体製造装置と米国の顧客は失えないので、言うことを聞かざるを得ないだろう、というわけだ。2018年夏に成立した輸出管理法(ECRA)に入っていた項目なので、「とうとう来たか」という感がある(日本企業が狙われなくてよかった、とも思う)。

「第1次合意」は、既に空文化したと見ていいのではないだろうか。あまりにも多くの前提が変わってしまったからである。

●米国が失ったもの=死者、雇用、財政

 あらためて新型コロナによる被害を確認すると、5月20日時点の全世界の感染者数は499万6472人、死者は32万8115人となる。国別の感染者数は、1位米国(155万人)、2位ロシア(30.8万人)、3位ブラジル(29.1万人)と大きな国が並ぶ。

 パンデミックの際には、「規模の不経済」が働くものらしい。

 ただし中国は強権体制が功を奏して、13位(8.4万人)で収まっている。逆に上手に対応したといわれる台湾、韓国、ニュージーランドなどは、国土も人口も小さな国が目立つ。世界最大の感染国となってしまった米国は、「6月には死者が10万人に達する」見込みである。

 ベトナム戦争の死者(5万8209人)は既にオーバーし、第1次世界大戦の死者(11万6516人)もたぶん超えるだろう。これはもう米国史に残る「敗戦」と言っていい。前号で取り上げた『失敗の本質』は、大東亜戦争における旧帝国陸海軍の負け戦を分析するという、わが国ではめずらしい取り組みであった。

 それとは対照的に、自国の負け戦をとことん検証するのが米国の文化である。今回の「Covid-19」に関する一部始終も、時間をかけてあらゆる方向から精査を受けるだろう。そしてこの時期に政権を担ったトランプ大統領以下は、いつの日か歴史の法廷に立たされることだろう。

 今回のパンデミックによって、米国は4月の雇用統計で「非農業部門雇用者(NFP)増減数が▲2050万人」という膨大な数の雇用も失った。NFPといえば、毎月10万とか20万の増加がニュースになる数値である。それがいきなり2000万人減。

 ちなみにリーマンショック以降、雇用が増加に転じた2010年1月から今年3月までのNFPを合計すると2035万人となる。直近10年分の雇用増が、わずか1か月で吹き飛んだ計算となる。失業率は3月の4.4%から、4月はいきなり14.7%に上昇した。

 これが元に戻るまでには、どれだけの時間を要することだろう。CBO(議会予算局)の推計では、失業率は15%台に悪化したのち、2021年末に8%台に戻るとしている。が、今年2月の失業率は3.5%であったのだ。完全回復までには、10年単位の時間が必要となるだろう。

 もうひとつ、今後の米国経済の重しとなりそうなのは財政赤字である。今回のコロナショックに対し、米議会の動きは速かった。既に合計3兆ドル程度の景気対策が採られている。民主党主導の下院はさらに3兆ドルの追加刺激策を可決し、共和党主導の上院は「1兆ドルが上限」としている。

 それでも当面の危機を乗り越えるために、財政支出の拡大は続くだろう。同時に歳入も減少するので、財政赤字の拡大は止まらないはずである。他方、米連銀は国債などの買い入れを増やして、バランスシートを一気に6.7兆ドル(5月11日時点)まで膨らませている。

 いろいろ理屈はあるのだろうが、これはもう政府の赤字を中央銀行が引き受けているとしか思えない。一時期流行した現代貨幣理論(MMT)は、既に実施段階に入っていると考えていい。

 膨大な死者と悪化した雇用、そして巨額の財政赤字。向こう10年程度、これらの重荷は米国の内政と外政両面に影響を与えずにはおかないだろう。

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