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コロナ後は「演芸場+有料配信のハイブリッド」へ 落語で見られる新たな試みとは - 三上洋

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機材が揃ったプロ向けスタジオから配信

もう一つの人気の理由は、配信クオリティの高さでしょう。

配信は東京・中野にあるJUNSスタジオから行われています。JUNSはハイエンドPCやネット配信向けのプロ機材を販売しているメーカーでありながら、様々なネット配信を請け負うエキスパートです。古くは2010年代前半のUstreamブームの頃から、大規模ネット配信を手がけてきました。

東京・中野にあるJUNSスタジオ。照明・カメラ・音響が揃ったライブ配信用スタジオだ

JUNS

文蔵組落語会は、そのJUNSの中野スタジオから配信されています。スタジオ内に高座が作られ、めくり(出演者が書かれた札)もあって出囃子や太鼓の席もあります。演芸場がそのままスタジオに再現されているイメージです。

照明も整備されており、遠隔操作のカメラ、マイクが複数設置されています。ほぼテレビ局のスタジオと同じ設備で配信されているのです。スイッチャー・ミキサーの卓には2名のスタッフが入って配信しています。

スイッチングやミキシングを行う配信卓

JUNS代表取締役社長の須藤香さんに話を聞きました。

須藤さん:
漫才コンビ・米粒写経のサンキュータツオさんからの紹介で、文蔵組落語会の配信をさせてもらうことになりました。落語の高座をスタジオに再現してネットで雰囲気を味わってもらうために照明やカメラに細かく気を配っています。

とのこと。JUNSが販売しているリモートカメラを複数投入して、カメラワークにも力を入れているようです。

配信卓から操作するリモートカメラ。JUNSが開発・販売している

音声ミキシングはJUNSのオーナー・山中潤さんが行っています。

山中さん
落語の配信は緊張しますが本当に面白いです。そして有料できちんとお金が回っていることが素晴らしい。10年前のUstreamブームの頃は『ネット配信はマネタイズが難しい』と言われてきましたが、それをクリアして有料でお客様が楽しんでいただけることがいいですね。

と語ってくれました。

多数の落語家がネット配信を試みるきっかけに

落語家にとって無観客の落語はやりづらくないのでしょうか?

文蔵さん:
そりゃ最初は戸惑いましたよ。普段なら笑いがドーンと来たらそこで間を置くわけですが、それがない。でも慣れればなんてことはないんですね。落語に集中すればプロですから無観客でもこなせます。ゲストに来ていただいている噺家さんも最初は戸惑いますが、コツを伝えると皆さん難なく無観客落語をやられています。

とのことで、無観客は支障にはならないようです。

ゲストの落語家さんとのオープニングトークもある。5月4日「第6回文蔵組落語会」左から桃月庵白酒さん、橘家文蔵さん、林家きく麿さん

ゲストとして招かれた落語家さんの反応もいいようです。全国の演芸場がクローズしていることもあって、ほとんどの落語家さんは高座に上がれていない状態です。

文蔵さん:
ゲストに来てくれた噺家の多くが『落語をするのは1ヶ月ぶりだ』と喜んでくれます。収入がないことも痛手ですが、それ以上に噺家である以上、落語をやりたくてたまらないんですね。

とのことで、ゲストに招かれた落語家にとってもいい機会になるようです。

この文蔵組落語会に刺激を受けて、自分で動画サイトに落語を投稿する落語家さんも増えています。GW前後からYouTubeに沢山の落語動画がアップされていますが、これは文蔵組落語会の影響とも言っていいでしょう。

コロナ後はリアル(演芸場)とネット配信のハイブリッドを目指す

文蔵組落語会は当初はGWまでの予定でしたが、緊急事態宣言延長で演芸場が休止していることもあって、当面の間はオンライン配信を行っていく予定とのことです。

今後の落語と演芸場はどうなっていくのでしょうか。

文蔵さん:
私たちはこのオンライン落語会でしのいでいますが、このままでは演芸場が潰れてしまいます。早く演芸場で落語ができるようになってほしいものです。

天野さん:
緊急事態宣言が解除されれば、演芸場が復活し、落語会もできるようになるでしょう。しかし元の状態に戻るのは難しいかもしれません。

天野さんは、あと1年か2年はソーシャルディスタンスを考えた興行になると予想しています。そうなると今まで定員100人の演芸場が50人しか入れられなくなるかもしれません。今までより少ない客数で演芸場・落語会を運営しなくてはならないのです。

天野さん:
そうなると現場に足を運んでいるお客様だけでは収益的に成り立たない可能性があります。そこで考えているのが『リアルとネット配信のハイブリッド』です。

ソーシャルディスタンスで客数を減らさざるを得ないリアルの演芸場・落語会、それに加えてネット有料配信を同時に行うことで収益をあげようという考え方です。

天野さん:
そのためには今私達は文蔵組という後援会の会費でストックを作り、1回ごとの視聴料をいただくことでフローを回していこうとしています。それをベースに今後は演芸場などと協力してリアルとネットのハイブリッドで落語を盛り上げていきたいと考えています。

天野さんによれば文蔵組後援会のうち7割から8割は首都圏在住で、寄席に足を運びやすい環境にあります。それに対して2割から3割は地方在住のファンだとのこと。

天野さん:
オンライン落語なら地方の方に寄席を楽しんでもらえる。また子どもさんがいるから外に出れない・体調で外出できないなどの方でも落語を楽しんでもらえます。落語の裾野を広げることになると思います。
文蔵組後援会事務局の天野さんが作成したコロナ後の落語会のイメージ。演芸場とネット配信のハイブリッドを考えている(文蔵組落語会資料より)

コロナ後も演芸場やライブハウス、スポーツ観戦などリアルの客が集まる分野では制限が続くでしょう。それでもビジネスとして回していくためには、リアルだけでなくネット配信も加えていこうとい考え方です。落語に限らず、他のエンターテインメント・プロスポーツにもあてはまる考え方と言っていいでしょう。

文蔵組落語会の取り組みはその先駆けと言えるチャレンジです。落語関係者だけでなく、エンターテインメント・プロスポーツにたずさわるすべての方に参考になるでしょう。

▲参考サイト
文蔵組落語会今後のスケジュール
三代目橘家文蔵組(後援会)
JUNS
つながり寄席
つながり寄席(Facebookページ)

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