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国家公務員の定年延長はコロナ禍で許されない?

 全経済産業労働組合副委員長の飯塚盛康さんが、公務員の定年延長について書いてくれたので、以下紹介します。

国家公務員定年延長に疑問符 自民・世耕氏 時事通信 2020年5月19日

 自民党の世耕弘成参院幹事長は19日の記者会見で、検察庁法改正案の今国会成立断念により先送りされることになった公務員の定年を65歳に引き上げる国家公務員法改正案に関し、「経済が苦しくなる中、公務員の給料が下がらないまま定年延長していいのか」と述べ、疑念を呈した。

 世耕氏が疑念を呈している国家公務員の定年延長について考えてみました。

 まず、国家公務員の処遇について説明します。

 国家公務員には一般的な事務を行う行政職、国税専門官や労働基準監督官のような専門官、国立病院の医師、看護師、国立学校の教師などの種類があり、それぞれに給与表があります。

 国家公務員は労働三権のうちスト権と労働協約権が制約されているので、国家公務員の給与や待遇を決める人事院が存在します。

 人事院は「情勢適応の原則」と言って従業員50人以上の民間企業の給与や待遇を調査して、その結果に基づいて年に1度、国会と内閣に「人事院勧告」を提出します。

 人事院勧告を反映した給与法等が国会で可決されることによって現実のものとなります。

 従業員50人以下の民間企業も含んで調査すべきだという声も聴きますが、都道府県単位や大きな市単位の行政機関(ハローワークや法務局)の多くが50人以上なので、妥当性があると考えています。

 一部の政治家などが「公務員の賃金は高すぎるからもっと賃下げすべきだ」と主張していますが、人事院によると、2019年度の国家公務員採用試験で、一般職(大卒程度)の申込者が前年度比11%減の2万9893人で3年連続のマイナス。3万人を下回ったのは、現行の試験区分となった2012年度以降初めてでキャリア官僚と呼ばれる総合職の申込者も減少が続いています。また、国税専門官や労働基準監督官などの専門職試験(大卒程度)の申込者も前年度比11.1%減。下のグラフにあるように、国家公務員志望者はこの8年で一般職36%減、総合職27%減になっています。公務員賃下げを主張する政治家のみなさんには、こうした公務員志望者が激減している状況を少しは考えてもらいたいと思います。

 それから、公務員賃金にかかわってよくある批判が、国税庁の「民間給与実態統計調査」の民間労働者の平均賃金と比べて、公務員の賃金が高すぎるというもの。国税庁による民間労働者の平均賃金はパートやアルバイトなど非正規労働者の賃金も入っての平均賃金です。民間の数字は、正規労働者と非正規労働者の平均賃金なのに、公務員の数字は正規公務員だけの平均賃金と比べて「公務員の賃金は高すぎる」と言っているわけです。公務職場にも「官製ワーキングプア」の状態に置かれている非正規公務員が多数いて、厚生労働省では53%が非正規公務員です。

 国家公務員の賃金は、人事院勧告によってベースアップが決まりますが、昇給は「人事評価制度」によって基準の2倍上がる人もいますし、逆に半分以下、あるいはゼロという人もいます。

 また、係員、係長、課長補佐、課長、次長、部長、局長などの職務によって給与が異なりますが、上の職務に行くにも「人事評価制度」が使われていますので、年功序列も崩れつつあります。

 賃金は55歳になると昇給停止になり、人事院勧告によるベースアップだけになりますが、55歳以上はここ数年はほぼゼロです。実質賃金が下がり続けているので、国家公務員の賃金が60歳まで上がり続けるというのは誤解です。

 現在の国家公務員の定年後の働き方は、同じ役所で再任用するか、民間会社などに就職するか(役所があっせんする「天下り」はないことになっています)です。

 ちなみに国歌公務員は身分保障があることから、雇用保険の適用はないので、60歳でリタイアすると翌月から無収入になってしまいます。

 再任用後の多くの職員の賃金は25万円から27万円ですが、扶養手当、住居手当、寒冷地手当などは支給されません。

 また、この賃金額は週5日勤務した場合ですが、週5日勤務になると定員にカウントされるので、新規採用者が少なくなるというので、多くの職員が週4日か週3日の勤務になります。

 仕事の内容は60歳前と同じ人が多いので、仕事をこなすために長時間残業をしている人もたくさんいます。週4日勤務だと手取りで20万円を切るので、厳しいと思います。

定年延長後の給与は600万円は本当か?

 昨年度の人事院の調査では行政職の平均給与は411,123円(平均年齢43.4歳)なので、ボーナスを含む年収にすると約678万円ですが、これは高給のキャリア官僚も含めた給与なので、ほとんどの国家公務員が退職する時の本省課長補佐、管区機関の課長、課長補佐の平均給与は約40万円です。55歳で給与は増えないので、年齢を加味しても60歳で45万円、年収で740万円というところだと思います。これの7割なので518万円というのが妥当なところかと思います。

 それでは、定年後518万円が多いのかですが、仮に民間企業で60歳の時の給与が45万円、ボーナス4.5カ月とすると、民間企業では60歳以後働くと給与が60%になると高年齢雇用継続基本給付金が最高で15%もらえます。

 仮に60%まで給与を下げても給与と雇用継続基本給付金を合わせると69%になります。(高年齢雇用継続基本給付金は非課税、社会保険料もかからないので手取り額は70%以上になりますし、企業は社会保険料の負担が減るので60%まで下げる企業が多い)

 給与ベースでは国家公務員も民間もあまり変わりませんが、60歳以後のボーナスの金額で差が出る可能性があります。

 また、高年齢雇用継続基本給付金は2025年から半減されるので、民間の給与の変化もみていく必要があります。

 最後に高年齢者雇用安定法は、事業主に対して「65歳まで定年年齢を引き上げ」「希望者全員を対象とする、65歳までの継続雇用制度を導入」「定年制の廃止」のうちいずれかの措置を講じることを義務付けています。これにより、2019年度には「希望者全員が65歳以上まで働ける企業」の割合が78.8%にまで達しています。

 加えて、同一労働同一賃金の観点からいえば、今後は高年齢労働者も含め、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保が実現されていくことも見込まれています。これは国家公務員も同様です。国家公務員の定年延長に反対するのではなく、公務員も含めた働く人が、年金が受給できる65歳まで働きがいと安心感を持って働き続けることができるかを考えていくべきだと考えます。

 最後に公務員賃金と財政の問題です。冒頭に紹介した世耕氏もそうですがコロナ禍において財政出動が多くなっているので公務員賃金を削減すべきとか、「公務員は10万円給付受け取り禁止」などと橋下徹氏吉村洋文大阪府知事などが主張していますが、地方公務員の7.4%(20万3千人)は医師・看護師など医療従事者で、5%(13万5千人)は保健師など衛生行政従事者(総務省2019年データ)です。フランスでは医療従事者の残業代5割アップと手当で23万円を支給しています。

 下のグラフにあるように、そもそも日本の公務員は人数も人件費もOECDの中で最低です。コロナ禍の最前線で奮闘する医療従事者や衛生行政従事者、コロナ関連の給付金・補助金・助成金等の実務を行うのも公務員です。日本は公務員が少なすぎたためコロナ対応にさまざまな支障が出ているのです。逆に公務員の人数を増やし、公務員人件費を他国並に引き上げていくことこそ必要なのです。

(全経済産業労働組合副委員長・飯塚盛康)

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