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「新型コロナ」で岐路に立つ「キューバ」2度目の経済大危機(上)- 山岡加奈子

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イタリアに派遣されたキューバの医師団。だが大きな外貨獲得源にはならないという(C)AFP=時事

 キューバでは、1959年の革命から、およそ2世代分の時間が流れたことになる。1991年のソ連崩壊に伴う経済危機から現在まで革命体制を維持させてきたのは、他の多くの社会主義国と異なる点である。経済改革は国民生活の水準を「生かさず殺さず」のレベルを維持できる程度にとどめ、「結果の平等」を保障する制度を続けている。

 他方、この「煮え切らない」政策に不満を持つ、とくに若い世代は、さまざまな方法を用いて国外、とりわけ米国に移住している。

 革命の指導者フィデル・カストロは2016年に永眠し、後を継いだ実弟ラウル・カストロは2018年に、10年間担った最高指導者のポストを50歳代の若手ミゲル・ディアスカネル=ベルムーデスに譲った。ラウルは共産党第一書記のポストには2021年まで引き続きとどまる見込みである。

 指導者の交代は、この15年間に2度も続いたが、期待された経済改革は進捗を見せていない。

 この状況で発生した新型コロナウイルスのパンデミックは、ソ連崩壊直後に起きた革命後で最悪の経済危機にも並ぶような危機を生む可能性がある。

トランプ政権で取り消された融和政策

 まず近年のキューバの状況を振り返ると、2015年の米国との国交正常化は、大きなメルクマールとして日本でも注目された。

 しかし、2017年に米国大統領がドナルド・トランプに交代すると、バラク・オバマ前大統領が進めたキューバとの関係緩和政策の多くは取り消された。

 ジャーナリズムや学術交流、宗教交流や教育などの12種類の特例を除き、キューバ渡航への厳しい審査を復活させ、またクルーズ船のキューバ寄港を禁止した。オバマ前政権時代は金額が無制限だったキューバへの親族送金も、「四半期ごとに1000ドルまで」との上限をつけた。

 こうして米国との関係改善はそう簡単に進まないことが明らかになったのである。

国民の不満を招く汚職による格差

 キューバ政府が経済改革をあまり進めず、市場メカニズムを導入しない一方で、平等なはずの国民生活にも格差が表れた。 

 格差は基本的に、外貨にアクセスがあるかどうかで決まる。海外の親族から外貨送金がある人、外国との合弁企業で働く人、あるいは自営業や闇市場で外貨を稼ぐ人は生活を改善できるが、公務員などそうでない多数の国民は、ソ連時代よりも貧困化したままなのである。

 キューバで格差や貧困問題について公的に議論することが認められるようになったのは2000年代以降だ。

 ハバナ大学および国立経済研究所の研究によれば、2000年の「ジニ係数」(所得格差を示す指標で、数値が低いほど格差が小さい)は0.38となっており、意外と思われるかもしれないが、現在の日本とほぼ同水準である。 

 とくに国民の不満を招いているのは、民間部門の活発な活動によって企業家や資本家が富裕化していることというよりも、共産党や軍に近い人々の縁故や汚職による格差である。

 汚職については、キューバ指導部は繰り返し汚職撲滅キャンペーンを行っており、毎年のように政府高官が逮捕されている。国際NGO「トランスパレンシー・インターナショナル」が毎年発表する汚職指数ランキングによれば、2019年のキューバの順位は180カ国中60位(汚職が少ないほうが順位は高い)。ラテンアメリカの中では、キューバより汚職が少ないのはチリ、ウルグアイ、コスタリカくらいで、域内ではかなりクリーンな国に分類される。

 とはいうものの、キューバ一国で見れば、冷戦時代と比較して汚職は増加しており、「平等」を建前とする社会主義体制の中では、国民の不満は強い。

 資本主義国なら国民は経済面で平等であるべき、とは考えられない。しかし社会主義国なら、首相であろうと掃除人であろうとほぼ同じ賃金を受け取るべき、という建前がある。首相や将軍の親戚が多額の外貨を稼げるポストに就いていれば、革命の精神にもとる、ということになるからだ。

 外国人が多い五つ星ホテルのバーで派手に飲み食いしているキューバ人の若者がいれば、まず間違いなく誰か要人の子弟である。

 ハバナ市の住宅は、外から見るとくすんだ色の古い建物ばかりで同じように見えるが、中に入ると違いがはっきりする。平等が建前なので、外からは生活水準が分からないように、建物の外観はぼろぼろに近い状態で放置されている。

 しかし中に入ると、最新鋭の電化製品が備わり、革命前の富裕層が亡命した後で分捕った美術品が、所狭しと置かれていたりするのだ。

輸入に頼らざるを得ない配給制

 キューバでは1962年から始まった配給制度が今も続いており、国民全員に最低限度の食料やせっけんなどの必需品が供給されることになっている。

 しかし、その量はソ連崩壊前後から激減し、現在はコメや黒インゲン豆、砂糖など一部の食料品にとどまり、そのコメや豆なども、一般的なキューバ人が1カ月に消費する量の半分にも満たない。そのうえ遅配も多い。

 食料自給率は、専門家の推計により17%から3割程度と幅があるものの、いずれにしても低い。

 2012年にラウル・カストロは、配給物資の輸入のために10億ドルを毎年支出していると述べている。

 2017年には18億ドル支出しているとの報道もあり、それがもし正しいなら、自給率は低下していることになる。つまり慢性的な外貨不足にもかかわらず、国民を食べさせるためには、その希少な外貨を費やして大半の食糧を輸入に頼らざるを得ない。

ベネズエラとのバーター協定

 それでもキューバの経済改革への努力が2000年代になっても限定的だったのは、2000年暮れにベネズエラとの間で締結された、医師と石油のバーター協定のおかげである。

 優遇レートでの19年ローンという破格の条件でベネズエラ原油を獲得し、その代わりにベネズエラの貧困地区に医師を派遣する。この取り決めにより、キューバは最初の8年間で年間推定50億ドルの収入を得ることができた。

 医師派遣、すなわち医療サービス輸出が、観光業やニッケル輸出、あるいは米国にいる移民からの送金を上回る、最大の外貨獲得源になったことを意味する。

 このためにキューバは経済改革を行わなくても、何とか国民を食べさせることができた。

 しかしベネズエラ経済は2008年のリーマン・ショック以来、危機に陥り、現在まで悪化する一方である。キューバとの間の協定は先細りとなり、キューバに供給される石油量は推定40~67%減少したとされる。

 それに伴いキューバのGDP成長率も低成長に転じ、キューバはベネズエラ以外の国々へ医師を送る方途を模索することになる。

 代表的なのは労働者党政権下のブラジルへの医師派遣だったが、2019年から右派政権に代わり、キューバ人医師派遣の契約は打ち切られた。

 キューバの医師派遣制度の巧みなところは、ハイチやアフリカ諸国などの開発途上国や、先進国でも自然災害の被害に対するものは無償で派遣していることである。

 2011年の東日本大震災の際、日本にも医師団の派遣を申し出た。2014年のエボラ出血熱発生のときには、165名の感染症専門医と看護師をシエラ・レオーネなどの西アフリカ諸国へ派遣した。医師たちのうち1名は感染して死亡しており、文字通り命がけの任務であった。

 ベネズエラや先進国への派遣は外貨稼ぎだとしても、容易に外貨を支払えない貧しい国々に対しては無償で危険な任務に医師を派遣し、この姿勢こそがキューバ革命の精神であるとアピールする。

 このイメージ戦略のうまさにより、キューバは国際社会である程度のプレゼンスを獲得していると言える。

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