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新生ヤフー、「爆速」経営への挑戦―宮坂 学(ヤフー(株)代表取締役社長)

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苦境にあえぐアメリカ・ヤフーを尻目に、15期連続の増収増益を果たしたヤフージャパン。しかしビジネスの主戦場がPCからモバイルへ移行しつつあるいま、同社が打った次なる一手は「社長交代」だった。“第二の創業の旗振り役”に、ヤフーの強みを活かした新戦略からIT社会の未来図までを訊く。<取材・構成:内田裕子(経済ジャーナリスト)>

201X年までに営業利益を2倍に


内田:6月の社長就任から2カ月が経ちましたが、いかがですか。

宮坂:いまはまだ、「社長」って急に呼ばれたりすると、「誰? あっ、俺か」という感じもありますけど、すごいプレッシャーがあるかといわれると、そうでもないですね。いまは経営がそんなにシビアな局面ではないからだとは思いますが。ただ社員やその家族、取引先様のことを考えると重責なのは間違いないです。

内田:3月に行なわれた新社長就任発表の記者会見で、当時の井上雅博社長が「変化についていくために、経営陣の若返りが必要だ」と強調しました。多くの若い社員のなかから選ばれたことについて、どのように自己分析されていますか?

宮坂:僕は体が先に動くタイプなので、その役割だったらおまえがいいだろうということなのだと思います。アクティブに動け、と。ただし、私には勢いだけで行ってしまう部分もあるので、考えるのが得意な人を周りに置いて、チームでバランスをとってやろうと思っています。

内田:それにしても、トップ3人が一気に代わるとは、珍しくないですか。ここまで思いきったことをやられると、孫正義さんの焦燥感といいますか、次のステップに行かなくてはまずい、というヤフーの危機感が伝わってくるのですが。

宮坂:焦りというのではないと思いますが、孫も井上も、つねに危機感はあるのでしょう。今回の人事は「やるんだったら思いきってやる」ということだったと思います。

内田:危機感という意味では宮坂社長も、「脱皮しないとヘビは死ぬ」と社内でずっと言い続けてこられました。

宮坂:僕は社長になる前、オークションやショッピングなど、Eコマースをやっていました。そこではユーザーの利便性の点などで、変えなければいけないところがいろいろとありました。そのときに「脱皮しないとヘビは死ぬ」といったのです。

内田:いま、経営のキーワードに挙げているのが「爆速」。すごいスピード感がある言葉ですけれど、これは社長が考えたのですか。

宮坂:はい。でもこんなに流行るとは思わなかったんです。最初はプレゼン資料に小さい字で「爆速的にやろう」と書いただけだったのですが、それがすごいバズ(流行語になる)って(笑)。最近では社外の人にも「爆速、いいよね」っていわれます。「最近、俺も使ってるから」とか、「Tシャツくれ」とかね。

内田:役員のみなさんで着ている、真っ赤な「爆速Tシャツ」のことですね。今日は社長も爆速Tシャツでいらっしゃるものだと思っていました。(笑)

宮坂:今日は広報がダメっていうんで(笑)。でも、この盛り上がりをみていると、社員はこういうものを求めていたのだな、と思いましたね。

内田:爆速Tシャツをみなさんで身に着けるようになってから、何か変化がありましたか。

宮坂:いや、実際はそんなにロマンティックにはいかないですね(笑)。たしかに「爆速」という言葉は浸透しましたが、みんなが賛同しているかというと、そうでもない。大きな組織で変化が起こったとき、パッと動くのはやはり2割程度の社員で、6割の社員は不安やためらいを感じるのが普通でしょう。でも6割がダメだというつもりはありません。そこにいかに「スピーディーにやろう」と思ってもらうか。その段取りをつけるのが僕の仕事です。

内田:経営者の思いを社員に伝えるのはすごく難しいですね。たくさん話せば伝わるかというと、けっしてそうではない。心にグッと刺さる、わかりやすい言葉をポンと投げかけるというのはよい方法だと思いますね。

宮坂:まずわかりやすい言葉で方向づけをしてあげる。ぼくらは新生ヤフーになったばかりでまだ実績は出ていませんが、数字が上がってくれば「爆速」でやっているのは間違ってないと自信がつく。そこに報酬がリンクしてくると、「もっと爆速でやろう」と、歯車が回りはじめると思っています。これだけ「爆速」が広がってきたので、結果を出さないとまずいですね。(笑)

内田:爆速経営で新生ヤフー・ジャパンが向かっていくところはどこでしょうか。

宮坂:今回の社長交代を、社内的には「第二の創業」と呼んでいるのですが、やるべきことがあるなかで、まず「変えてはいけないこと」を確認し合いました。それはユーザー・ファースト。僕らのいうユーザーとは、クライアントではなく利用者のほうですが、ここを大切にする。ミッションとしては、情報技術で人びとや社会や団体の課題を解決する「課題解決エンジン」になる。ITで解決できる課題はまだまだたくさんあります。それを解決していく存在になる。

同時に、会社の成長もしっかりと重視しようとしています。ポータル事業やオークション事業などで、以前は2ケタあった成長率が、いまでは1ケタ前半になってしまっています。これをもう一度、2ケタにしようということです。会社が儲かる、儲からないというのは世の中からの評価です。われわれが課題解決エンジンとして評価されていれば、結果は利益に表われると思っています。

