
韓国で“第2の曹国(チョ・グク)事件”と呼ばれる騒動が起きている。剥いても剥いても疑惑が出てくることから「タマネギ男」と呼ばれた曹国・元法相の再来のように、疑惑が次々に噴出しているのである。
これは、元慰安婦の韓国人女性が、これまで運動をともにしてきた市民団体とその前代表の現職国会議員を告発したことがきっかけだった。ソウル在住ジャーナリストの藤原修平氏が報告する。
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韓国の“正しい歴史”に、激震が走っている。ことの発端は、5月7日に大邱市で開かれた記者会見だった。
元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)さんが、これまで30年にわたり活動をともにしてきた支援団体である正義記憶連帯(韓国挺身隊問題対策協議会=挺対協から名称変更。以下「正義連」)と、2005年からその代表を務めた尹美香(ユン・ミヒャン)氏を告発したのだ。
李さんは、正義連が主催する元日本大使館前で毎週水曜日に開かれる抗議集会(以下、水曜集会)にもたびたび姿を見せ、日本政府からのいわゆる「公的謝罪」を要求してきた人物としても知られている。
今回の告発のなかで衝撃を呼んだのが、その水曜集会で集められた寄付金が「どこに使われたのかわからない」という指摘だ。
5月15日にはソウル西部地検が正義連と尹氏に対する捜査に着手した。正義連は2016年からの4年間に、女性家族部や教育部(部は日本の省に相当)、ソウル市から総額13億4308万ウォン(約1億1770万円)の補助金を受け取っている。
年別に見てみると、2016年は1600万ウォンだったが、翌2017年にはその10倍近い1億5000万ウォン、2018年は4億3000万ウォン、2019年は7億4708万ウォンと、文在寅政権になった2017年から毎年補助金の額が飛躍的に増大している。
にもかかわらず、2017年から2019年まで国税庁に提出した資料では、補助金は受け取っていないことになっているというのだ。
尹氏自身の所得をめぐる疑念もある。尹氏は4月に行われた総選挙で与党の比例政党「共に市民党」候補として当選したばかりだが、出馬にあたり中央選挙管理委員会に申告した所得税の額は、夫の分と合わせて640万ウォン(約55万円)だった。
韓国紙「朝鮮日報」は5月11日付の記事で、会計士のコメントとして、「申告された所得税から推定すると、年収は多く見積もっても、夫婦合わせて年収5000万ウォン(約434万円)にすぎない」と報じている。
それにもかかわらず、尹氏の娘は米ロサンゼルス大学カリフォルニア校(通称UCLA)に留学し、ピアノを学んでいるという。学費は1年間で4万ドル(約400万円)と言われるが、この件について尹氏は、「1年にわたり全額奨学金をもらえる大学」を探したと弁明した。
また、正義連はソウル市郊外に「慰安婦被害者のための憩いの場」という滞在施設を4月23日まで所有していたが、その管理は尹氏の父親が一人で行い、施設で暮らしていたことも明らかになった。
一連の疑惑報道を受け、関連記事のコメント欄やSNSには、去年米アカデミー賞を制した映画『パラサイト』になぞらえて、「寄生虫の尹美香」と揶揄する言葉が続々と書き込まれている。元慰安婦の支援という名目で、寄付金などに“パラサイト”してきたという意味だ。
尹氏や正義連といえば、韓国における“正しい歴史”の象徴的な存在である。だが、その本陣が疑惑にまみれていたということになれば、「韓国は不当な日本支配の被害者であるために、日本への謝罪要求は無条件に正しい」という韓国の歴史認識を汚し、韓国社会の“プライド”を損ねることになる。
今回の一連の報道が「日本で嫌韓の材料として悪用されるのでは」との懸念も、韓国メディアからあがっている。
それにしても、慰安婦問題で日本政府に謝罪と補償を要求し続ける急先鋒が本当に“疑惑のデパート”だったのであれば、それこそ歴史の悪用ではないだろうか。5月7日の告発記者会見で、李さんは正義連が主催する水曜集会について「若者に憎しみばかり教えている」と厳しく指摘した。
韓国は日本の嫌韓を気にする前に、“歴史”を謙虚に見直してほしい。