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地方分権時代における国民保護 - 川島佑介 / 行政学

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国民保護法とは

テロや戦争に直面してしまった際に、少しでも被害を抑えることを目的とした法律が存在する。2004年に成立した国民保護法である。2017年に北朝鮮からのミサイル発射が相次いだ際に流行語となったJ-アラートも、この法律を運用面から支えている。

国民保護法は、住民を安全な場所へ導く避難、負傷者や避難者のケアにあたる救援、事態の鎮静化を目指す対処という大きな三本柱から成っている。

全体的には、下図のような構造となっている(内閣官房 国民保護ポータルサイトより)。国の指示を受けて都道府県が動き、さらに都道府県のもとで市区町村が実働を担う形となっており、その関係性は、「国→都道府県→市区町村」という上下関係の矢印で表現されている。集権的な法制度が整えられていると言えよう。

守るべき対象の住民と向き合うのは市区町村の行政組織である。テロや戦争というと、国家間の関係や国レベルの対応がイメージされてしまうが、実際に住民の生命や財産を守る働きを期待されているのは市区町村である。この期待は、国民保護法が成立する5年前(1999年)に成立した地方分権一括法によって一層高められている。日本の国民保護は、実は、地方分権化の動きのなかでの運用が想定されているのである。

国民保護は、有事に向けて国が主導するものという印象があり、また法制度としても国が指示を行うという形で集権的になっている。しかし運用実態としては市区町村レベルで主体的に取り組まなければならないという形で分権的になっている。法制度と運用実態にねじれが存在する。これが看過できない問題点をもたらしているのが、小論の主題である。

小論での検討を通じて、安全保障の論議で後ろに追いやられてきた感のある、有事に際して日本国内で被害の出る現場でどのような対処が行われるのか、という面からも光をあてることを企図している。


出典:http://www.kokuminhogo.go.jp/gaiyou/shikumi/index.html

国の仕事としての国民保護

そもそも、自然災害や大事故は行政の努力によって防ぐことはできないため、災害対策基本法は、そこに立地している市区町村に対応する責任を負わせている。他方で、テロや戦争は、国家レベルの外交の失敗や、政治・経済状況の悪化によって引き起こされ、特定の地域が被害を受けたとしても、その責任を当該市区町村に負わせることは適切とは言えない。そこで、国民保護法は、国に責任を負わせている。

したがって、自然災害対策が自治事務になっているのに対して、国民保護は法定受託事務となっている。自治事務とは、地方自治体が任意で行う事務のほか、地方自治体自らがやることと法令によって定められているものである。

例として、都市計画の策定や、国民健康保険の給付、公共施設の管理が含まれる。法定受託事務とは、本来は国が果たすべきであるが、地方自治体に委ねられており、かつ国においてその適正な処理を確保されている事務である。国政選挙の実施や生活保護の実施が具体例として挙げられる。

自然災害が発生した際、災害対策本部は市区町村の判断で設置される。それに対して、あくまでも国に責任のある国民保護においては、国民保護対策本部の設置は国の指示による。具体的な措置である、避難・救援・対処も国から指示が下りてくる形である。

ちなみに対策にかかる費用も国が負担する。こうした点に表れているように、国民保護法では、国民保護は国の仕事として位置付けられており、国の指示に基づいて、都道府県を通じて市区町村が動く形になっている。

市区町村の仕事としての国民保護

とはいえ、特にテロの場合では、現場に位置する市区町村がいち早く情報を入手しているだろう。また戦争でも、現場に近く、現場をよく知る市区町村ができることは決して小さくないはずである。

そのため、実際の運用にあたっては、市区町村にも裁量を持たせている。すなわち、市民への啓発、行政組織の編制のあり方、市区町村国民保護計画や避難パターンの策定、国民保護訓練、有事の際の緊急措置という多くの具体的分野にわたって、各市区町村はそれぞれの地域の実情に即して、創意工夫をこらしていくことが求められている。

概して言うならば、「国民保護を発動するか否か」と「何を目的とするか」は国が決めるが、「どうやってやるか」と「どの程度やるか」については市区町村に一定の裁量が与えられている。

分権的であれば、市区町村間の多様性が高くなってくるはずである。分権性による多様化は、自然災害対策をイメージしてもらうとわかりやすい。沿岸部であれば津波や高潮に備えて浸水対策を考えるだろうし、火山周辺であれば噴火対策を推し進める。

危険物を取り扱う工場があれば、大事故対応も考えるだろう。このように市区町村は自らの立地や施設の状況を踏まえて、それぞれに適した対策を講じていく。国民保護においても、実際、その具体的な業務の市区町村間の多様性は高い。

第一に、市区町村国民保護計画の多様性である。地方自治体によって、公開のされ方やページ数などは大きく異なる。中には、相当オリジナリティのある国民保護計画を策定しているところもある。

第二に、有事の際の避難計画である、避難実施要領のパターンの作成状況である。2019年3月1日時点では、1741ある市区町村のうち、2パターン以上作成済みは782団体(45%)、1パターン作成済みは199団体(11%)、作成中は82団体(5%)、未作成は678団体(39%)となっている。

814の市区のうち539団体(66%)が作成済み、744の町のうち371団体(50%)が作成済み、183の村のうち71団体(39%)が作成済みとなっており、大きい市区町村の方が策定が進んでいる傾向にあるが、都道府県別に見ると、地方や都市化度で特定の傾向はみられない。

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