この前、公約として、営業利益を201X年までに2倍にするという話をしました。最長で2019年だとしても、年間10%ずつ成長しないと達成しません。2ケタ成長することは、いいサービスをつくることにつながると思っていますので、やはり2ケタ成長にはこだわっていきたいと思います。

内田:成長率は、つねに新しい価値をユーザーに提供しているという証しということですね。

宮坂:そうです。ユーザー・ファーストの延長線上です。短期的にやるとヘンなほうに行くリスクがありますが、長期で、いまから最大7年かけて利益を2倍にしていくというのは、わりとよい目標設定だと思います。

「信賞」はいいけど、「必罰」はダメだ


内田:その際、利益を2倍にするための次なるステージは、スマートメディアですね。

宮坂:ヤフーの第一の創業は“PC・インターネット大陸”が舞台でした。どこよりも最初にパソコン・インターネット大陸の可能性を信じて、みんなで移住し、そこに大きな蔵をつくったわけです。今度は“スマートフォン・インターネット大陸”を見つけたので、やはりそこは躊躇なく行って、そこでも蔵を建てましょうと。ですから、4月から、CMO(チーフ・モバイル・オフィサー)というポジションをつくって、スマートフォンへのシフトを本格的にやっています。

内田:では具体的に、“スマホ大陸”は“PC大陸”とどこが違うのでしょうか。

宮坂:やはりスキルが変わると思っています。PC大陸は15年やっていますので土地勘もありますし、地図ももっています。ところがスマホ大陸では地図もコンパスもないなか、すごいスピードで新しいことが起こっている。そこで「爆速」なんです。「いま自分の周りで何が起こっているのか」という状況の把握、「この先に何があるのだろう」という予測、それから意思決定。周りの状況はどんどん変わり続けるなかで、この意思決定サイクルをどこまで速くできるかということですよね。

内田:これまでのPC大陸のときのスピードでは、これからは通用しない?

宮坂:冒険するフィールドが変わったので、そこに合う組織能力が必要ですね。だいたいの会社は週1回の会議で動いていますが、状況を把握するのに、「もっと調べろ、もっと調べろ」と。調べたら今度は、「もうちょっと考えよう」と。こんなことを3回繰り返すと決定は3週間も先になるのです。それだけ時間をかけても結果は大して変わらない。だったら1週目で決めてしまえばいい。そうすると2週間も早くリリースできるので、ワンチャンスできる。だから私は、間違ってもいいから決定しろといっています。

内田:いまのお話はすごく意外で、ヤフーのような若い会社は権限委譲が進んでいて、現場の人たちがどんどん意思決定できる環境にあるのだと勝手に思っていました。そこは、ヤフーも大企業になってしまった、ということですか。

宮坂:たしかに、以前よりは組織が重くなっているということはありますね。そこで意思決定のスキームを変えました。以前は承認ステップが8つもあったのですが、これを2つにしました。これだけでもずいぶん変わると思います。

内田:トライ・アンド・エラーを多くしていこうということですね。

宮坂:そうですね。

内田:そうはいっても社員としては、ヤフーのなかで評価されていくにあたってエラーはしたくない。失敗する勇気がない人は何もやらなくなると思いますが、社員の評価基準はどうするのですか。

宮坂:すでにどんどん変えています。まずは「信賞必罰」という言葉を使わないようにしろといっています。「信賞」はいいけど、「必罰」はダメだと。失敗したら罰なんていうのは、ポジティブじゃない。もちろん、会社をつぶしかねない失敗はダメですが、そういう失敗ってなかなかやろうと思ってもできません。だから「あまり気にせず失敗していいよ」といっています。

内田:PCを前提とした、ヤフーがつくり上げてきた世界はマスコミに近づいてきたという感じがあります。一方、スマートフォンを入り口としたネット世界はもうちょっと個別のニーズに寄り添う世界のような気がしますが、展開するサービスの差異は出てきますか。

宮坂:ぼくらは「課題解決をITでやるサービス業」であるという自己定義をあらためてしたわけですが、結局、スマートフォンでもやりたいことは課題解決です。国民的な広い課題に応えるのだったら大きなサービスになりますし、ニッチな課題であればスマートフォンはそういうこともできると思います。とはいえ、ヤフーはユニバーサルで、たくさんの人が使う舞台が得意なので、たくさんの人が直面する課題や不満に応えるほうがよい。ニッチなセグメントのなかでも課題はありますが、それはベンチャーがやる仕事で、ぼくらは邪魔せず支援する側に回らないといけない。

内田:PCの世界で築き上げてきたものを、そのままスマートメディアの世界でもやろうということですね。

宮坂:人間が困っていること、課題というのは、そんなに変わるものではありません。明日の天気が知りたい、検索したい、コミュニケーションを取りたいというニーズは、PCもスマートフォンも変わりません。ただ、解答用紙の書き方は変わってきます。たとえば、パソコンだったら電子メールでしたが、スマートフォンだとフェイスブックとか、LINE(NHN Japanが開発した、無料電話やチャットが送受信できるアプリ)を使ってのコミュニケーションになっていますね。

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